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疾風!プレステイル  作者: やくも
第三話 ライトニング・ザ・ウルフ
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3-4 アンド・ユー・トゥー?

 朝から心地よい風が開けっ放しの窓から吹き抜ける。

一仕事終えた後の解放感と言うか、達成感がとても清々しい。


「ーーカガミさん、お疲れ様でした」


 凛と柔らかな声をかけられたセツナは窓の風景から目を離し振り返った。

そこにはたおやかな少女がいた。

花に例えるのはガラではないが、赤い椿の花が似合いそうな雰囲気だ。


「ああ、お疲れ、生徒会長」

「そう呼ぶのはやめてくださいよ」


 彼女が眉を八の字に下げながら笑った。

セツナは視線を逸らし頭をかいた。


「じゃあ、…ミズアサギ先輩、お疲れ」

「よろしいっ」


 彼女ーーミズアサギ・ケイがニッコリと微笑む。

ナユタを太陽と例えるならば、彼女は柔らかな光の月だろう。

ああ、なんか住む世界が違うんだな、セツナはぼんやり思った。


「本当に今朝は助かりましたよ〜。 カガミさんが来てくれなかったらどうなっていたことやら……」


 彼女は両手を合わせて柔らかに頬を緩ませる。

その視線が堪らなく照れ臭い感じで居心地が悪い気がした。

ケイから視線を外したのはその所為だ。

視線を外した先には先程片付けた資料の本やらプリントの束やらが山のように積み重なっていた。

誇張ではなく、本当に山のように。


 創作物に良くある学校の運営を全て取り仕切るような有能過ぎる生徒会の代償なんだろう。

有能過ぎな集団も考えものだ。


「偶然だよ、偶然通りかかっただけ」

「でも、白馬の王子様かの如く、そっと手を貸していただけたのは嬉しかったですよ?」

「どんな例えだ、ソレは?」

「え? 変ですか?」


 頭が痛くなる気がする。

なんで僕の周りにはナユタを始め、濃い奴ばかりなんだ。

僕はもう行くからなーーセツナは呆れながらため息をつき、自分のバッグを手に取る。


「あ、そう言えば、ナユタさんと夫婦喧嘩してるって聞いたのですが……本当ですか?」


 思わず吹き出し、バッグを落としそうになる。

あなたもアイツと同じようなことをどうして聞くのか?

と言うか、夫婦って何だ……夫婦って。

冷静を装いつつ尋ねる。


「……一応聞いておくが誰から聞いた?」

「レキさんからですよ」

「あの赤メガネが……!」


 人をからかってニタニタと笑っているあの赤メガネが目に浮かぶ。

あの性悪メガネが、と小さく毒づく。


「駄目ですよ。 いくら本当の事でも言っていいこと悪いことが……」

「ミズアサギ先輩のが酷いと思うぞ」


 言ってしまえばケイとレキとそれからナユタは親友、仲良し3人組である。

セツナ自身、ナユタとは幼馴染かつ姉弟のような関係であるため、彼女らとも親交は決して薄くない。

知り合いになるのもごく自然なことだ。


「え…、そうですか?」


 キョトンと目を丸くさせるケイ。

そんな彼女を見てセツナは小さく息をついた。

ああ、この人、素でこうなんだな。


「ーー質問に答えるが……喧嘩なんかしてないぞ」

「でも、最近、恋人同士一緒に仲睦まじくいるところをお見かけしませんよ」

「む…、別に一緒にいなければならない、なんて法律ないからな」

「恋人と言うのは否定しないのですね!」


 彼女がキラキラと恋する乙女のように……いや、乙女か……目を輝かせ、ずずずいと詰め寄る。

しまったーーセツナの額に汗が一筋。

鼻息は荒く、セツナの一言で興奮してしまったのがわかる。


「やはりナユタさんとカガミさんは……キャー!」


 暴走。

一言で言えば正にそれ。

全くどんな妄想したんだか。


「アレがコレでコレがソレでソレがアレでーー!」


 どんな妄想に浸っているか、手に取るようにわかる気がするが……正直に言って、理解したくない。

というより重度で危険な……ここで書けない程の妄想を早口でつらつらとガトリングのように放つ彼女に関わりたくない。


「……なんだか逆に冷静になってきたよ、先輩」


 セツナはため息を一つついた。

このまま暴走させておくのも良いが、何せ今の彼女は自らの妄想をばら撒くだけのガトリングだ。

とりあえず学び舎にその兵器をそっとしておこうと言う考えは危険過ぎだ。

しかも彼女は一応、文武両道品行方正容姿端麗超絶最強無敵完全無欠の生徒会長様だ。

こんな妄走してる姿は世間一般的にはアウトな姿だろう。


「ーー私は生徒会長、学園の風紀を律せねば。 いいえ、しかし私はナユタさんの親友、友人の幸福は全力で祝うべき。 しかし、不順異性交遊は校則として禁じられている。 私はそれを見過ごすわけには……。 ああ、それでは親友の親友の幸せを踏み躙るような真似をしてしまうことにーー」


 本音はこんなことしたくないんだがねーーセツナは彼女に冷たい視線を送りつつバッグを置き、手身近にあったプリントを棒状に丸めた。

……これも先輩のイメージを守るためなんだがら勘弁してくれよな。


「ーーああ! どうしてくれましょう!」

「ホントどうしましょうかね」


 振り抜かれたプリントの棒がスパンといい音を奏でた。


「ーーは! 一体私は何を?」

「おかえり、先輩」

「……ただいま。 もしか、私……?」

「ハジけてた」


 わぁっ、と慌てて真っ赤にした顔を両手で隠す。

いつもが真面目である分相当恥ずかしいのだろう。


「……あの、誰にも言わないで下さいますか?」


 ケイが指と指の間からセツナの様子を伺いつつ恐る恐る言う。

彼女の株を下げたってしょうがないし、誰の得にもならない。

セツナは頷く。


「ありがとうございます」


 彼女はホッとしながら微笑む。

セツナは、それはどうも、と返答しつつバッグを手に取る。


「じゃあ、僕はもう行くから」


 微笑むケイの横を通ろうとした時だ。


「あ、もうちょっとだけ……」


 唐突にケイに手を掴まれ呼び止められる。

振り返るとセツナの顔のすぐ近くに彼女の瞳があった。

真っ直ぐで真摯で……綺麗な瞳だった。

心臓がドキリと跳ねるのがわかった。


「……なんですか、先輩?」

「カガミさん、動かないで」


 思わず丁寧口調になる。

彼女の真の本性はアレでも、見た目や振る舞いからして正に文武両道品行方正容姿端麗超絶最強無敵完全無欠の生徒会長様だ。

意味はよく分からないが、ともかくこの学校の男子生徒にとっての高峰の花である。


「ミズアサギ、先輩? ほら、もう僕、行きたいのですが……」


 ジッと彼を見つめる。

セツナはこの心臓の高鳴りがケイに聞こえちゃいないか心配だった。

……どうしたんだ、先輩。


 ケイがそっと更に近づいて来た。

セツナの心臓は最高潮に跳びはねた。

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