27. 準備
採寸が終われば、次はデザインだ。
そこでルディも加わり、皆で色々な意見を出し合う。
私はあまりそう言うのには詳しくないので、採寸の疲れを取るため、一旦休憩中だ。
「ヴィオラちゃんは背が高いから、スラリとしたデザインにしたいわね」
「受けを狙い過ぎるのも印象に悪いので、ここは清楚さを前面に押し上げるようなデザインを……」
皆、真剣な表情をしている。
その道のプロが一つのテーブルを囲み、有無を言わさぬ真剣な眼差しでいるのは、会話に参加していない私ですら身震いしてしまう迫力があった。
その中でも臆することなく意見を出し続けるルディは、素直に凄いと賞賛する。
「ドレスの色は……いつも通りでいいわね」
「ええ。お嬢様の特徴を活かすには、やはり黒が一番です」
普通の令嬢は、あまり黒のドレスを着たがらない。
見た目は地味だし、パーティーはほとんどが夜に開かれるので目立たない。
でも、私に限っては黒のドレスが一番似合う。
それは燃え盛るような紅い髪が理由で、私の特徴的な髪色を目立たせるためには、この色が最適解となる。
だからと言って毎回黒を着ていくのも飽きてしまうし、それ以外に持っていないのかと思われてしまうので、流石に様々なドレスを選んでいるけれど、今回は第二王子の誕生日パーティーということもあって、他とは被らない色にしたい。
そこで選ばれるのはやはり、黒だ。
「よし、とりあえずこんな感じかしらね」
マダムが一枚の画用紙にデザイン画を描く。
その場で描いたとは思えないほどの絵の上手さに、私は別のところで驚きを隠せなかった。
今まで出てきた案を存分に取り入れ、尚且つ即興で描く筆の速さ。
デザインも素晴らしい。これには全員が納得して、早速次の工程に取り掛かった。
デザインが終われば、次は生地選びだ。
今回使用する生地は、もちろん最高級のシルク。
手触りが良く、そして軽い。その分値は張るけれど、ドレス代は全てベルディア殿下が負担してくれるというので、遠慮することはない。
「……にしても、よくベルディア殿下を味方に付けたわね」
マダムは感心したように、そう言った。
「特別なことをした覚えはありませんが、気が付いたら仲良くさせていただいていました」
「普通は気が付いたらで王族と親しくならないわよ。どうせ、特別なことをしていないと言っておいて、本当はすごいことをしてるんでしょう?」
と言われても、本当に何か特別なことをした覚えはない。
顎に手を置き、考える。
「強いて言うなら、殿下の護衛騎士と決闘したこと……でしょうか」
それがきっかけで、殿下と知り合うことになったのだから、仲良くなったのはそこからだろう。
「…………ん? 皆様、急に黙り込んでどうされました?」
見ると、ルディを除いた全員が口を開いて呆けた面を晒していた。
「えっと……私の耳がおかしくないのであれば、殿下の護衛騎士と決闘したって聞こえたのだけれど?」
「はい、その通りですが?」
マダムの耳は正常だと言えば、彼女は頭痛を堪えるように額に手を添えた。
「……そういえば剣術学科に入ったと言っていたわね。決闘に至った理由は? ヴィオラちゃんの方からお願いしたの?」
「いいえ。殿下の護衛騎士ダインの方から一方的に文句を言われてしまい、そのまま決闘を申し込まれ──」
「その男、マクレス家だったわよね?」
「え? ええ、そうですわね」
「か弱い少女に決闘を申し込むなんて、なんて非常識な男なのかしら──ちょっと家ごと潰してくるから待っててね」
「待ってください?」
何かを持って部屋を出て行こうとするマダムの肩を、ギリギリのところで掴む。
「ヴィオラちゃん止めないで。あなたが受けた屈辱を、代わりに私がその男に返してあげるわ」
「いやいや。彼も反省していて、今は仲良くしていますし、マダムの想像しているような屈辱は受けていませんわ」
「マダム。お嬢様はダインとの決闘で勝利しました。心配することは何もありません」
マダムの動きが、ピタリと止まる。
そして、ゆっくりと首が回り、私と目が合った。
「勝利した? あの、マクレス家の長男と?」
「運が良かっただけです」
「ヴィオラちゃんって、何者?」
「ただの、公爵家の長女ですわ。それはマダムもよくご存知のはずでしょう?」
「…………ほんと、ヴィオラちゃんと居ると、いつも新鮮な気分になれるわ」
「褒められていると、そう捉えておくことにしますね」
とりあえずは落ち着いてくれたらしい。
ホッとした私は、ニコリと微笑んだ。
「ほんと、お嬢様には驚かされますよねぇ。入学してからそれが如実に出てきて、俺も毎日気が気でなりませんよ」
「言わないで。頑張って現実逃避してるんだから、それは言わないで」
「いや逃げないでください。というか逃しませんから──ってこら! 耳を塞がない!」
私は目を閉じ耳を塞ぎ、全てを遮断した。
あーあ〜、聞こえなーい。




