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ネット小説家になろうクロニクル  作者: 津田彷徨
第三章 奔流篇

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第三十一話 エピローグ! 続巻と緊急重版が決まり、商業での再スタートを切ることが出来た僕。そんな僕が、小説を読んでくれた全ての方に、『ネット小説家になろう』と強く呼びかけたいと思った件について

「先輩、遅いですよ」

「まったく、二人して何してたんだ?」

 待ち合わせの場所で先に待っていた二人。

 彼らは僕たちの姿に気づくなり、笑いながら口々に文句を言う。

 彼女と顔を見合わせると、僕が代表して彼らに答えた。


「はは、ちょっと急な連絡が入ってね」

「急な連絡?」

「うん。まあ行きながらね」

 軽く首を傾げる優弥に向かい、僕はニコリと微笑みながらそう告げる。

 そうして僕たちは、ゆっくりと目的地に向かい歩き始めた。


「でも、久しぶりね。四人揃うの」

 一同の顔をぐるりと見ながら、由那はそう口にする。

 すると、すぐに優弥が意味ありげな表情を浮かべてみせた。


「お前らはいつも会ってるんだろうけどな」

「まあね」

「もっとこう、照れ隠しとかさあっても……って、昴にそういうのを求めるのが間違いか」

 僕の返答が気に入らなかったのか、優弥はやや投げやりな口調で嘆いてみせる。

 由那はそんな彼にやや呆れた視線を向けながら、如月さんに話を振った。


「で、愛ちゃんは最近どう? 学年が上がっていいことあった?」

「それがですね、実は四人も新入部員が入ってきたんです!」

 如月さんは満面の笑みを浮かべながら、嬉しそうにそう答える。

 それを受けて、僕は思わず驚きの声を上げた。


「ほんと! 四人って、すごいね!」

「ってことは、今は五人か。あの部屋がちょっと狭く感じそうだな」

 優弥のその言葉を耳にして、僕も確かにと頷く。

 一方、由那は何か考え込むような素振りを見せると、如月さんに向かい疑問を口にした。


「でも愛ちゃん、今年に限ってそんなに文芸部志望が多かったの?」

「えっと……ほんとはちょっとだけズルをしまして」

 由那の問いかけに対し、如月さんはぺろっと下を出しながらそう答える。

 僕はそんな彼女に向かい、すぐにその意味を問いかけた。


「ズルって何?」

「実は勧誘の際に、これを見せまして」

 如月さんはそう口にすると、手にしていたトートバッグの中から二冊の本を取り出す。

 それは『転生英雄放浪記』と『悪役令嬢に転生したけど、気に入ったデザインの服がなかったので、自分で作ることにしました。』。

 つまり僕たち二人の本に他ならなかった。


「なるほどね。でも、それって別にズルじゃない気がするけど」

「いいえ。先輩方のデビューが決まったのって、うちの部に入る前ですよね。だから部のおかげって印象になるのは、ちょっとズルいかなって思ってまして。もちろんちゃんと経緯は説明しましたけどね」

 そう口にしながら、如月さんは苦笑を浮かべる。

 すると、優弥が大きく頷きながら笑い声を上げた。


「はは、別に構わねえと思うぜ。というか、こいつと色々ベコノベで戦略を立ててたのも、愛ちゃんに引き継がれた感じだな」

「あんたたちみたいに、色々企んでやったわけじゃないでしょ。一緒にしてあげないでよ、もう」

 由那は優弥をジト目でにらみながら、疲れたようにそうこぼす。

 だが如月さんは、意外なことに優弥に向かってフォローを入れた。


「あ、でもちょっとだけ準備してることがあるんです」

「準備?」

「はい。実はここにサインペンがありまして」

 僕の問いかけに対し、如月さんはトートバッグから更にサインペンを取り出す。

 それを目にして優弥は、すぐにその意図を察してみせた。


「つまり、こいつらのサイン本を置くつもりだな?」

「はい。何しろ、先輩方はうちの部が誇るOBですし、実際に新入部員のうち、二人がシャンゼリゼワールドの作品を書き始めているんです。だから是非にって」

「へぇ、シェアード使ってくれてるんだ」

 如月さんが口にした言葉に、僕は思わず嬉しくなる。

 すると、優弥が顎に手を当てながら、僕たちに向かってその口を開いた。


「実際ここのところ、かなり増えてきてるぜ。ベコノベのシェアードの設定を書いたページの感想欄は日々色んな作者がアイデアや提案を書いてきてくれているし、一昨日の日間一位もシェアード作品だったからな」

「そしてそんなシェアードの一つに、僕たちの後輩も加わるわけ……か。やってよかったね、ほんとに」

 優弥の言葉につ続く形で、感慨を覚えた僕はそう口にする。


「まあ元々ベコノベって、色んなお約束やテンプレが少しずつ出来てきたわけだし、その意味では俺たちも次に引き継げるものを作れたのかもな」

「なんかその言い方だと、引退したみたいじゃない。私も昴もまだ現役よ」

 由那は頬を軽く膨らませながら、不満そうに優弥に向かってそう告げる。

 すると優弥は両腕を左右に広げながら、すぐに反論してみせた。


「そりゃそうだが、お前は直接ベコノベには書いていないから、なんか引っかかるな」

「あら? シャンゼリゼワールドの感想欄で、誰が一番喜ばれているのだったかしら?」

 その彼女の言葉に、優弥は反論出来ず思わず言葉を詰まらせる。

 実際のところ、今回のオープンシェアードに参加した作者のコメントや感想において、由那のイメージイラストが最も言及され喜ばれていることは紛れもない事実だった。


「直接物語を書く人だけじゃないってことだよね。由那みたいにイラストを描いてくれる人はもちろんだけど、今回のシェアードにかかわらず様々な感想をベコノベで書いてくれる人や、ポイントやお気に入りを付けてくれる人、それにもちろん純粋に物語を楽しんでくれる読者さんも含めて、みんなでベコノベは形作られて来たんだと思う。そしてこれからもね」

 そう、ベコノベの歴史は作者だけ紡がれてきたものではない。

 運営が用意したベコノベというサイトに、書き手、読み手にかぎらず様々な人が訪れ、そしてこれまでの流れを生み出してきたのだ。


「確かに黒木先輩の言うとおりですね。でもうちの新入生たちは、シェアードで良い作品を書いて、黒木先輩に続くって気合入れてるますけど」

「はは、それは恥ずかしいけど嬉しい……かな」

「はい。なので私も負けないように小説を書いていきたいと思います!」

 僕に向って微笑みながら、如月さんは僅かに強い口調でそう宣言する。

 そんな彼女を目の当たりにして、由那は苦笑いを浮かべてみせた。


「なんというか、愛ちゃんもたくましくなったわね」

 由那のその言葉に、いつの間にか握っていた拳を解くと、如月さんは僅かに恥ずかしそうに顔を赤らめる。


 初めて会った時から、彼女はそうだった。

 文芸部のために真剣に勧誘を行っていた如月さん。


 実際に僕たちは、彼女の熱意があったから文芸部に所属したとも言えた。

 そんな彼女の情熱が一層強まっていることを確認し、僕は思わず嬉しくなる。


 一方、そんな当の本人は、気恥ずかしさからか慌てて話題の矛先を変えようとした。


「えっと、その、それで先輩方は最近何か変わったこととかありましたか?」

「変わったことねぇ……俺は主にこいつらの面倒を見てるくらいで変わったことはないな。あえて言うなら、今度新しいバイトを増やすくらいか」

「面倒見られているって言われると、なんか無性に腹が立つわね」

 優弥の発言が気に食わなかったのか、由那は彼に向かい口を尖らせながらそう言う。

 僕はそんな彼らのやり取りに苦笑しながら、一つの疑問を彼へとぶつけた。


「はは、まあシェアードワールドの管理もしてもらっているのは事実だしさ。というか優弥、またバイト増やすの?」

「まあ……な。今も結構キツキツなんだが、どうしてもやりたくてさ」

 僕の問いかけに対し、優弥は苦笑を浮かべつつそう答える。

 途端、由那がボソリと彼に向かい呟いた。


「留年する未来が見えるわ」

「しねえよ! ……たぶんだけど」

 最初の勢いはどこへやら、優弥も自信がないのかその語尾は弱くなる。

 僕は彼らしいなと思いつつ、気になったことを彼に確認した。


「あのやりたいバイトって?」

「皆見さんが連絡をくれたんだ、あのメディアハートの。編集部の手伝いをしないかって」

「え……ほんと?」

 思いもかけぬ返答に、僕は思わず問い返す。

 すると、彼は大きく一つ頷いた。


「ああ。もちろん手伝いだから大したことをするわけじゃないだろけどさ、でも俺も一歩目を踏み出すんだ」

 僅かに恥ずかしそうな素振りを見せつつも、優弥の表情は非常に晴れ晴れとしたものだった。


「夏目先輩も頑張られているんですね!」

「もちろんだ。あんまりこいつらに遅れをとる訳にはいかないだろ。編集長としてはな」

 軽く胸を張りながら、優弥は僕達に向けてそう告げる。

 すると、やはりと言うか迷わず由那が茶々を入れた。


「留年しそうな編集長みたいだけどね」

「だから、なんとかするって……っと、言ってる間に着いたな」

 優弥はそう口にすると、一度その足を止める。

 話をしている間に、僕たちは今日の目的地に着いていた。

 そう、衣山市に存在する唯一の書店、メディブックス衣山店に。


「ともかく、まずは月刊クラリスを探しに行くか……っと、相変わらずすげえぇな」

 店に入ってすぐにある漫画雑誌のコーナー。

 そこには今月号のクラリスがずらりと積み上げられていた。


「今月はまた音原先輩が表紙を描かれたんですね!」

「まあね。来月はコミックの一巻も発売になるし、気合い入れて描いたわ!」

「人気が出てるのは昴の原作のおかげだろ」

 やや誇らしげな調子の由那に向かい、優弥は先程までの意趣返しとばかりに、ボソリとそう漏らす。

 途端に二人の間で視殺戦が始まったが、ほぼ入口に近いこの場所では迷惑極まりない。それ故に、僕は慌てて二人の間に割って入った。


「はいはい、わかったから。次にいこうよ」

 そうしてどうにか二人をなだめ、僕たちはようやく目的地へと辿り着く。

 そう、ベコノベ作品が多く並ぶ書籍コーナーに。


「確か前回はこの辺りに……あれ?」

 前回見つけた場所周辺をぐるりと見回すも、目当てとするものは見つからない。

 すると、如月さんが驚いの声を上げた。


「先輩、ほらこれ! 両方とも、残り一冊みたいです」

 如月さんが手にしていたのは、それぞれ最後の一冊となる『異世界国家再興記』と『異世界駄菓子屋シオン』。

 それを目にして、優弥は感嘆の声をあげた。


「おいおい、日程合わなかったから発売日より一週間遅れたけどさ、でも今回はすげえんじゃね」

「本当に今回はどちらも調子良いみたい。ほら、さっき連絡があったって言ったけどさ、あれってそのことの連絡だったんだ」

 そう、ちょっとばかり集合に遅れたのは、その連絡があったからだ。

 そしてその内容に驚いたからでもあった。


「売上が良いって連絡ですか?」

「うん。緊急重版が決まったって」

 如月さんに向かい、先程石山さんから告げられたばかりの事実を口にする。

 途端、優弥は目を大きく見開くと、僕の顔を見つめてきた。


「重版……って聞ことは!?」

「うん。二巻も期待してるって」

 前回は乗り越えられなかった壁。

 その打ち切りという壁を、僕は……いや、僕たちは乗り越えた。


「まったく、やりやがったな昴」

「おめでとうございます。先輩!」

 目の前の二人は口々に賛辞を言葉にしてくれる。

 僅かにくすぐったい感覚を僕は覚えながら、僕は正直な思いを口にした。


「はは、ありがとう。でも優弥が一緒に企画を考えてくれたおかげだし、如月さんがシェアードをわかりやすくまとめてくれたおかげだし、由那が表紙を書いてくれたおかげだし、何よりベコノベの読者さんが応援してくれたおかげだよ」

 それだけじゃない。

 背中を押してくれた父さんと母さん、競い合った神楽先生、そして指導してくださった津瀬先生。


 色んな人たちが居てくれたからこそ、僕はこの結果を手にすることが出来た。


「さて先輩。折角の記念ですし、この残っていた一冊ずつを買って、外で記念写真取りませんか?」

 二冊の書籍手にしたまま、如月さんは僕たちに向かってそんな提案をしてくる。

 僕たち三人は顔を見合わせるも、由那が最初に同意を示した。


「そうね、卒業式の日も四人では取れなかったし、たまにはいいかもね」

「じゃあ、先輩行きましょう!」

「え……ちょっと愛ちゃん」

 由那の言葉に背を押されたのか、如月さんは彼女を連れてそのままレジへと向かう。

 そんな後ろ姿を目にした僕たちは、二人して苦笑を浮かべた。


「女性陣はほんと元気だよな」

「うん、まったくね」

「じゃあ、俺たちも……って、どうした?」

 彼女たちの後を追おうとした優弥は、僕の本が置かれていた棚を見つめる僕に向かい、そう問いかけてくる。

 僕はそんな彼に向かい、棚から一冊の本を取り、彼へと見せた。


「今、これが隣に並んでいたことに気がついてさ」

「アリオンズライフ……か」

「うん」

 所狭しと棚に並べられた無数のベコノベ作品。

 その中でも、僕にとっては特別な意味を持つ一冊がこの本だった。

 何しろ全てはこの本から始まったのだから。


「これをお前に貸した時から、もうすぐ一年だな」

「そうだね。そこからベコノベに嵌って、小説を書き始めて……」

 そう、ベコノベに出会えたのも、そして作家になることを志したのも、全てはこの一冊からだった。


 だからこそ、僕はこの本と一緒に自分の作品が並べられていたことを本当に嬉しく思う。

 そして同時に、こう思った。


 僕がアリオンズライフからネット小説という新しい世界に出会えたように、僕の小説から新しい世界に出会える人が生まれたら嬉しいなって。


「先輩たち、何かありました?」

 既に会計を終わらせたのか、如月さんたちが僕たちを呼びにやってくる。

 僕は軽く頭を掻きながら、すぐに首を左右に振った。


「いや、はは、なんでもないよ」

「それじゃあ、さっさと写真撮ってお昼にしましょ」

 由那のその言葉と同時に、僕は手にしたアリオンズライフをそっと棚に戻す。

 そして先を行く三人の背中を見て、早足で追いかけようとした。


 途端、ほんの僅かに左足に痛みが走る。


 ああ、確かに失ったものはある。

 なにより、あの時は全てを無くしたんだと、僕はそう思っていた。


 でも、今の僕の前には道がある。

 そしてかけがえのない友人たちが、感謝してもしきれない読者さんたちが僕にはいる。


 だからもしあの時の自分に声をかけるのなら、そしてあの時の僕と同じような思いを抱え僕の本を手に取ってくれた人がいるなら、今の僕はこう伝えたいと思う。








 君も一緒に『ネット小説家になろう』って。






 





 本作はこの最終話を持って完結となります。


 この作品に関わってくださった皆様、当作品の掲載と書籍化をご許可くださったヒナプロジェクト様、そして約一年に渡り当作品にお付き合い下さった読者の皆様にこの場をお借りして深く感謝申し上げます。本当にありがとうございました。


 また新たな作品で皆様とお会い出来るよう頑張ってまいりますので、どうぞ今後とも宜しくお願い致します。


 平成29年5月12日 津田彷徨

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