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37. パーティーのこと




「ヴィオラ様は、二週間後のパーティーには参加するのですか?」


 マリアーヌが私の元にやって来るのは、もはや恒例行事となり始めていた。


 かと言って突き放すのは色々と問題になってしまう。


 まず絶対に悪口を影で叩かれる。場所は私のクラスだし、マリアーヌは必ず数人のご友人を連れて来る。人目が多いところで私が彼女に酷いことを言えば、たちまち私の悪評は学園中に広まることだろう。


 認めるのは遺憾だけれど、私よりもマリアーヌの方が名声は高い。

 積極的に様々なお茶会に参加して、幾人ものご令嬢と仲良くなっているのだ。同世代のご令嬢とはほとんどが知り合い、または友人だと言っても過言ではないだろう。一度でも不穏な空気になれば、こちらが圧倒的に不利になる。




 だから今は、なるべく波を立てないように気を使う。




「ええ、王族からの招待状はお断りできませんから」


 そう答えると、マリアーヌは花が咲いたような笑顔を見せた。


「そうなのですね! ヴィオラ様は全くお茶会に参加しないので、今回ももしかしたらと心配していましたの……でも、それを聞いてホッとしましたわ。わたくし、当日が楽しみですわ!」


「それは良かったですねぇ」


 ──私は全く楽しみじゃないですけどね!

 という本音をぐっと抑え、笑みを顔に貼り付ける。


「ですが、参加は夜会だけにしようかなと思っています」


「そうなのですか? それは残念ですわ……」


 第二王子『アレイクス・ルート・アクセラ』の誕生日パーティーは、二回に分けて行われる。


 第一回が当日の昼に開催される、招待された貴族同士のお茶会だ。

 これは用意されたお茶や菓子を頂きながら、他の貴族と交流を深めるために行われるらしい。


 ……まぁ、普通のお茶会と何も変わらない。

 唯一違う点を挙げるとすれば、その規模だろう。


 お茶会は王城にある庭園で行われる。

 それはそれは沢山の人が集まることだろう。


 ──絶対に行ってやるもんか。


 強く、心にそう決める。

 私もヴィオラも、あまり人が集まる場所は好まない。

 ほとんどの貴族が集まるであろうパーティーに、一日に二回も参加するなんて、ただの拷問と同じだ。


 そして第二回が、言わば本番だ。

 時間帯は夜になり、第二王子のお披露目が王城の大広間にて行われる。

 やることは昼とあまり変わらないが、夜の方がいくらか静かな雰囲気になるので、参加するのであれば夜会の方を選択する。


 会場では何人かと踊ることになるだろうけれど、しっかりダンスの振りは覚えているので問題はない。

 最低限だけ踊って、後は適当な場所で時間を潰す。庭園を見渡せるテラスならば、明るい会場よりも私の赤髪は目立たないと思う。人混みに酔ったとか言ってそこに行ってしまえば、誰も必要以上に接して来ることはない……と信じたい。


 昼と夜のどちらも参加するのが普通だと思われるかもしれないけれど、招待状には『昼の参加は任意』との旨が書いってあったので、その言葉に甘えさせてもらう。




「はぁ……ヴィオラ様のドレス姿を拝見するのが楽しみですわ」


 私があまり高価な服で着飾っていないことを、彼女は理解している。


 夜会でそれをネタにして、薄汚いドレスだと笑うつもりか?


 ──でも残念でした。

 私のドレスは『シャトルレーゼ』のマダムに特注してある。流行を取り入れながら、私に似合うように改造を施したドレスだ。絶対に薄汚いとは言わせない。



「パーティーの準備は、もう終わっていますの?」


 ドレスはマダム達の議論が白熱しているせいで、当初の予定よりも遅れているようだけれど、夜会当日までには必ず間に合いそうなので問題ない。


 第二王子へのプレゼントは、ベルディア殿下が用意してくれるらしい。

 なので、そっちのことは考えなくていい。


 体を磨くためのエステも、毎日ちゃんと通っている。

 最近は肌も艶が出てきて、ベルディア殿下に褒められた。


 どうせお世辞だろうけれど、褒められるのは悪くない。


 会場入りのエスコートも突然の協力があり、ジェイル様が務めてくれることになった。なぜ初対面の彼が私なんかに協力してくれるのかはわからないけれど、やってくれると言うのだからお言葉に甘えよう。


 まだ完全に終わったわけではないけれど、何かトラブルが起きない限りは問題ないだろう……と思う、多分。




「ええ、問題なく」


 とにかくマリアーヌに弱みを握られてはいけない。

 ここでもし私が『まだ準備が終わっていない』と答えたら、友人達とマリアーヌに笑われていたことだろう。


『公爵家ともあろう者が、予定合わせもできないのですか?』

『ヴィオラ様は随分と余裕なのですね、それともただののんびり屋さんなのでしょうか?』


 考えるだけで殺気が湧く。

 そんな私の様子には一切気付かず、マリアーヌは話しまくる。


「もう終わっているなんて、流石はヴィオラ様ですわ。わたくしの助力なんて必要ないのですわね」


「あら、マリアーヌ様のお手を煩わせるわけにはいきません。そうなるとわかっていたら、嘘でもそう言わざるをえませんね」


 なるほど。こちらの都合は何となく察しているから、ここで恩を売っておこうという魂胆だったのか。流石にそこまで狙われていたとは思わなかったけれど、無理してでも嘘を言って正解だった。



「本当に、当日が待ち遠しいですわ……ねぇ、皆?」


 マリアーヌが振り向き、その後ろに控えているご友人の令嬢達が頷く。



「ええ、本当に……楽しみですわね」


 私は笑顔を引き攣らせながらそう言った。

 それを見ていたルディが下を向き、肩を震わせている。


 何がおかしいのかわからないけれど、無性に腹が立ってので机の下で蹴っておいた。




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