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ネット小説家になろうクロニクル  作者: 津田彷徨
第三章 奔流篇

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第二十四話 相互評価工作を打ち破れ!? 百人規模で集団相互評価工作を繰り返すドナウ同盟。ランキング内にそびえ立つ彼らの厚い壁を破るために、二隻の黒船とともに新たな一手を打つことにした件について

 優弥の合格発表から一週間。

 僕たちは今が勝負どころだと走り続けていた。


「日間ランキングで四十位まで上がったか」

 僕が差し出したスマホの画面を目にして、優弥はそう口にすると満足そうに頷く。


「うん。シャンゼリゼワールドの資料集もアクセスが増えてきている。ポツポツと感想欄に質問が来るくらいにね」

 優弥に向かってそう告げると、僕は思わず苦笑する。


 シャンゼリゼ。

 ギリシア神話に記された楽園の野から取ったその名こそ、僕たちの作り上げたオープンシェアードワールドの名前である。


 『異世界国家再興記』を開始すると同時に、僕たちはその全資料をイラスト付きで公開していた。

 そして再興記がランキングにおいてその順位を上げていくごとに、少しずつではあるけどシャンゼリゼのページへのアクセスも増え、内容に関する質問まで来るようになっていた。


「すげぇなこれ、生態系とか食糧事情とかそんなとこに質問が来るわけか」

「考えてなかったわけじゃないけど、人によってはかなり細かく知っておきたいんだろうね。如月さんが対応してくれなかったら、多分お手上げだったよ」

 そう、シェアードワールドに関する設定の管理や説明は、如月さんが全てを引き受けてくれていた。


 もちろん、最初は僕自身が全て対応するつもりだった。

 でも、そんな僕に向かい、役割を分担した方がいいと言ってくれたのが彼女だった。ベコノベと一番接点が少なかったから、逆に質問される方と同じ目線で答えれると思うからと。


 そうして、ベコノベに公開しているシャンゼリゼワールドの感想欄を定期的に見てくれて、返信用の文章を僕へとメールしてくれている。

 その一つ一つがわかりやすく理路整然としたものであり、正直自分でやっていたらと思うと、冷や汗をかくことがしばしばであった。


「へぇ、やっぱり持つべきは優秀な後輩だな」

「後輩であると同時に部長だけどね」

 優弥の発言に納得しつつ、僕は補足を加える。

 それに彼も苦笑を浮かべると、話を感想欄の中身へと移した。


「しかし、ここでもジャガイモの質問が来てるとはな。つくづく、みんな好きだよなぁ」

 感想欄にて尋ねられていた、シェアードワールドにおける農作物の話。

 その中に一例として出されていたのがジャガイモであり、僕はそれを目にしてもう一つの野菜の存在を口にした。


「トマトの方は来ていなかったけどね」

「じゃがトマ警察か。懐かしいな」

 初めてランキングを上がった際に、僕の感想欄に書き込まれた質問の思い出。

 それを脳裏に蘇らせながら、僕たちは笑う。そして同時に、僕自身は自分に対する一つの戒めを敢えて口にした。


「ともかく、僕たちがこのシェアードワールドの仕組みを作ったけど、僕たち自身が警察と成り過ぎないように注意しないとね」

「そうだな。あんまりにも軌道がずれた場合は考えないといけないだろうけど、目的は誰もが楽しめる砂場を用意することにあるからな」

「砂場かぁ、確かにそうだね」

 優弥の口にした例えを聞いて、僕もなるほどと頷く。


 確かに僕達が提供するものは、ベコノベという公園における一つの砂場。

 そこでは砂という道具を使い、自由にそして思うがままに創造物を形にしてくれればそれで良い。

 わざわざその場に土足で踏み入り、作られた創造物を壊したり勝手に弄る必要なんて無いのだ。


 そんな風に僕がそんな決意を新たにしている折、優弥は隣で手元のスマホを覗き込みながら僕に向かい声をかけてきた。


「しかしSNSで色んな呟きを見ているけど、結構話題になっているな」

「そうなの?」

「ああ。ほら、こんな感じだ」

 そう口にして、優弥は僕にスマホの画面を見せてくる。するとそこには、様々な人が様々な感想を発言していた。


「好意的な人もいるけど、結構手厳しい意見も多いね」

 面白い試みだと呟いてくれている人、ベコノベがますますテンプレ化するのではないかと危惧する人、そして多分流行らないと断言する人。

 いずれの意見も一理あると思いつつ、正直言って僕は何とも言えない気持ちとなる。

 すると優弥が、僕に向かってニヤリと笑った。


「まあこの中には連中の息のかかったやつもいるだろうからな。でも、こんなのもあるぜ」

 そう口にすると、彼は僕に一つのつぶやきを見せてくれる。

 そこにはこう記されてあった。

 簡単に書けそうなら試しに書いてみようかな、と。


「これって!?」

 思わず声が上ずったのを自覚する。

 体の中に電気が走るような驚きと喜び。

 それが今、僕の全身を包んでいた。


「まだわかんねえ。でも、こんな呟きが出ること自体、順調に滑り出した証拠だと思うぜ。ただもっとシェアードワールドを周知できれば、自然と作品は出てくると思う。そのためにどうすればいいかわかるな?」

「うん。ランキングを登る。それだよね」

 ベコノベにおいて最も注目を集め、アクセスを増やすための方法。

 それはランキングを駆け上がることにほかならない。

 なぜならば、そのことは僕自身がこれまでも経験したのだから。


「そうだ。だが問題は上に居座っている厄介な連中だよな」

「ドナウ同盟……か」

 新年会で出会ったときから変わらず、今もランキング上位の少なからぬ席を収めている彼等。

 その存在はベコノベの新陳代謝を停止させつつあり、実際に今日の日間ランキングにおいて、上位五人のうち四人がドナウ同盟のメンバーであった。


 この事実は依然として、ベコノベに深い影を落としていた。

 なぜならば、集団での評価工作をしなければ、ランキングは上がれないものだという認識が蔓延しつつあるためである。


「連中の工作があからさまなのは明らかだが、それでもさすがにプロの作品は一般の読者の票も掴んでいる。例の蘇芳だっけ? あいつの新作はほら、投稿二日で三位にまで登ってきているぜ」

「……なるほど、蘇芳先生もこのタイミングで新作を立ち上げたんだね」

「何れにせよだ、あいつらの仲間になれば書籍化が近づけるって話で、ドナウ同盟は以前より数が増えて来ているみたいだ。もっとも、本当ならあいつらと一緒になりたくないやつも中にはいるんだろうけどな」

 優弥の口にするおぞましい事実。

 それを耳にした僕は、胸の内にこみ上げるものがはっきりと存在することを自覚する。

 だけど僕には、そんな感情に押しつぶされぬだけの一つの確信があった。


「そうみたいだね。でも、流れは変わると思うよ」

「流れが変わる?」

 はっきりと口にした僕の言葉に、優弥が怪訝そうな表情を浮かべる。

 僕はそんな彼に向かい、鍵となる二つの存在の事を告げた。


「黒船が二隻も来るからね」

「二隻……そうか、なるほどな」

 ある意味、鎖国に向かわんとするベコノベのランキング。

 そこに二隻の黒船が来ることを僕は知っていた。

 何しろ、あの二人を招いたのはこの僕なのだから。


「一週間以内に投稿を始めるって言われて、今日がまさにその一週間目。津瀬先生と神楽先生は、たぶん口にしたことを違えたりはしないと思う」

「となれば、ここからが本番か」

 険しい表情を浮かべた優弥が、僕に向かってそう告げる。

 それに対し僕は、はっきりと自らの決意を宣言した。


「うん。だから僕も準備しようと思う。僕はあの二人に頼りたいのではなく、あの二人に勝ちたいんだ。やるからには中途半端はしない。いつも全力で結果を求める。そう決めたんだからね」


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