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11、これは蠱毒かな

 「アイツらなにやってるんだ。お頭に刃を向けるなんて」 


 「知らねーよ! それより早くお頭をお守りしろ!」


 「いやああああ!」


 「黙れ!」


 周囲のどよめきは毒ナイフで一人を殺った時より騒がしい。重なる裏切りと殺人で徐々に混乱していく。そんな中、状況を飲み込めないやつが居れば、冷静に対応する人もいる。

 そしてストレスを耐えられなくなったのか。メイドの何人かは叫びだした。それにつられたように泣きわめきだしたメイドも出た。


 こんな混乱のなか私はある考えが頭によぎった。


 『盗賊たちを疑心暗鬼にして殺し合いさせれば楽なのでは?』


 その状態にするために私は思いついた方法をすぐに実行に移った。


 「ん? なんでオレ剣を持っている」


 「死ね! 裏切り者め!」


 バーン


 銃を構えたやつに乗り換えてそのまま銃を適当に撃った。


 銃は前装式の撃った後、長いリロードしないと次が撃てないような古い銃だ。


 最初は銃で全員を殺すつもりだったが、やはりリロードが長い分だけ、他のやつを殺すときは効率が悪いし、どうやってリロードすればいいかも分からない。


 「うぅ……」


 一人が苦しそうにお腹を押さえながら倒れた。

 運よく一人を当てたようだ。


 「おい!おまe……」


 なにか言われる前、次のやつに乗り換えて剣で斬りかかった。


 一撃を与えるごとに他のやつに乗り換える。そういうサイクルを繰り返していくうちに攻撃が避けられたり、逸らされたりすることも多くなった。


 やがて誰に憑依しても攻撃は当てられなくなった。


 今、この広間で聞こえるのは息を切らしたような忙しい呼吸のみ。そして盗賊の誰も目が虚ろでありながらもささやかな動き一つも見逃さない。指一本を動いたことすら注目を浴びることになる。


 そして、私を含む全員が武器を構えている。こんな姿勢を長く維持するなんて精神的にも肉体的にも大きな負担にしかならない。


 さて、疑心暗鬼にはなったけど、どうすれば殺し合いをさせられるのだろう。


 「おい! お前ら一旦冷静になれ!」


 お頭であるヒゲは部下たちを落ち着かせようと沈黙を破ったのを機に姿勢を崩して楽になったが……


 「黙れ!」


 部下の一人がすぐに無作法な口調でそう言った。もはや敬意のKもない。

 

 「なっ!」


 このヒゲが見開いた顔も見飽きたな。まぁ、仕方ないか。


 「お前も他のやつと同じだ! さっき誰かの背後に回り込んで殺したのをこの目で見た」


 「そうだ!お前なんかもうお頭じゃない!」


 「お前も黙れ!さっき俺を刺そうとしたのは覚えてるぞ!」


 「てめぇら! 落ち付け!」


 そしてそのまま盗賊たちは口喧嘩に発展していく。

 盗賊たちはもう誰にも耳を貸そうとしないほど、人間不信になったようだ。


 これでもう一押(ひとお)しすればいいのだろう。


 私はそう思っている時だった。

 

 「ぐふ」


 誰かが奇声を上げた。

 

 奇声がした方向に見やると一人が地面に倒れた。見る見るうちに倒れたやつを中心に血だまりが広がっていく。


 状況まだ飲み込めない私に説明するように1人がこう言い放った


 「お前ら全員死ね! ぶっ殺してやる」


 どうやら私はもう何もしなくとも殺し合いになりそうだ。

 

 さっきの奇声は斬られた時に反射的に発したものだろう。


 「できるものならやってみろ!返り討ちにしてやる」


 「もう誰も信じられん」


 そうやってチャンバラが始まった。




 カキーン


 やけに響き渡る剣の落ちた音がさっきの騒々しさを嘘のよう思わせた。


 何分経ったかは知らないが、今立っている盗賊は1人しかいない。そしてそいつは他でもない、盗賊団……いや、もう「元」盗賊()になったか。その特徴的なヒゲも血でベタベタになったお頭1人しか立っていない。


 両手を膝に当てて今も倒れそうな身体を支えながらぜいぜいと酸素を求めて早い呼吸を繰り返している。両目には生気なんてもうない。身体のあちらこちらにもはっきりと見える傷はいくつもあった。この人を見れば誰もこう思うのだろう。


 ボロボロと。


 だからだろうか。

 怯えていたメイドたちの目に不気味な活気が宿ったのは。


 「……くそぉ……何で……こうなった…おい…お前ら誰か……水をもって…来い」


 そんな何の威嚇もならない口調の命令を従うメイドは一人も居なかった。メイドたちは妖しい微笑みでお互いを見合わして頷いた後、散らばって盗賊たち持っていた武器を拾い始めた。


 「おい……なにするつもりだ」


 メイドたちは沈黙のままヒゲを囲んだ。そして殺意をむき出した表情で拾った武器を高く持ち上げた。


 「や、やめろおおおおおおぉ!」


 「皆さん! 待ってください!」


 ちょうどメイドたちが手に持った武器を振り下ろそうとした時、聞き覚えのある声がそれを止めた。


 声の主を確認しようと私とメイドたちは視線を広間の入り口に移した。


 人の影が2つ。ぱっと見2人は手をつないでいる。一人は寝間着姿、もう一人はメイド服。顔をよく見ると…


 『ヒャリエーお嬢様!!!』


 メイドたちは揃ってそのうちの1人の名前を言った。


 しかし、お嬢さんは今更何しに来たのだろうか。

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