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疾風!プレステイル  作者: やくも
第六話 危険な夜道
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6-2 とある夏の日の午前

 前回の戦いからずっとバーディに聞きたいことがあったのだが、カガミ・セツナが聞く度に彼……いや、彼女に話をはぐらかされていた。

今はまだ話すべきではない、余計な混乱を招きたくない、と言うのが彼女の言い分である。

宇宙人の襲来、命懸けの戦い……何を今更とセツナはため息をついたが彼女が口をつむぐ以上何も聞き出すことは出来なかった。


 セツナは突き出した拳を引き残心。

そして額に流れる汗を拭い一息、空を見上げる。

蝉の声が渡る庭から見る空は目が眩みそうになるほどに真っ青に染まっていた。

今日も暑い日になりそうだ。


 ベランダに置いていたタオルを手に取り汗を拭いた。

まだ太陽が顔を出して2時間も経っていないが十分暑い。


「ーーシャワるか……」


 汗を吸いじっとりと重い胴着を脱ぐとそれを肩にかけ裏庭からリビングに上がる。

アンダーシャツそのままで洗面所に向かう。

洗濯機に胴着を突っ込むとガスボイラーのスイッチを入れる。


 そんな時だ。


「セツナくんセツナくん!」


 よく通る声とドアを叩く音が玄関の方向から聴こえてきた。


「クオンー! 代わりに出て……って今日はいないんだったな……」


 今日はクオンが所属している空手部の合宿の開始日だ。

朝早くからイヤイヤながらも出て行ったのだ。

練習嫌いのクセに、たゆまぬ努力を見せないクセにそれでいて全国トップクラスなどインチキ極まりない。


 セツナは舌打ちと共に何処か呆れたようにため息をつくと玄関に向かった。

そこに辿りつくとこのドアを叩く人物に更なる確信を得た。

この声はよく知る人物のはずだ。

彼はノブに手をかけワザと思いっきり開け放つ。


「にゃ!?」


 何かがぶつかる感覚と共に鈍い音。

正面には誰もいない。

セツナが視線を落とすと亜麻色の髪をアップスタイルにまとめた少女がうずくまっていた。


「い、痛いじゃない…」

「近づき過ぎたナユタが悪い」


 ヤマブキ・ナユタが鼻をさすりながら立ち上がる。

形の良い鼻が真っ赤で痛々しい。

セツナが彼女を冷たく見上げる。


「で? ……何だよ朝っぱらから。 小学生じゃあるまいしラジオ体操に参加する必要ないだろうよ」


 セツナがイラついたように腕を組む。


「ダメだよ、参加しなきゃ。 皆勤賞のお菓子をかかってるんだから……って違ぁう!」


 声を大にしてツッコまれる。

セツナはナユタの大声に小さく顔をしかめたが、依然表情を崩さない。

もうっ、と彼女が呆れたように腕を組んで続けて言う。


「事件だよ、じ・け・ん」

「ふぅん、で何で僕に言う?」


 面倒臭そうに、興味なさそうにセツナが彼女を見る。

ナユタは首を傾げた。


「だってセツナくん。 みんなのヒーローさんじゃない」


 彼の秘密、それはプレステイルであること。

そう、それはこの間彼女にバレてしまった。

セツナが眉をひそめる。

強く口止めはしたものの、彼女が油断して誰かに喋ってそうで怖い。

それに自分がみんなのヒーローと言うにはそれは語弊がある、セツナは思いため息を小さくつく。


「何か興味無さげだね……」

「だって事実興味無いもんな」

「むぅ、じゃあ、お姉ちゃんが嫌でも興味をださせるよ!」


 そう意気込む彼女に更に冷たい視線を送る。

しかし、見えない壁があるようで彼女がそれを意に介することは無い。


「……おかえりはあちらとなっています」

「わざわざご丁寧に……って違うよぉ!」


 ムキになるナユタに対してあくまで冷静に受け流すセツナ。


 すこぶる興味ない。

何も便利屋になるためにヒーローになったわけじゃないのだ。

口を開こうとしたセツナの肩にツイッと1羽の緑の鳥が止まり遮る。


「ーー少しは彼女の話を聞いてもいいだろう、セツナ」

「バーディちゃん!」

「やあ、ナユタ。 調子はどうだい?」


 ナユタの顔がパッと明るくなる。

話を聞いてくれそうな人が来た、そう言いた気だ。


「元気だよっ」


 バッチリポーズを決め、サムズアップ。

それは良いことだ、とバーディが宙に舞い彼女とハイタッチをする。

いつの間に仲良くなったんだよ、お前達……ーーセツナは頭を抱える。

案外、波長が近しいのかもしれない。


「事件の話を聞いて良いかい、ナユタ?」

「ガッテン承知のスケ!」


 ナユタが自信満々に胸を叩き鼻を得意気にならす。

それを見てため息一つ。

バーディにこの場を任せてそっと離れる。

だが、その背中、アンダーシャツをキュッと掴まれ引き止められる。


「セツナくんも聞いていってよ」


 振り返るとナユタが頬を不機嫌そうに膨らませていた。

バーディがやれやれと肩をすくめる。


「そう言うことだ、セツナ」


 諦めろ、暗にそう言ってるように聞こえた。

確かに彼女から逃げることは出来なさそうだ。


「分かったよ。 ーーその前にシャワー浴びさせてくれ」

「……ご一緒しても?」


 ドキドキとナユタが言った。

思いっきり冷たい視線で言い放つ。


「是非、と言うと思うか? バカナユタめ」


 めげずに更にセツナに食い下がる。


「じゃあ覗く」

「……」

「なんで無言で受話器を手に取るの!?」


 冷たい視線、そんなものをとっくに超越して三歩下がりダイヤルを入力しはじめる。

最初は1、その次も1、最後に……そこで衝撃。


「ストップ、セツナくん!」

「……あ」


 一瞬彼女から目を離したのが運の尽き。

ナユタは文字通り体を張って抱き付くようにセツナのダイヤル入力を阻止したのだ。

動きに対応出来ずに押し倒される。


 ここが寝室ならばロマンスの欠片を匂わせることができたろうに……生憎ここは玄関、床はフローリングだ。

故に硬い。


「ーー!?」


 本当に火花が散り出しそうなほどの衝撃。

どうやら打ち所が悪かったようだ。

遠退く意識。

年貢の納め時、そう言う事だろう。


「セツナくん? セツナく〜ん!?」

「きゅぅ……」


 バーディは気絶したセツナの隣でオロオロしている彼女をある意味関心しながら見ていた。

油断していたとはいえ、彼を一撃で戦闘不能に追い込むとは……この娘なかなか侮れない。

もしかしたらセツナよりも潜在能力は上かも知れない。

トラブルメイカーなのが玉に瑕だが。


 外では相変わらず蝉の大合唱が夏の熱い風に乗って響いていた。

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