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14.愛し子は、森に捨てた。

本編はここで完結です。


番外編や後日談をUPしていくので、引き続きお付き合いいただけるとうれしいです^^

「--わたしのお腹には、王族の血を引いた子どもがいるのよ!」


 衛兵に壁際へと追い詰められたその女は、腹を庇うふりをして、うるうると男たちを見上げた。


 最前列にいた者たちが寝返り、モニカを守るように盾になった。




「はは、フラヴィア。君の茶番はあながち間違っていなかったみたいだぞ」


 奥で見守っていたクラウスが笑った。


 その目には怒りの色が見え隠れしていた。兄が変わってしまった原因に思い至ったのだろう。


 フラヴィアは、その背にそっと手を添えた。だが、自分の胸のうちも嫌な感じに暴れ回っていた。


 領地に生えている毒草に、あのような効果があったことを思い出したのだ。



 クラウスは淡々と指示を出した。


 寝返っていない衛兵たちをじりじりと後退させ、扉を閉めると、部屋の中にねむり粉を撒いた。


 こうしてモニカ・バルベリの捕縛に成功した。




 モニカが身ごもっていたのは本当で、--ただ、誰の子どもなのかはわからなかった。


 無事に子どもが生まれたあとは、ほかの取り巻きたちとともに辺境の村へと送られることに決まった。


 監視もつき、働き次第ではその村でなら婚姻も許されるという。


 それは、フラヴィアの演説を慮ってのことであったのだろう。







 あれから数年の月日が流れた。


 妖精のつがいを失ったはずの愛し子は、今も生きている。


 クラウスは王に、フラヴィアは王妃になり、王子たちも生まれて日々忙しく過ごしていた。




 自分が愛し子であると知ったとき、そして、永くないとわかったとき。


 フラヴィアはクラウスに、とある提案をした。「あなたを好きになってみてもいい?」と。


 それは延命のための苦肉の策だったが、--互いの心が確かに通ったあの時、胸の辺りがすっと軽くなった。


 もしかすると、契約が書き換えられたのかもしれない。




 日々が目まぐるしく過ぎていくが、王妃の為にと設えられた温室で過ごすひとときは、なるべく持つようにしていた。


 それは秘密の部屋。温室の奥には、秘密の形に配置されたどんぐりがある。


 そこに王妃の、かつての魂の母親である妖精が、ひっそりと暮らしていることは、クラウスしか知らない。



 同じくつがいを失っているエカチェリナリアは、妖精でありながら、日々歳を重ねている。


 出会った時は十四歳ほどだったのに、今はもうその肌にはりはなく、皺が刻まれている。--だが、まだ生きている。





「わたくしには、運命を切り開く力があるわ。

 それに美人だし、頭もいい」


 それは、独り言のようにぽつりと漏らされた。


 自分に言い聞かせるような言葉であった。



 国を担うというのは、平穏な日々とは縁遠い。


 いつでもなにか問題があって、自信家のフラヴィアといえども、不安になることもあった。



 このように自分を褒めるのは、そういうときのおまじないであった。


「アリア」


 ふたりだけの愛称として、クラウスはフラヴィアをそう呼んだ。妖精だった時の名と、今の名。


 どちらも合わせたこの愛称を、彼女はひどく気に入っていた。



「君の傲慢さは、森に捨ててきたのかと思ったのだけど、--健在なんだな」


 そう言ってクラウスは可笑しそうにわらった。


「あら、ほとんどは森に捨ててきたと思うのだけれどね。

 愛されて自信がついたのだと思うわ」


 フラヴィアは背伸びをして、その頬にキスをした。


 クラウスは少年のように顔を真っ赤にした。


 そんな彼の様子を、フラヴィアは愛おしく思った。




 木漏れ日の王国、ルスリエースは、今日も晴れている。


 王妃フラヴィアは、眼下に広がる深い森の豊かな実りに、今日も感謝を捧げた。







『愛し子は、森に捨てた』 ー完ー

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