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疾風!プレステイル  作者: やくも
第四話 変わらない想い
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4-10 二人の世界

 触れる体温とそよぐ風の音が心地よい。

いつの間に寝てしまったのだろうか?

彼女は夢を見るように目覚めると次第に明るくぼやける視界、隣には誰か見覚えがある横顔。


「ーー気が付いたか?」

「……セツナくん……」


 揺らぐ木漏れ日の中、微笑む彼の横顔に心から安心した。

彼もまた普段見せないような顔で、安心し切ってるようだ。


「ーーあ、わたし……」


 意識がはっきりするにつれて周りの状況を理解してきた。

でも、どうして公園なんかにいるんだろうか?

確か、バスに乗っていたはずだ。

それに今朝は制服を着てたはず、どうして上にジャージを羽織ってるんだろうか?


「嗅ぐな、馬鹿ナユタ」


 ああ、道理で安心するはず。

心なしか肌に触れるジャージの生地まで気持ちいい気がする。

あれ?ーー少し思考が止まる。

どうして制服の上からジャージの生地の感触がするのだろうか?

隣にいる彼の顔が少し赤み帯びてるのは気のせいだろうか?


 ナユタは自分の襟元を覗き込む。

襟元の狭い範囲かつ豊満なバストによりあまり見えなかったが、ギリギリのラインを形成していたことに気が付いた。

ナユタの顔がボンッと音を立てて赤くなる。

そして、モジモジとしながら隣に座るセツナに尋ねた。


「あの、セツナくん? 一応確認するケド、エッチなこと……してないよね?」

「するかボケ!」

「だよね〜……」


 安心したような少し残念なような、ナユタは複雑にはにかんだ。

そんな様子を見たセツナは照れ隠すように頭をかきつつポツリと言った。


「ーーまぁ、大丈夫そうで何よりだ」


 そうだ、思い出した。

この状況の原因であろう出来事の事を。

今朝バスで通学中、宇宙海賊エグスキによるバスジャックに巻き込まれた。

そこで蜘蛛男に囚われ辱めを受けそうになり、怖くて震えていた。

助けを求めるようにセツナを見ると、彼はあやすように口角を動かした。

安心しろ、そう言っているように聴こえた。


 それからはよく分からない。

突然の閃光に、気が付いた時にはヒーロー……プレステイルに助け出されていた。

そして、緊張の糸が切れて眠るように意識が途切れた。


 気を失う瞬間光の中で自分を助け出した影が誰かの横顔が重なった。

それは誰だっただろうか。


 それからの経緯は分からないが、今、こうして彼の隣にいる。

言ってしまえば経緯なんてどうでもいい。

どうせ彼の事だ、ヒーローから助けられて安全と見ると、真っ直ぐに事件現場から連れ出してくれたのだろう。


「……セツナくん」


 なんだ、とぶっきらぼうにセツナが返す。


「ヒーローさん、みんなをみんなを助け出してくれたのかな?」

「じゃないと僕らはここにいない」


 当たり前、と言いた気にさらりと言う。

彼に興味が無い……、いや違う。

セツナからどこか後悔してるような、どこか申し訳なさそうな、ごちゃごちゃとした感情を感じた。

しかしすぐにいつもの冷静な表情に戻る。

その違和感は気のせいだったか……。


「そっか……そうだよねーー」


 ナユタは空にその名をつぶやくようにそのヒーローに感謝する。

そして、彼の肩にそっと頭を寄せる。

きっと彼と彼が重なって見えたのは心からの羨望だっただろう、思い込むことにしよう。


「ありがと、ヒーローさん」

「ーーナユタ、お前」


 セツナは何か言おうとして一瞬ハッと止まり何かをつぶやく。

いや、そんなわけ無いかーー彼がやれやれと息をつくと冗談っぽい口調で返す。


「ところでナユタ、太ったか?」

「太ってないよぅ! ……重かった?」


 ナユタがかなり焦りつつ反論し、そうして少し申し訳なさそうに言った。

セツナがニヤリと笑い言う。


「ナユタの名誉のためにノーコメントで」

「それほとんど言ってるよね……?」


 その困惑した表情がセツナの加虐心をさらに煽ったのだろう。

彼は珍しく満面の笑みで、しかし、とてもではないが純粋な気持ちからの笑顔とは言えない邪悪さを持って、ナユタの耳元で言う。


「耳に届く声で言ってやろうか?」

「う……えんりょします」


 ダイエットしなきゃーーナユタは密かに決意をした。

一人で燃えるナユタを尻目にセツナは、半分は冗談なのにな、と肩をすくめる。


「ーーで、ナユタ? いつまでひっついてるんだ? 僕の肩は枕じゃないぞ」

「え? あはは、そうだね」


 ナユタが少し名残おしそうに離れる。

そして、はにかんだ笑顔を彼に見せた。

セツナがその笑顔にドキリとする。

彼が頬をかき、すくりと立ち上がる。


「腹が減った。 何か食いに行くぞ」

「え、今ダイエットを……」

「ほら」


 何か言いかけるナユタに手を伸ばす。

ナユタはちょっと迷ってから差し伸ばされた手を掴む。


「うん、行こ!」


 そして、グイッと引っ張られるように立ち上がった。

ナユタは密かに彼の手の大きさに驚いていた。

あの頃、自分が引っ張って歩いていた頃はちっちゃかったのに。

毎日会っているのに気がつかなかった。


「ーーセツナくん、ずっと見守ってるよ……」

「え?」

「なんでもないよ〜、ひとりごとだよ」


 ナユタの頬は季節外れの桜が咲いた。

そして、クイッと逆にリードするように引っ張る。


「お姉ちゃん、オススメのお店を紹介するよ〜」

「……なんか嫌な予感」

「ほら早く早く」


 セツナは流されるままに笑顔になる。

それと同時に彼女を守りたい気持ちが一層深く感じた。

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