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疾風!プレステイル  作者: やくも
第五話 素顔の仮面
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5-6 きみはいつでもスーパーヒーロー

 雨足が次第に強くなる中、遠雷のような音がした。

男が音の方向を見ると遠くで高く土煙が次々と上がっていた。

どうやら本当に奴は来たようだ。

男、ベネノパイダスが嗤う。


「あんなのが本当に効果あるとは……笑えるじゃねえか」


 ベネノパイダスがちらりと後ろを見る。

そこには一人の少女、ナユタが磔に囚われていた。

彼女は気を失っているのか頭が垂れたままだ。

彼がナユタの近くまで歩み寄る。


「こんなガキがプレステイルの弱点とはな」


 ベネノパイダスがナユタの濡れた長い髪を掴み顔を上げた。

彼女は小さく苦悶の表情を浮かべる。

彼はその表情に快感を覚えてたのか、鼻で笑い手荒く突き放す。


 フェニーチェの状況提供が無ければこの少女まで辿りつく事さえ出来なかっただろう。


「あの胡散臭い人形もたまには役に立つじゃねえか」


 ベネノパイダスは前回の戦いを思い返す。

あの時、彼が取った人質は紛れもなくこの少女である。

彼は計らずもプレステイルの弱点をついていた事になる。


 思えばこの少女を盾に取り続ければプレステイルを倒す事が出来たはずだ。

しかし、それは叶わなかった。

では、何が問題だったのか。


 それはフェニーチェの裏切り行為により手放す事になったのも一つの原因であるが、一番はベネノパイダスがこの少女にそこまでの戦術的価値があるとは思っても見なかったことであろう。

知っていたならばプレステイルの奇襲時にあっさりと手放す事はなく、盾として利用しただろう。

どちらにせよ、手放した時点でプレステイルに戦いの流れを掴まれたといっても過言でない。


「ーーン……」


 ナユタが小さく呻き薄く目を開く。

ベネノパイダスが、やっとお目覚めか、とニヤリと見やる。


「ーーあなたは……!」


 次第に自分が置かれている立場を悟る。

あれは夢じゃ無かったのだ。


「エサに釣られた鳥がノコノコやってきてるぜ?」

「ーーセツナくんが?」


 そう、これも夢じゃ無かった。

プレステイル=セツナ、彼がどうしてここに来ているのか。


「プレステイルはてめえを助けにノコノコ殺されに来るのさ」

「ーーわたしを助けに?」


 そうさ、とベネノパイダスがわざとらしく頷いた。

死のイメージがナユタを襲う。


「来ちゃダメ…セツナくんーー」


 助けてもらいたくない、と言ってしまえば嘘になる。

だが、彼が傷つき倒れる方が自分が殺されるよりも恐ろしい。


「ーー絶対に、死なない……絶対にーー」


 弱々しく自分に言い聞かせるようにつぶやくナユタに彼はニヤニヤとする。

戦いは生きるか死ぬか。

彼にも同様に死の運命が付きまとっているのだ。


「どうだかな。 ま、奴が目の前で殺されて絶望に沈むのを見るのも悪くねえな」


 ベネノパイダスは未だ鳴り止まぬ遠雷のような爆発音の方向を眺める。

あそこに彼がいるのか、ナユタが祈るように見る。


 プレステイルの為に張った二重にも三重にも存在する罠。

この為に用意した兵力は前回の戦いの5倍、いくらプレステイルであろうと一溜まりもないだろう。

仮に突破されたとしても所詮は虫の息、赤子の手をひねるより容易い。


「ーーセツナくん……」


 爆発音は収束し、やがて雨の音だけが辺りを覆う。

何処からともなく人形、ホルシード兵が現れベネノパイダスに、彼女にとって未知の言葉で告げる。


『ポイント5427にて、目標消失しました』

『ーークックック、そうか!』


 その報告にベネノパイダスは思わず高笑いをする。

ナユタにとってその言葉は未知であり、意味が理解出来なかったが、フッと悟る。

これはわたしにとっては良くない言葉だ、と。


「よぉ、プレステイルの奴、跡形もなく消し飛んだんだとよ」


 ベネノパイダスが馴れ馴れしく肩を組み囁く。

今度の言葉は理解出来たが、知りたく無かった。

ナユタの顔が強張る。


 死んだ?

彼がいなくなった?

そんなの嫌だ。


「志し半ばで倒れるか。 お笑い種じゃねえか!」

「ーーセツナ、くん……」


 ナユタは彼の無事を願い、死を否定した。

だが、聞こえるのは男の残酷な笑い声と雨音だけだ。


「プレステイルは死んだ! 後は彼奴らをぶち殺すだけだ!」


 その言葉はナユタに突き刺さる。

彼女が考えるのを止めるように絶望に沈む。

一方ベネノパイダスはこれ以上なく笑い上げ、これから宴でもはじめるのではないかと思う程である。


 これはきっと夢だ。

ーーいや、紛れもなく現実だ。

目が覚めたら嫌な夢だったと胸を撫で下ろすことができるはず。

ーー彼の為に祈る事さえ叶わない。

だから、誰か起こしてよ。

ーーそして、絶望に沈む。


「ーーセツナくん……」


 身体を冷やしていくのは、きっと篠突く雨だけじゃない。

きっとこの雨は二度と晴れ渡ることは無いだろう。

ナユタは停止しつつある思考の中ぼんやり思った。


「ーー勝手に殺すなよ」


 そして、遮る少年の声。

声の出処を探し、辿り着いたのは高台の上。

人影がベネノパイダスを見下していた。

ナユタにとってはその姿を見間違えるはずもない。


「セツナくん!」

「遅くなってすまないな、ナユ姉」


 その姿はベネノパイダスの仕掛けた罠の激しさをその身を持って示していた。

だが、彼を見るだけでも心が満たされるような気がする。


 ベネノパイダスは狼藉し、彼に問い詰める。


「プレステイル……! てめえ、死んだはずだろ……!?」

「ーーお前の事情なんか僕が知るか」


 高台から飛び降り着地、ベネノパイダスを睨んだ。


「ーーくっ! ホルシード兵!」


 ベネノパイダスの指示と共に後ろに控えていたホルシード兵が跳躍し彼に襲い掛かった。

振りかぶった右腕が刃に変化する。

ナユタは声を上げた。


 振り下ろされる右腕がセツナに迫る。

彼が一呼吸、左手に握られたフェザーエヴォルダーから光の束が放出された。


「ーー遅いぞ……!」


 一閃、セツナは舞うように光の剣を振るい、ホルシード兵を斬る。

ホルシード兵はまるで業物の刀で斬られたように真っ二つに割れ、崩れ落ちた。

断面の機械がバチリとスパークする。


 切っ先をベネノパイダスに向け、静かに怒る。

光の剣はそんな感情に呼応するように激しく燃え上がり、触れる雨が蒸発していった。


「さあ、覚悟しろよ……!」

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