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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『 コリアンダ- : 隠れた価値 』

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『 僕と見習い剣士 』

 僕が振り向くと、ビートと呼ばれる青年が僕を睨んで立っている。

アギトさんを親父と言っていることから、彼はアギトさんの家族なんだろうな。


「ビート、相手のことを知りもせずに

 臆病者だと罵るのは、褒められることか?」


アギトさんが、嗜めてはいるが気にしている様子はない。

気にするどころか、鼻で笑って言いたい事を言っていた。


「臆病者を、臆病者といって何が悪い、魔法に自信がねぇから

 学者なんて書くんだろう? チームに学者なんていらねぇよ」


彼の潔いほどの、知識の全否定に少し感心する。

僕が、言い返さないのを良い事にビートさんは畳み掛けるように

アギトさんと口論していた。


「これだけ言われて、言い返さないってことはそれが図星だって事だろう?

 いざというときに、役に立たないやつを連れて行く必要がないって言ってんだよ」


「では、ビートは風の扉を開けることができるのか?」


知らない言葉に、僕はすばやく頭の中の記憶を探る。


風の扉とは、風の守護で守られている扉のようだ。

入るには風属性の魔力を必要とするらしい。


アギトさんの、正論に声のトーンを少し下げながら答えるビートさん。


「それは……他の奴を探せばいいだけだろう……」


「確かに、今回の依頼は駆け出しの冒険者には大変かもしれないから

 できるならそうしたほうがいいのは確かだ。だが、ビートも聞いていただろ?

 今このギルドで、風使いを名乗る魔導師はセツナ君だけだ」


「……」


「それに、彼の経験が足りないというのであれば

 私たちが守ればいいことだ。

 それとも、ビートは魔導師1人すら守る自信がないのか?」


アギトさんの言葉に、ビートさんは刺すような視線をアギトさんに向ける。

アギトさんは、気にする風もなく顎に手をあて挑発するように笑っていた。


その姿が、映画俳優を思い起こさせるような感じで

思わず、他人事のように眺めてしまう。


僕が理由での険悪な空気に、少し居たたまれないので口を挟んだ。


「あの、アギトさん」


「すまない。セツナ君、愚息が失礼なことを言って」


「いえ、気にしてませんから」


僕の気にしてません発言に、ビートさんから表情が消えた。

火に油を注いでしまったようだ……。

反対に、アギトさんは面白そうに僕を見ていた。


「勝手にしろっ!」


父親に、自分の力量を問われ

僕に、気にしてません発言をされたビートさんは

怒ってギルドを出て行ってしまった。


「あー……すいません」


明らかに僕の失言だったので、アギトさんに謝る。

僕の、謝罪にまた驚いた顔してそして興味深そうに僕を見ると


「セツナ君が謝る必要はないんじゃないかな?

 君が怒るというのなら、分からないでもないが」


「別に、怒るほどの事をいわれたわけではないですから?」


そういうと、アギトさんは少し考える仕草を見せてから


「君は、本当に18歳なのかい?

 普通、君の年代の駆け出しの冒険者というのは

 臆病者、卑怯者、腰抜けっていう単語に恐ろしく反応するのだが……。

 私の息子は、いまだにそういわれると怒り出すんだけどね?」


アギトさんの言葉に、マスターが低い声で笑う。

僕は内心、鋭いなと思いながら苦笑し答えた。


「僕も言われると、嫌な単語はあります。

 今回の単語が、それにあてはまらなかっただけのことです」


「なるほど」とアギトさんが頷いて僕に依頼の要請を告げる。


「セツナ君、改めて仕事の依頼をお願いしてもいいかな」


「風の扉を、開けるという話ですか?」


「そう、ここから片道3日ほど行った所に遺跡が見つかったんだ。

 その調査を国から依頼されたんだが、ちょうどチームの風使いが

 留守でね、困っていた」


「その遺跡は、調査が入ったことがないんですよね?」


僕のこの質問の意図に、的確に答えがかえってくる。


「そう、だから駆け出しの君には危険かもしれない」


調査の入ったことのない遺跡には、罠や遺跡の守護者が

ついていることが多い、5人ぐらいの人数で望むのが正しいといえる。


それをあえて、アギトさんとビートさんとで行くのは

チームの風使いが、居ない理由と同じなんだろう。


「僕はまだ、PT(パーティー)を組んだことがないんですが

 僕でいいんですか?」


1つ1つ、確認を取って行く僕に丁寧に答えていってくれるアギトさん。


「今回は遺跡の探索ではなく、遺跡の調査だからね

 その遺跡が、どういった類のものなのかを調べるだけだから

 扉を開けて少し調査をし、人よけの結界石を置いてくるのが目的だ」


人がまだ入ったことがない遺跡は、強力な魔法がかかった武器や道具が

残されている可能性が高い、誰のものという線引きはないのだが基本は

国に申告して伺いをたてるのが普通となっている。


カイルは……お構いなしに遺跡を荒らしていたみたいだけど。

きっとカイルなら「遺跡? 見つけた者勝ちに決まってるだろう」

とかいいそうだ……いや言うだろうな、断言できる。


今回の遺跡は、騎士の訓練中に偶然見つけたものらしく

国からアギトさんに、正式な依頼としてまわされたらしい。


顎を左手でなでながら、アギトさんが話を続けた。

アギトさんのギルド紋様は、両手剣と呼ばれる剣だった

剣のまわりに茨が巻きついている。


「調査だけといっても、遺跡内部に入らないといけないからね。

 何があるかは、わからない」


僕は、アギトさんの言葉に頷いてから

依頼を受けると、返事をした。


「至らないところが多いかもしれませんが

 アギトさんからの依頼をお受けします、よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いする」


そう言って、とてもいい笑顔を返してくれる。


話が決まると、マスターに声をかけて依頼を正式に受理してもらう。

その後、旅に必要なものをアギトさんから聞いて

準備のための時間を明日1日もらい

明後日の朝、ギルドの前で待ち合わせということに決まった。


僕は、翌日1日かけて風の遺跡に行く為の準備をする。

往復6日間と、遺跡の探索で2日間と、予備の食事2日間の食料と水

水は水筒があるから食料だけでよかった。


後は、着替えと薬(傷薬・腹痛薬・頭痛薬・化膿止め・解毒薬)を作り

結界石も自分で作ってみた。


少し自分なりにアレンジしてみたけれど

中々、上手に作れたと思う。


こんな感じで、初めての遠出それも

臨時とはいえ "PT "で、行動する事になるので

迷惑をかけないように、念には念を入れて準備をしたのだった。


正直に言えば、鞄の中に入っている物で足りるんだけど

初めてのことなので、全て自分で用意したのだ。


朝起きて、いつもの日課の筋力トレーニングを終え着替える。

黒の革のズボンに白のシャツ

その上に襟付きの……膝より少し長いコートっぽい上着を着る。

上着の色は髪の色より少し濃い目のブラウンだ、この服装が僕の戦闘服になる。


上着の上から、剣を吊るす為の太いベルトを斜めに巻くが……。

今日の僕は、魔導師としていく事になるから剣はいらないだろうと思い

剣を鞄の中にしまう、代わりに護身用に短剣を取り出し

胸ポケットに入れた。


僕には必要がないのだけど、魔法発動の媒体……。

手に何か持つのが余り好きでない僕は、指輪を選んで左手の指にはめる。


左手の紋様を見て、昨日のアギトさんの紋様の色を思いだした。

紋様の色は単に7色、7段階だと最近まで思っていたのだ。


最近まで思っていたというのは、僕が黄から緑に上がるまでに黄色でも色が

3段階に変化したから、黄色が緑色に近づいていくみたいな感じで変わっていく。

不思議に思ってマスターに聞いたら。


楽しそうに教えてくれた。


黄から緑で3段階 緑から青で3段階

青から紫で5段階 紫から赤で5段階

赤から白で10段階 白から黒で10段階


正確に言えば、白の10/10では

紋章の色は灰色に近いようだ。


黒のランクの1段階めは灰色から始まり

黒の10に近づくにつれて、徐々に黒味をますらしい。


アギトさんの紋様は、とても濃い黒だった。

黒が完了すると、黒に少し金が入った感じになるようで。


どれだけ依頼をこなしたら、黒色になるのやら……。

ランクにこだわっているわけではないけれど、強い人を見ると

やはり、憧れてしまうのは仕方のないことだと思う。


花井さんとカイルは最強だったらしいから

僕も強いはずなんだけど、僕にはその実感や感覚がわかない……。


僕は、世の中のことに疎かったので、後に分かることだけど

チーム "月光"というのは、世界的に5本指に入るほどのチームだったらしい。


黒の紋様の持ち主、5人のうちの1人がアギトさんだったのだ。

そのことに気がつくのは、まだ当分先の話。


最後に指のない黒の皮手袋をはめ

指輪をはめなおして、宿舎を後にした。


忘れ物はないかとか、アギトさんの紋様の色だとか

取り留めのない事を、考えながら歩いていると

アギトさんとビートさんが、ギルドの前で立っていた。


2人を見つけたことで、僕は少し早足になり

2人の前に到着して、挨拶をする。


「おはようございます。

 今日からしばらくよろしくお願いします」


その挨拶にアギトさんが、僕の方に1歩より


「おはよう、こちらこそよろしく頼むよ」


と言うと、ビートさんに声をかける。


「ビート」


渋々といった感じで、ビートさんが僕に自己紹介をする。


「俺は、チーム月光に所属している、ビートだ

 職業は剣士、ギルドランクは青だ。俺はお前を認めていない」


「ビート!」


一方的に言うだけ言うと、先に歩き出すビートさんに

アギトさんが少しきつい口調で名前を呼ぶが、それを無視して歩いていく。


「すまないね、セツナ君。

 ビートは剣士というが、実際はまだ剣士見習いなんだ。

 冒険者としては、中級に入りかけているところだけど

 剣士としては半人前だ、それに年齢もセツナ君とそう変わらない

 だから、敬語を使う必要はないからね」


「見習い? そんな制度があるんですか?」


敬語うんぬんは……とりあえずおいておいて気になることを聞いた。


「あぁ、ビートは私の弟子だからね」


僕にそう話すと、アギトさんは少し笑った。

その意味に気がついて、率直な感想を告げる。


「なるほど、ビートさんは幸せですね」


そんな僕の言葉に、アギトさんは親の顔で頷いていた。


少し、羨ましいと思った……。

親として、息子を見守っているという事なのだろうから。


「さぁ、私達も出発しようか」


僕を促すアギトさんに、頷きながら歩き出す。

アギトさんの背中を見ながら、ビートさんの事を考えひとつの結論がでた。


アギトさんに、1人前と認めてもらうのは凄く大変そうだなと……。





読んでいただき有難うございます。



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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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