76:会見。
大勢の人が集まっている会場の扉の前で俺は一つ深呼吸をする。
俺が緊張しているわけでもなく、気合を入れているわけでもない。ただ周りに少し緊張しているヨルという人物を見せているだけだ。
会場に入るのは俺とお父上様とイザベルさん。探索者ギルドの人たちには会場の警護に当たってもらっている。
こういう発表をする場というものは、この世界では珍しいんじゃないのだろうかと今更ながら思った。
前世だと何か不祥事とかおめでたい発表があれば会見をしていたが、この世界だと何かあればどこからか情報だけが向かっている。
だが今回は誰がマンガをかいているか分からないことにはランスロット家に被害が及ぶかもしれないからという理由でこういう会見を開くようになっている。
「準備はいいかい?」
「はい、大丈夫です」
何度目か分からない確認をお父上様から言われ、俺は頷いて会場の扉を開く。
会場の扉は会場の後方で、大勢の人の後頭部が見える状態だったが俺が扉を開いたことで一斉にその人たちが視線を向けてきた。
「あの方が……」
「あぁ、間違いない。あのオーラは間違いないぞ」
「わぁ……気絶しそう……!」
「あいつが……!」
若干殺気を孕んでいる視線を感じるが、そんなことを気にせずに前に設置されている長机と椅子に向かう。
この配置は前世での記者会見を彷彿とさせるが、この世界ではマイクがあるわけがないから拡声魔法機能が付いた、魔道具を作って使うしかない。
前方にたどり着いて真ん中に俺、右にお父上様、左にイザベルさんという構図で座る。
「それでは、これよりマンガ『叛逆の英雄』を描いた作者、ヨル・マロリーさんの顔出し会見を始めます」
イザベルさんは俺が前もって作ったまんまマイクの形をしている拡声機能がついた魔道具で始まりの合図を言い放つ。
普通ならマイクから別のところから声が聞こえてくるだろうが、この魔道具はメガホンのようになっているがメガホンよりもスマートなマイクにした。
イザベルさんからマイクを受け取り、俺は多くの人の視線を受けながら口を開く。
「初めまして、自分が『叛逆の英雄』のマンガをかいたヨル・マロリーです」
その言葉で会場が沸いた。
というか俺がかいた本人だと言うだけならこんな大それた場所は要らないと思うが、まあこっちの方が手っ取り早くて済むか。
「どうして今まで名乗り出られなかったのですか!?」
騒がしい中で、一人の男性が俺にそう質問してきた。そのことで会場は一旦静かになった。
「自分はそれほど人前に出ることが得意ではないので、旧知の仲であるアルノさまにムリを聞いてもらい名前や素性を隠してもらいました」
「では今になってどうして名乗り出られたのですか!?」
「マンガが広まったことで、色々な場所で、色々な事情で事件が起きているのが耳に入ってきました。さすがにここまでの影響力を放置するわけにはいかず、他の人に迷惑にならないように名乗り出た限りです」
アーサー・ランスロットが暗殺されそうになったということは言わないし、言ってもデメリットしかない。
「ヨルさまは探索者ギルドに入っておられるのですか!?」
今度は女性が俺をさま付けにしながらそう質問してきた。
これ、俺が長々と説明しなくても質問ですべて答えれるんじゃないのか? 会見じゃなくて質疑応答会見だな。
「いいえ、自分はどこのギルドにも入っていません」
「ではどのようにあれほど信憑性のあるマンガをおかきになられたのですか!?」
「それは自分が独自に調べた情報を元にかいています。少しばかり探索者ギルドの人たちの力を借りたこともあります」
ほぼ全能で過去を見てかいたとか馬鹿正直に言うわけにはいかないから、ウソを混ぜ込む。
「質問よろしいですか?」
「はいどうぞ」
「マンガとやらが本当である根拠はどこにあるのですか? すべてあなたの妄想ではありませんか?」
次に気が強そうな女性が手を上げてそう質問してきた。俺に殺気を送ってくる辺り、七天教会の人だと考えながら答える。
「根拠をあなたに提示する必要はありません。自分は別にこのマンガの内容が本当だと訴えているわけではありません。それを読み手が信じれば、それは本当になるのでしょう」
そもそも本当であるし、やろうと思えばそれを本物だと証明することは可能だけど俺は別に歴史を証明するためにマンガをかいたわけではない。
それに大衆とは簡単に信じてくれる。いや騙そうとしていないよ? でもそれが本当だと信じて疑わなければそれを真実としてくれる。
大衆の力、貴族の力は偉大だ。
「では、マンガの内容は妄想であると?」
「あなたはどうやってもこのマンガを妄想にしたいのではありませんか? そんな人に懇切丁寧に説明したところで時間の無駄でしょう」
俺の言葉に会場の数人ほどクスクスと笑う人がいて、女性はその人たちに鋭い視線を一度向けながらまた言葉を向けてきた。
「そんなあやふやなもので、国中を騒がしている自覚がありますか? 本当でなければ、そんな情報で人々が踊らされていることにどのような責任を取るつもりですか?」
この人はどこまでも攻めて来るタイプの人か。ならお望みの言葉を投げかけてあげよう。
「その心配はありません。この物語は本当にあったことですから」
俺の言葉に会場中の人たちがざわめいた。
「先ほどと言っていることが違いますが?」
「何も違いませんよ? 自分はあなたに根拠を提示する必要がないと言っただけで、妄想だと言った覚えはありません」
「根拠がないのに本物だと言い通すと?」
「根拠があろうがなかろうが、自分が本物だと言って、読み手が本物だと思ったのなら、それは本物になりますよ。それにこの会見を手伝ってくれている探索者ギルドの人たちが賛同してくれている時点で、最初から疑っていなければ説得力があると思いますよ?」
ピノンさんからさっき聞いたが、探索者ギルドの規模は『叛逆の英雄』のマンガが出版されてからかなり大きくなっているらしい。
それこそ、自身でジャックたちの痕跡をたどるようにしているとか。だから調べているうちにマンガの信ぴょう性を知ることになる。
逆に七天教会の信者だった人でも、マンガにハマり信者から探索者ギルド所属になっている人もいると聞く。それがスパイかどうかまでは調べるつもりはないらしい。
だけど七天教会は探索者ギルド、特に『叛逆の英雄』のマンガを読むことを禁止にしているらしいからその可能性は低いだろう。
「それは一種の洗脳ではありませんか? 確かにこのマンガというものは素晴らしいものだと思います。ですがそれを使って根拠のないものを押し付けているだけです。悪質ですね」
それを教会に言われるとは思ってもみなかった。信者だって一種の洗脳だろうに。
まあそれは俺の独断と偏見だから口にしない。ただマンガという文化を認めてくれる発言は素直に嬉しいと思った。
「マンガを認めてくれて嬉しいです。ありがとうございます」
「……素晴らしいものは素直に称賛するのは当然のことです」
「今後他のマンガも天空商会から出版されると思いますので、それも楽しみにしていてください」
また俺の言葉で会場がざわつくが、俺は言葉を続ける。
「あなたがそこまで根拠を必要としているのなら、今ここで根拠を出しましょう」
俺が根拠を出さなくても場の人たちが女性を言葉や無言の圧で抑え込むだろうが、その前にこの女性を黙らせることができれば、もう勝ったも同然だ。
「これは、ジャックが使っていた剣です」
俺が空間魔法で取り出したかのように見せかけて創造魔法で作ったのは、正真正銘ジャックが最後まで使っていた剣を、経験も状態もそのままトレースしたものだ。
戸惑ったかのような、疑っているような視線がこの剣に突き刺さっている。
それはそうだ。そんなことを急に言われても信じられるわけがない。だけど作品を知って、探索者ギルドに入っていれば必ず分かる代物だ。
それほどにジャックの剣は代表的な剣だということだ。神殺しと呼ばれた剣は、ジャックが生涯を共にして神を相手にした剣であるから、文献に情報が腐るほど載っているし、俺のマンガでもかいている。
もちろん、ジャックの剣はもうすでにこの世には存在していない。俺のほぼ全能で確認したから間違いない。
まあ教会からすれば神殺しの剣は聖遺物に当たるのかな? ロンギヌスの槍みたいに。
俺の作った剣ほどではないがかなりのいい剣だから、どうしてなのかと思って過去視で覗いてみたら、どうやらジャックの死後、神が密かに破壊したようだった。これは言わなくてもいいだろう。
「あれ……本物だよな……」
「えぇ、そうね。特徴も、あの欠け具合も相違ないわ」
「でもそれなら、どうして今まで見つからなかったんだ?」
「誰かが隠していたのかもしれないわ。神殺しの剣だから、神に破壊されかねない」
どうやら分かる人は分かってくれているようだ。
何より、七天教会の人たちには、これが神殺しだと本能的に察するはずで、俺に噛みついてきた女性も顔の色を変えている。
俺が作った剣とは言え、これは間違いなくジャックが使っていた剣のレプリカ。でも完璧に同じように再現したものをレプリカと呼ぶのかどうか。
「この剣は探索者ギルドに寄付しますので、見たい方はそちらにどうぞ」
ここで探索者ギルドの人に丸投げしても問題ないだろう。だって会場の後ろですごい顔をしているピノンさんがいるんだから。
女性を完璧に抑えることができた俺は、次々と質問に答えたことで会見は無事に終わった。




