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皇国の結婚式。
前夜から夫婦となるものは顔を会わせず、それぞれ親しい者たちと独身最後の夜を明かします。
そして朝早くから身を飾り、昼に神の前で顔を会わし、誓いを立てる。
その後国民の前に一緒に現れ、一頻り愛想を振ったあとで着替え、国の重鎮や他国の王族などと食事会。
これが大体の流れだが、国民にとって一番盛り上がるのは、
皇帝と皇妃が一緒に現れた後、皇帝が代々受け継がれた、神から賜ったという魔法で空の色を変え、花々を咲かせる時だろう。
その時のために国民は花の蕾を買い、城前に集まるのだ。
*
「…城に行くの?」
「ええ。自分達は勇者の庇護を失ったのだと、分からせてやりましょう。」
「ふーん。…どうやって?」
カイルはにっこり笑い、私と自分に術を掛けた。
「この国から魔法を失くしてやりましょう。」
現在の時間、午前9時前。
あれから朝ご飯食べて、カイルがなんかゴソゴソした後で城に向かっています。
「まずはトップのリューイから?」
「それも面白いですが、すぐにバレると警戒されます。兵士辺りからいきませんか?」
私は頷き、つい出てしまう笑みを噛み殺します。
だってこの世界は、魔法を前提に成り立っているのです。
そんな中で魔法が使えなかったら……。しかも、リューイは国民や他国の王族の前で披露する魔法を控えています。
性格悪い?そんな馬鹿な。
カイルと一緒に城に忍び込み、兵士達の魔力を手当たり次第封じていきます。
魔王を封じた魔法を簡易化した物なので、解けるとしたら勇者くらいでしょう。
ですが勇者である姉には魅了する以外の能力はない。
カイルも私の魔法を真似て、次々と封じていきます。
ってゆーか殆どカイルが封じてる。
さっき言った言葉を守っているのでしょう。
「…恐ろしい魔法ですね、これ。」
「まあね。これで姉を封じれるか分からないけど。」
「そうですか…まぁ、最悪殺してしまえば。」
「そうだねえ。」
そんな会話をしつつ、兵士・騎士の魔力を大方封じ込めました。
次は貴族ですね。皇帝陛下の式とあって、国中の貴族たちが集まっています。
しかも貴族は大抵魔力が多い……人数も多いし、面倒そうです。
「カイル、もういいよ。ありがと。私がやる。」
言うと同時に、広範囲魔方陣を出して城の人間全員の魔力を封じます。
やろうと思えば出来るんですよ。ホラ、私チートですし。
え?ご都合主義者?そんな馬鹿な。
不甲斐ない…という顔をするカイルを慰めながら、皇宮に向かいます。
皇宮には手を出してないんですよ。
そこに居るであろう、魔力が強い三大貴族やリューイ、姉、騎士団長や神官長、魔術師団長などにはひとりずつ封じなきゃバレますからね。
三大貴族から周っていきます。
権力も比例して失くなるのでしょうね…私を(ていうかカイルを)怒らした自分を恨んでください。
三大貴族、最も権力の弱いサイデュール家。簡単でした。本当に権力と魔力って比例するんですよね。
次にソフデュール家。…ご機嫌ですねー。全て上手くいった~とか思ってるのでしょうか。
ちょっと大変だったみたいですが、特に問題もなく封じました。カイルが。
そんで、…ルナデュール家。笑顔でしたが、雰囲気は暗かったです。
彼は結局、積極的ではなかったのでしょう。
私の為かも知れませんし、自分の権力の為かも知れません。
だけどみーちゃん、に私の魔法は反応はせず、録音はナシ。
……あの4人と一緒ですね。彼の魔力は私が封じました。
父親の様に思ってたんです。本当に。
本当の父親より父親みたいだったから。
だけど結果が重要ですよね。
さよならです。
私は何も言わず、カイルも何も言いませんでした。
次に神官長、魔術師団長、騎士団長。
顔を見たくないので、カイルひとりにしてもらいました。
もうこの時点であちら側な訳がないですからね。
カイルは微笑んで魔法を掛けに行きました。
「…何で笑ってるの?」
「何でもありませんよ。」
「嘘。なに?」
カイルは苦笑します。
「……姉君の能力のせいにしても、彼らが深衣に見放されるのが嬉しいんですよ。…軽蔑しますか?貴女は苦しんでいるのに。」
「…別に。そもそも苦しんでないしね。」
そうですか、と微笑みながらカイルは進みます。
後は、姉とリューイですね。




