34:天空商会。
サグラモール家が帰ってランスロット家内で少し変化が起きていた。
顕著に変化を見せたのはシルヴィー姉さんとルーシー姉さんで、どうしてか分からないが鍛錬に一層取り組むようになっていた。
それはもう、俺と関わる時間を減らしてまで鍛錬に取り組んでいるから、俺を嫌いになったのかと思ったが、そういうわけではないらしい。
それを補うように、ルーシー姉さんは俺と濃厚な時間を過ごしているからそれはもう前よりもルーシー姉さんと接しているように思えてしまう。
それに、シルヴィー姉さんも何だかんだ言いつつ俺と会話できるようになったから対面で会話する機会がとても増えて、いい傾向になっていた。
さらに変化が起きた人はお母上様だ。
お母上様は先日サグラモール家が来た時にゾーイさんにスマホを渡していたから、それはそれは長電話をとてもしている。どこの世界も女性は長電話をするものなんだな。
ちなみにエリオットさん用にお父上様に頼まれてスマホを一台作り出して渡している。
お母上様とゾーイさんに渡したホログラムを映し出す魔道具はかなりの頻度で使っているとお母上様から聞いた。
それ以外はすでにいつもの日常が広がっていた。
それよりも、俺としては『叛逆の英雄』のマンガが出版されるのなら売上次第でアニメの方にも力を入れたい。というかアニメも四年間全く見てないから作りたいという気持ちしかない。
アニメを作るだけなら、まあ俺だけの力で作り上げることはできる。
でも俺が目指しているのは娯楽を普及させることで、俺以外にもマンガをかける人が必要で、俺を手伝ってくれる人材が必要になってくる。
それにアニメとなればマンガとは違いデジタルの話だ。マンガの手軽さとは程遠い。
どこかに人材を集めてくれて、なおかつ娯楽ギルドを作り上げるのを手伝ってくれる人がいれば、いいんだがな。
いっそのことお父上様に説明した方が早いか? いや、これ以上お父上様を酷使すれば過労死されるおそれがある。
「アーサーさま、よろしいでしょうか?」
「うん、いいよ」
どうするかと考えているところでベラが扉をノックして入ってきた。
「アルノさまがお呼びです」
「お父さんが? 何だろ?」
「お客様がいらっしゃいます」
「そのお客さんが、僕に用事があるということ?」
「そのようです」
「分かった」
本当に誰だか分からないけど、お父上様に呼ばれたのだから行くしかない。
ベラと一緒に応接間に向かっていた時、ふと外を見ると見慣れない物が見えた。
前世ではアニメなどで見たことがある、飛行するために少し形が違うが大きな船がそこにあった。
「あれは飛行船?」
「はい。お客様がお乗りになられた飛行船です」
飛行船自体はグリーテンさんから聞いたことはあったけど実物は見たことがない。
そもそも飛行船自体があまり数が存在していないくらいに貴重なものだと聞いた。飛行船を作るためにはあり得ないくらいの費用が掛かり、金があったとしても飛行船を作る魔道具製作者がいない。
この飛行船を持っているということはかなりの人物だということか。そんな人が俺にどうして用事があるのだろうか? もしかしてお父上様が手を回していたことに関係してるのか?
まぁ、会ってみれば分かるだろう。
応接間の前にたどり着き、ベラが扉の前に立ってノックする。
「アルノさま、アーサーさまをお連れしました」
「通してくれ」
ベラが扉を開けてくれて、中に入る。
中にはソファーに座っているお父上様と、お父上様と机を挟んだソファーに座っている、ショートカットの水色の髪に可愛らしい感じの女性がいた。
「アーサー、こちらは――」
「あなたがアーサーさまですね!? 初めまして! 僕は天空商会で頭領を継いだイザベル・メルシエです! アーサーさまとは一度お会いしたかったところです!」
「は、はい、ランスロット家次期当主のアーサー・ランスロットです。よろしくお願いします」
「もうこちらこそよろしくお願いします! アーサーさまとお会いしたくてしたくてたまりませんでした!」
何と言うか……この人もまた変な感じの人だなぁ。僕っ子も似合っている雰囲気だ。
「この『叛逆の英雄』のマンガ! 見た時にはお父さんが死んだ時以上に衝撃を受けましたよ!」
いや、それは普通にどうかと思うし反応しずらい言葉選びはやめてほしい。
「アーサー、天空商会は代々ランスロット家といい関係を築いているんだよ。次の当主になるアーサーに是非ともメルシエさんと会ってもらいたくてね。それに、このマンガを王都に売り出すように手配してくれているんだよ、メルシエさんは」
あー、そう言えば天空商会の名をお父上様の言葉から聞いたな。この人がそれをしてくれるのか。
「それでだ、メルシエさんはこのマンガのことをとても気に入ったらしい」
なるほど、それで呼ばれたのか。このメルシエさんの感じ、大ファンって感じだな。
「このマンガを売るために精一杯、僕にお手伝いさせてください! これは世界に広めないといけないものですから!」
「そう言ってもらえると嬉しいです!」
「いえいえ、もうこれは神さまがアーサーさまにマンガの才能を与えてくれたに違いありません!」
マンガの才能だけじゃなくてほぼすべての才能だけどね。
「もう僕だけで十冊は買っちゃいますね! それくらいに読んで読んで読んでも足りません! あっ、そんなことをしたらせっかくアーサーさまがかいたマンガが傷ついちゃう……」
あー、マンガのせいでとてもおかしくなった人ですか? 俺の才能をもってしてもこちらを騙している感じがしないのが逆に心配になってくる。
「メルシエさん、そろそろ話を」
「あっ、そうでしたね」
お父上様の言葉でようやく戻ってきたメルシエさんは話を始める。
「アーサーさま、千冊ご用意していただきましたがそれだけでは全く足りないと予想します。少なくとも一万冊はご用意していただきたいと思っております」
「そんなに売れるものですか?」
「売れます。断言しておきます」
まあ作るだけなら複製魔法を使えばすぐに終わるけど、そういう施設を作ってもいい気がする。
「分かりました、いつまでに用意しておけばいいですか?」
「できるだけ早くでお願いします」
そう言われたら俺はすぐに終わらすことができるぞ? 何ならグリーテンさんがこの屋敷にいるから二人でやれば即終わる。だって千冊の時もすぐに終わったんだから。
「明日までに終わらせておきます」
「ありがとうございます! さすがはアーサーさまです」
何がさすがなのだろうか。
「それから、何やらアーサーさまから商売の匂いがしてきますね。何かお考えで?」
えっ? 何かって何だよ。アニメのこと? それともスマホのこと?
「何もありませんよ!」
「そうですか? 結構僕の商売の匂いはあてになるので、まあ何かあればすぐに僕にお知らせください! すぐに駆け付けますので」
「その時はそうしますね」
「アルノさまもその時は魔道具でお知らせください」
「あぁ、そうさせてもらう」
魔道具? 相手と連絡を取れる魔道具があるのか? それならスマホなんて珍しくないはずだが。
「知らせる魔道具があるの?」
「あー……うん、そうだね」
「おや? アーサーさまはこの魔道具をご存じないのですね?」
お父上様が言い淀んでいる間に、メルシエさんが首にかけていた赤い宝石がついたペンダントを外して俺に見せてきた。
「これはどんなところにいても対になる魔道具に意志を示すことができる魔道具です」
「話せるのですか?」
「まさか、そんなことはできませんよ。ただ用事があれば、この魔道具を使って相手に合図を送ることができるだけです。話せる魔道具なんかあれば誰もが欲しがりますね」
お父上様が言い淀んでいたのはこちらにスマホがあるからか。それと比べたらこんな魔道具マジでゴミだと思える。
……でも、この家にある魔道具もそうだが、この魔道具も汚い魔法陣が組み込まれている。もう少しやり方があっただろうに。
「触ってみますか?」
「あー、はい、触ってみます」
俺がジッと見ていたことでそう捉えられて俺はメルシエさんからペンダント型の魔道具を受け取る。
いくら近くで見たとしてもこの魔道具の魔法陣が美しくないことに変わりはない。……できることならこの魔法陣を少し美しくしたい。でも人のものだからやってはいけない。
「はい、ありがとうございました」
「アーサーさまもお目が高いですね~。この魔道具はかの魔道具製作者サブリが作り上げた世界に二つとない一品です!」
「えっ? こんなのが?」
メルシエさんがとても持ち上げていたから、思わず口を開いてしまった。そのことでメルシエさんはすぐにこちらに顔を向けた。
「アーサーさま、今何と?」
「う、ううん、何でもないですよ?」
「いえいえ、『えっ? こんなのが?』と言っていましたよ?」
「ちゃ、ちゃんと聞こえていたんですね……。で、でも僕にはあまり価値が分からないのでそう口にしただけで、すごいものなんですよね?」
必死に誤魔化そうとしても、メルシエさんは誤魔化されない雰囲気を出している。そのことにお父上様が思わずため息を吐いて俺を助けてくれなさそうな感じだ。
「僕は世界を飛び回っていますが、その中で話を聞くんですよ。たまに魔道具の中の魔法陣を読み取ることができる人がいると。僕が知っているのは、この屋敷によく出入りするようになったグリーテン・ルフェイさんですが、もしかしてアーサーさまも分かっているのではありませんか?」
商談相手なのだから、これくらいのことを教えても別に問題ないか。ただ……どこか違う目的があるように見えてならないのだが。
「は、はい、分かります……」
「それならぜひお願いしたいことがあります!」
「はい?」




