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疾風!プレステイル  作者: やくも
第六話 危険な夜道
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6-5 とある奮闘記

 風見鶏公園。

ここは市民の憩いの場として都市開発の一環で10年前に作られた場所である。

風見鶏公園は広大な敷地に4つのエリアを内包しており、それぞれ南部エリアのアスレチックパーク、西部エリアの自然公園、東部エリアのピクニックコース、そして中央エリアの噴水広場で構成されている。


 そして、セツナ達が今いるのは東部エリアのピクニックコースだ。

昼間はウォーキングを楽しむ市民や家族連れが目立っているが、西日に傾きだした今は人は疎らになってきていた。

やがて本格的に暗くなると人の姿を見かけなくなるだろう。


「本当にここで良いのかな? ねぇ、セツナくん?」


 隣に立つナユタが言う。

彼女の疑問はもっともだ。

オレンジに染まりつつある公園の日常は平和そのものだからだ。


「ここでなきゃ困る。 地道な聞き込みが無駄になる」


 ケイが不審者に襲われたという場所はここからそう離れていない。

それどころか一連の事件は風見鶏公園付近で発生している事が分かった。

不審者はこの風見鶏公園を拠点として活動しているとして間違いないだろう。


 また、セツナ達が通う高校の生徒も少ないながらも事件に巻き込まれている。

生徒会長であり、正義感が人一倍強いケイのことだ。

妙な気を起こさなければいいが……。


「ーーセツナ」


 ツィッと緑の小鳥、バーディがセツナの肩に止まる。


「相棒、何か見つかったか?」

「この近くに転送痕が残っていた」

「あっさりと見つけたな」


 転送痕とはその名の通り、転移装置による転送の際に残る残留物のことだ。

微弱な電磁波や重力波として残っていたり、或いは目に見える形として軽度の熱による地物の変形と言った状態で残っている。


 その転送痕を発見してしまったとなるといよいよ確定的ではないか。

問題は根城を発見したわけではないと言う事。

結局敵が現れるのを待ち、後手に回るしかない。


「やっぱりケイちゃんにも協力してもらおうよ」

「……僕を殺すつもりか?」


 隣のナユタを見る目がジリジリと刺す西日に反比例して冷たくなる。

ナユタ一人でもツッコミ疲れするのにもう一人増えるなど、手に負えない。


 セツナがため息をつく。


「危険だから先に帰ってくれよ」

「それって心配してくれてるってことでいいの?」

「いや、単純に邪魔なだけだ」


 あららとナユタ。

キッパリと言い放つセツナの視線は冷たい。

今までの経験則から彼女がいた事で戦いが大きく有利に傾いた試しが無い。

戦いはリスクをできるだけ低くすべきだ。

それに護衛対象を悪戯に増やせば、それだけ戦いには不利に働くだろう。


「ほら、孤独なヒーローには必ず影の協力者がいるって言うじゃない?」

「だれが孤独だ。 ーーお邪魔虫の間違いじゃないか?」


 全く、人の気も知らないでーーセツナは戦いにおいて彼女は邪魔と考え、一方でナユタは彼の力になりたいと考える。

平行線のまま話が進まない。


「ナユタ」


 とバーディ。


「私も帰っていてほしいと思う」

「うわん! 味方してくれないのね!」


 多少オーバー気味にショックを受け落ち込むナユタ。

正直、知り合いと思われたくない。


「みんなしてわたしを除け者にして……。 ーーいいもんいいもんどうせわたしはお邪魔虫ですよ〜だ」


 いじいじと地面にのを書きいじけるナユタを冷たい視線を通り抜かして最早呆れた視線で見る。

セツナはまたため息をつく。

全く、騒いだり落ち込んだり忙しい姉だ。


「……すこぶる面倒臭い」

「私に任せてくれ」


 バーディが彼の肩から飛び立ち、ナユタの前を舞う。


「ーーいいかい、ナユタ、セツナはちゃんと君のことを考えている」

「そうなの?」

「ああ、私が言うのだ。 間違いじゃない」


 その言葉に一気に立ち直り喜ぶナユタにセツナは最早やってられないと少し離れる。

ここは西日が暑い、とりあえず日陰のベンチで涼む。

10m前にはナユタとバーディが何やらきゃっきゃと話している。

よく盛り上がれるな、お前ら……ーーセツナはまるで別世界の出来事のようにその様子を眺めてていた。


 やがてナユタは足どり軽くこちらに近付いてきた。

その表情はやたら明るい。

訳のわからないセツナの手を取り言うのだ。


「セツナくん!」

「何だよ……」

「わたしいつまでもセツナくんの事信じてるからね!」

「ん? ああ」


 そう言うとナユタは満足気な笑顔で、頑張ってね、と離れる。

手をバイバイと振る彼女につられてセツナも小さく手を振る。


 やがて彼女が遠く小さくなっていく。

進むは彼女の家の方向、おそらく帰宅しようとしているのだろう。

呆気に取られたセツナは手を振るのを止め、隣にいるバーディに声を掛ける。

どうやって彼女を説得したのだろうか。


「ーー相棒、何て言って納得させたんだ?」

「ありのまま言っただけだ」


 セツナが聞き返す。

バーディが、そうだな、と口を開く。


「要約すると、セツナは君のことを心の底から心配でとてもとても大切に想っている、と言っただけだ」

「な、ふざけんな相棒!」


 顔を真っ赤にして否定する。

ニヨニヨとバーディが真っ赤なセツナを見る。


「全っ然そんなんじゃないからな!」

「セツナは本当にツンデレさんだなぁ」

「違う!」


 もういいと近場のベンチにどかっと座り込む。

おやおや顔が赤いぞ、とバーディが横を飛び回りセツナを煽る。


「うるさい黙れ静かにしろ。 むしろ、早く戻れ」


 バーディはちぇっと小さく拗ねてセツナの手に収まる。

緑の小鳥はフェザーエヴォルダーに姿を変えた。

そしてやがて公園はオレンジから青く染まり、人はいつの間にか捌けてめっきりいない。

空には一番星が輝き出した。


 ケイの推測では今日はここ、東部エリアに現れる可能性が高いらしい。

彼女の推測を疑っているわけでも無く鵜呑みにするわけでもないが、ゼロの状態よりは幾分マシだろう。


「さぁ、いつでも来やがれ……!」


 セツナが珍しく意気込む。

むしろ出来るだけ早く来い。

貴重な睡眠時間に食い込む前に。


………

………………

………………………


「………来ないな」


 夏の大三角形が夜空を描いていた。

セツナが見上げる。

公園の電灯が少しばかり歩き疲れた彼をまるでスポットライトのように照らしていた。


 あれから何時間経っただろう。

セツナが右手の腕時計を見る。

23時を少し回ったぐらいか。


 何か起きても良さそうだが、2時間くらい前に帽子を目深に被った人とすれ違ったくらいか。

こんな暗がりの中で他に言いようもなく怪しかったのだが、エグスキの戦闘員が放つ独特の緊張感を放っていなかった。

故にただの通りすがりの一般人と判断した。


 彼はエグスキを倒す為にいるのだ。

単なる不審者ならば警察やらなんやらに任せておけばいい。

それに不審者とはいえ一般人、プレステイルの力を使うのはどうだろうか?

乱用すべきでないと考えた彼は、結局変身しなければただの少年なのだ。


『もしかしたら彼女の推測は間違いだったかもしれない』


 そう思って何度もこの周辺を見回っていたが、怪しいところは何もない。


「……かもな。 それに昨日今日の話だから相手も警戒しているかもしれないな」


 敵と遭遇しなくてホッとして良いものか悪いものか、ともかく複雑な気分だ。

グウと腹が鳴りセツナが頭をかく。


 統計上23時以降は事件は発生していない。

それは敵の活動時間が23時までなのか、単に23時以降ターゲットとなる女性がいなかっただけなのか、それはセツナには分かりかねた。

ただ確かに言えることは一つある。


「よし、今日は出ないな。 ーーそれに眠いし暗いし」


 欠伸一つ、帰路につく。

最早、夜食の準備さえ惜しい。

早くベットで寝たい。

今の時間はいつもなら夢の中だ。

セツナは近頃の少年には珍しく早寝早起きなのだ。


『つくづく鳥みたいな奴だな、君は』

「……流石にお前だけには言われたくない」


 ああ、家が、ベットが遠い……。

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