60:王女襲来。
パーシヴァル家主催の社交界は無事……無事だよな。ディンドランさんと婚約は予定通りだし、ギネヴィアさまとの婚約は避けれたから無事に終わったと言える。
でも今はすぐにでもランスロット家に帰りたいと思うくらいには疲れている。ルーシー姉さんとシルヴィー姉さんに俺から電話をかけたくらいには疲れている。
何なら迷惑にならないかと思いながらもクレアさんにも電話をかけた、出てくれなかった。グスン。
でも社交界は昨日で終わり! と思っていましたよ。
「あっ、二日後にボールス家主催の社交界があるのを言い忘れていたよ」
その言葉を社交界から解放されて疲れている俺を労ってくれたベラの体に包まれながら幸せな気持ちで起きて、言われたんですよ、このお父上様に。
は……? 昨日言ったよな、まだ言ってないことはないかって?
「お父さん、いい加減にして?」
「い、いや、二つ社交界があると最初に言ったらアーサーが余計に疲れてしまうと思ったからね」
「いや、解放された気持ちで起きたのに、それを言われたら文句を言いたくなるんだけど?」
「あー……アーサーなら大丈夫かと思ったから……」
出たよ! ジュストさんが言っていたお父上様の悪い癖! 俺を困らせたいのか!?
「……ベラ、お父さんに言って」
近くにいたベラの足に抱き着いて、ベラにお願いした。
もう俺ではお父上様に何も言う気力もなければ、すでに家に帰りたいという気持ちしか持っていなかった。
「アルノさま、五歳のアーサーさまが社交界にて頑張ったことはスザンヌさまからお聞きしました。それなのに、アーサーさまをここまで追いつめることはいかがなものかと思います。アーサーさまが倒れてもよろしいですか?」
「別にそんなつもりじゃないんだ……」
「そんなつもりではなくともアーサーさまは言葉を口にしないほど追い詰められています。いい加減に悪癖を直すべきだと思いますが」
「……次からは気を付けるよ」
まあ学生の頃からの仲のジュストさんから言われていて直らないんだったらもう無理だよな。もう諦めた方が良さそうな気がする。
「あっ、それからアーサー……」
「なに!? 今度言い忘れていたことだったら本当に怒るよ!?」
「はいはい、アーサーさま落ち着いてください」
何か言いづらそうにしているお父上様に、五歳の心情はこんな感じだろうなと想像しながらキレてみた。初めて息子がキレたことにお父上様に少し驚いていた。
それをベラに宥められながらお父上様の話を聞くことにした。
「アーサー、例のマンガ家の顔出しの話、三日後に決まったよ」
「えっ……社交界が終わった次の日ってこと?」
「うん、メルシエさんがその日に会見の都合を合わせてくれた」
あぁ、王都に帰ってきているようだが何かしているようで一切顔を合わせていないメルシエさんが、そんなことをしていたとは、メルシエさんには感謝しかない。
明日は何もないけれど明後日はボールス家の社交界、三日後には会見が行われるとは。明日に何もないのが幸いだけど、明後日と三日後が地獄だな。しかも日が続いているのがなお嫌だ。
でもボールス家の社交界は特に婚約とかそういう話がないから安心だ。
「ねぇ、お父さん。ボールス家の社交界は何もないよね? よね?」
「圧がすごい」
念を押していないと言っていないことがあるかもしれないからな。
「何もないよ。その社交界でボールス家とガラハッド家に挨拶するくらいで、それ以外は特にないね。あぁ、でもサグラモール家が来ることになっているね」
「本当!? クレアさんも!?」
「あぁ、もちろんだよ。ノエルは来ないようだけど」
もうギネヴィアさまを見れば、ノエルさんが来てもそれ以上に強烈な物を見たから可愛いものを見る目で見てしまう。
ただクレアさんが来てくれるというだけで、俺の心は一気に軽くなってきた。俺の心のオアシスがこの地獄のような王都に来るのだ。もうこれが喜ばずにはいられない。
「ねぇ~、アーサー?」
「なに?」
「いっぱいスマホを作れない~?」
こちらに来たお母上様が突然そんなことを言い出した。
昨日のお母上様はそれはとてもとても楽しんでおられた。社交界というものは貴族たちが腹の探り合いをするところだと思っていたが、そんな素振りを一切見せずにご夫人たちと楽しそうに話していたお母上様。
「スザンヌ、むやみやたらに渡すのはダメに決まっているよ」
「えぇ~? みんなで通話出来たら楽しいのに~」
「それが周りに知られたら大変なことになる。もちろんホログラムもダメだよ」
「でも~、私が選んだ人だから~」
「これ以上危険なことになる可能性を増やさないでくれ」
お父上様にそう言われて不貞腐れるお母上様。
でも夫人たちなら黙って会話を楽しんでいそうな気がする。特に昨日お母上様と楽しそうに話しているご夫人たちなら。
それでも数が三、四人とかじゃなくて七、八人くらいだから少しリスクがあるなぁって思うが、それらすべてを掌握できていれば、強力な武器になるし、俺やランスロット家も動きやすくなるだろう。
さて、話は終わったし今日は部屋でのんびりマンガをかきながらベラと一緒に過ごすとしよう。そうじゃないと俺の身が持たない。いや全能だからそんなことはないんだが。
そう思っていたのだが、この宿にかなりの護衛を引き連れてきている馬車が見えてきたんだが? しかも馬車にかかれているマークは赤き竜が剣をくわえている紋章だった。
ペンドラゴン家の紋章ということは、この国において一番有名な紋章だから誰でも分かる。
「あれって……」
「どうしてペンドラゴン家が?」
俺が最初に気が付いたことでお父上様たちも気が付いて窓からそちらに視線を向けた。
「……アンリ・ペンドラゴンかな?」
「いや、それはないはずだ。手を回しているからあんな大人数でこちらに来るはずがないよ」
「なら誰が……?」
「アーサーが一番思い当たるんじゃないのかな?」
「えっ?」
お父上様にそう言われて、一番考えたくないことを無理やり考えさせられてしまう。
しかもその人ならあり得そうだと思ったから間違ってなさ、いやもしかしたら国王さまかもしれない!
「ごきげんよう、アーサー」
そんなことはなく、俺の部屋にギネヴィアさまが訪ねてきた。むしろ国王さまの方が困るまである。
「おはようございます、ギネヴィアさま。今日はどのようなご用件で?」
俺がそう問いかけてもニコニコとするだけで何も答えることはなかったギネヴィアさま。
「紅茶です」
「ありがとうございます……とても美味しいですわ」
「ありがたきお言葉です」
ベラが出した紅茶を飲んで、美味しい言うのは当たり前だ。
これで不味いとか言い出したら舌を引っこ抜くところだ。万が一にもベラがわざと不味い紅茶を出したのなら、何かあるのだと思ってすぐに戦闘体勢に入る!
「あなたは……」
ベラの顔をジッと見つめるギネヴィアさま。
もしかしたら引き抜こうとしているのかもしれないが、そんなことは国王や神が許しても俺が許さない。何なら俺が死んじゃうから。
「愚兄が探している……いえ、何でもありませんわ」
何か言いかけたギネヴィアさまは口を閉じた。
……うん? ぐけい、愚兄か。もしかしなくても愚兄ってアンリ・ペンドラゴンのことを言っているのか? 妹に愚兄と言われている兄とは……俺の中でアンリ・ペンドラゴンの評価を一つ下げる。マイナスはとうに過ぎ去っているが、マイナス一不可思議くらいになっているな。
てか、用事があるなら早く用件を言って帰ってほしいんだが。
「わたくし、昨夜のあの激しい夜の密談が忘れられず、ここまで来てしまいましたわ……」
「十本勝負のコイントスですよね」
何でそんなふざけた言い回しをするのやら。
「また、勝負したいということですか?」
「いいえ。決して負けたことにどう思っているというわけではありませんわ」
いや絶対にそうだろ。
「今日は用事がなかったので、わたくしの婚約者になってもらうために来ましたわ」
「……はい?」
またふざけたことを言っているな、この女。
「いや、その話は昨夜で終わったはずでは?」
「わたくし、そんなことを言いましたか? あの場を収めるための勝負はしましたが、そういう話ではなかったと思いますわ」
「そうですか……」
うわぁ……変なのに目を付けられたな……。しかもこれに異を唱えたとしても相手が王女だからどうにもならない。
ハァ~、こういう時の上の地位の相手って言うのはメンドウだな~。まあこれを俺にできるのは限られているし、下の人たちにしないようにしよ。




