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全能で楽しく公爵家!  作者: 二十口山椒
王都でも渦中

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52/112

52:マンガの反響。

 魔道具専門店を出て、特に宛もなく歩いている俺たち三人。そもそも最初から王都を見て回ることが目的だったから宛がないのは当たり前か。


「どうする? もう大通りは大抵見て回ったと思うけど」

「そうだな……」


 フェイに問いかけられてもうそろそろで帰るかと思ったが、まだ需要な見ていないところがあることに気がついた。


「あぁ、そうだ。『叛逆の英雄』のマンガが売られている場所に行ってみたいな。どんな感じなのか知りたい」

「それなら天空商会ね。前に一度王都に戻った時にすごい行列を見たわ」

「メルシエさんから聞いただけだからどんなものか気になる」

「それじゃあ天空商会に行きましょう」


 さっきからフェイに案内されてばかりで、ヘラは俺のことを見張っている感じがしてならないのだが。いや実際にそうだが。


 ただ、フェイは俺の腕に抱きついていて、ヘラは俺の隣にいるが少し壁を感じてしまう。だから俺はヘラの腰を引き寄せて俺との距離をゼロにする。


「ひゃっ……! なに、するのよ……!」

「恋人関係なんだろ? それならこれくらいしておかないとな」

「もう……それなら前もって言いなさいよ……」


 文句を言ってくるが受け入れてくれて、どことなく嬉しそうにしているヘラに満足する。


「私は抱きついているだけで、ヘラは腰に手を回されているの? へぇ……」


 だが反対側の女性はそれが気にくわなかったようで俺にジと目を向けてくる。


「いや、フェイにもしようと思っていたところだ」

「本当かしら……?」


 機嫌が悪くなりそうになっているフェイの腰に解放された手を回して抱き寄せる。うむ、二人ともいい腰だな。


「私たちよりも年上なフェイは、乙女なのね?」

「あら、それの何が悪いのかしら?」

「悪くないわ。でもそれが続いたら少し痛くなるんじゃないかと思っただけよ」

「あらあら、男に構ってほしい雰囲気を出している女よりはいいんじゃないのかしら? そんなことじゃ男は疲れて捨てちゃうんじゃないの?」

「痛い女よりはいいと思うわよ?」


 これ、何度目だよ。二人は俺を挟んで意味が分からない言い合いを始めてしまう。


「どっちもいいんだよ。乙女だろうと消極的だろうと、俺の恋人なんだから関係ない」


 ただ今の俺は十八歳だから五歳の時とは違い二人の言い合いを止めることにした。


 二人の腰をよりいっそう俺に引き寄せると、二人は案外言い合いをやめて黙ってくれた。これでどっちがいいのとか言われたらもう止められなかった。


「……どうしてこんなに女性の扱いになれているのかしら……?」

「分からないわよ。ヘラの方が詳しいんじゃないの?」

「そういう授業をしているつもりはないのだけれど……」


 ヘラとフェイの対応について疑問に思っている二人をよそに、フェイによって天空商会に案内されると、新しい感じのお店で看板に『天空商会書籍専門店第一支部』と書かれている場所にたどり着いた。


 お店の前には多くの人だかりがあり、お店の中が見えないほどだった。


 だが、確かメルシエさんに新刊や追加出版したのは半月ほど前だから、こんなにお店の前に人がいるものなのか? まるで販売初日のような人だかりなのだが。


「こんなに多いものなのか……」

「こんなものじゃないわよ。たぶん今は売り切れになっているんじゃないのかしら? ほら、先頭の人が残念そうな顔をして帰っていくわ」

「本当だ。それならフェイが見た時はどれくらいだったんだ?」

「それはここはおろか、遠くまで人が埋まっているほどよ。しかも第五支店まであるから、そこら辺は新刊が売られ出したら人がゴミのようになるわ」


 人がゴミのようにって言い方。それ世界共通なのか? でもあんなに複製しているのに未だに売り切れているのか。


「まだそんなにこの国で買う人がいるのか? 俺はてっきり他のところに売り出すために追加で作っているのかと思っていたが」

「この国に何人いると思っているの? それに噂で他国からこの国に買いに来る人もいるんだから、それはいつでも品切状態になっているわ」

「……もう余るくらいに売り出した方がいいんじゃないのか?」

「そこは遠慮しているんじゃないのかしら? 別に私とヒルはいくら複製しても疲れないのに」


 まあこの世界の人たちに一人一冊渡したとしても、俺だったら余裕だ。それでも読めない人がこうしているのだったら次の時にでもどれくらい必要なのか聞いて作ってもいいな。


 実際、どれくらい売れてどれくらい儲けが出ているのか分からないが、そこを気にせずにマンガを作れるのは本当にチートだと思っている。


 もうこれだけの光景を目の当たりにしたら、ランスロット家は安泰だと思ってしまう。


「どうやら、マンガが人気だけどそれ以外の感情を持っている人もいるようね」


 ヘラの言葉で、第一支店の少し離れた場所で第一支店をにらんで何やら話している男二人組がいることに気がついた。


「『叛逆の英雄』は神々と決別する話だから、神々を信仰している教会にとっては忌むべき物語。ブリテン王国で一番大きな教会、七天教会は『叛逆の英雄』が世間に出てきた当時からそれ自体を消そうとしていたけど、今ではマンガによって『叛逆の英雄』の勢いはとどまるところを知らないらしいわ」


 なるほど……そういうところで影響を与えているのか。


「まあ、『叛逆の英雄』はかなり神がやり過ぎているから、『叛逆の英雄』が好きな人なら神を好きになる人がいるわけないか。現実でそう思う人がいるかどうかは知らないけど」

「私は嫌いよ?」

「私も嫌いよ」


 あぁ、ヘラとフェイはそうかもしれないけどな。そもそもそういう神を信仰する人たちじゃないでしょ、あなたたちは。


 でもまぁ、すべて事実だからどうしようもない。神なんてものは人間のことを考えないものだろ。俺を転生させた魔神みたいにね。


 今は転生のことをどうこう言うつもりはない。もうこの生活に慣れて、この生活に愛着がわいているから。でも目立ちたくはない。


「つまり、七天教会の狙いが天空商会になっている可能性があるのか」

「そういうこと」


 だが、そこら辺をメルシエさんが考えていないわけがない。現に第一支店には護衛たちもいるようだし、魔道具で結界が張られている、俺からしたらショボいけど。


「この問題はヒルが考えることじゃないわ。そもそも前から七天教会と『叛逆の英雄』を研究する人たち集団、『探求者ギルド』は度々激突していたのよ。まあマンガが出てきたことでそのギルドの人間はかなり同志を集めて、『叛逆の英雄』のマンガに盛り上がっているようで情勢は変化しているけど。それに天空商会やランスロット家、作者をそれこそ神のように崇めて七天教会が手出しできないようにしているみたいよ」


 フェイがそう話してくれていると、天空商会のお店をにらんでいた男二人組に屈強な男たちが近づいてきたことで逃げるように去っていった。


「それ、普通に本末転倒じゃないのか? 神を信仰していないのに神のように崇めるって」

「神じゃない分いいんじゃないの? だって神は姿を見せないし救ってくれると教会が謳っているけど、作者たちは確かに存在しているし、素晴らしい作品を出してくれているから、何をするか分からない神よりかいいでしょ?」

「まあ……」


 いや、そんな感情を持たれても困るだけだろ。娯楽が少ないこの世界がヤバイだけか? それとも教会に何かされたのか? よくわからんが。


「あぁ、それからランスロット家と名乗るのなら気を付けた方がいいわよ」

「……狙われるのか?」


 少しだけ小声になったフェイに聞いた。


「そう、マンガの関係者で分かっているのは天空商会とランスロット家。七天教会にも探求者ギルドにも色んな意味で狙われるわよ」


 えっ? それ普通にこうして変身してきて良かったってことじゃないか? 王族よりも狙われることになるとは思わなかったぞ。


 だがこうしてマンガのことでどこもかしこも盛り上がっているとなると、本格的に作者を明かさない方が平和な気がする。


 どこかのバカがランスロット家や天空商会に襲うことが日常的になれば考えないといけないが、今のところは大丈夫そうだ。


「でも心配する必要はないわ。七聖法の私も守るように動いているから、安心するといいわ」

「別に心配していない。ただ……誰かに迷惑がかかるかもしれないと考えていただけだ」

「それこそ、ヒルが考えることじゃないわ。私たちはマンガを読んで心を豊かにしてもらっているんだからそれ以外は周りの人がすることよ」

「そのために七聖法や特別大公の力を使うのよ」


 ヘラとフェイにそう言われると何も言えなくなる。


 娯楽を広めるためにこれくらいの困難はないと面白味がないというものだ。


「ていうか、天空商会書籍専門店はマンガ以外のものは売っていないのか?」

「さぁ? どうなのかしら?」

「マンガ以外のものを置いても売れるものなのか分からないわね」


 俺の言葉にフェイとヘラは首をかしげる。


 書籍専門店と言っているくらいだから、他のものも売っているような気がするが、ヘラの言う通り売れるかどうか分からない。


 俺的には他の書籍も見てみたいと思っている。うちの姉は本を読む方だから俺も時間潰しによく一緒に読んでいるから、お土産にでもしたいのだが。


「お姉さんのお土産を決めようとしているのなら、本を求めているのなら他のところに行った方がいいと思うわ」

「よく分かったな」

「……それは、私もあなたの恋人だから」

「かわいいかよ」


 かわいいなぁヘラは! もうこれからずっと恋人、いやお嫁さんにしたいくらいだ!


「ヘラ、あなたところどころで持っていくわよね」

「そんなつもりじゃないのだけれど……それならごめんなさい」


 またフェイとヘラのやり取りが始まりそうだったから、どっちも俺の胸板に抱き寄せた。


「行くぞ」


 無理矢理言わせないようにするとまた大人しくなってくれた。こういう感じをするのは初めてだから少しドキドキして心臓の音が聞かれないか心配だ、ということはダサいな。

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