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25. 全力支援




「アレイクスが欲しがるものか?」


 次の日、私は早速、ベルディア殿下に相談を持ちかけていた。


「うーむ……なんだろうなぁ……」



 でも、思った以上に反応は悪かった。

 彼は顎に手を置き、ブツブツと何かを呟いている。


 家族なのだから知っていると思っていたのに、まさかベルディア殿下……。



「アレイクス殿下と仲がよろしくないのですか?」


 あまりにも直球な言い方だったけれど、それは間違っていなかったらしい。小さくだが、確かに頷いたのが見えた。



「あいつはまだ王族としての意識が足りていない。そのくせ権力だけは振りかざすから手に負えなく、そのため父上も放置気味で……」


「あ、それ以上は聞きたくないです。私、王族と関わるつもりはないので」


「……そこまで割り切って言える令嬢は、君以外に見たことがない」


「お茶会に参加しているのは私達二人だけですから、別に畏る必要も無いかなと」


 ここは生徒会室にあるサロンではないけれど、それでも周囲に人の目もない。誰かに無礼だ何だと言われる心配はないし、唯一それを言いそうなダインはいざという時に力でねじ伏せられるから問題ない。



 だから正直に本音を言ったら、盛大に溜め息を吐かれた。



「…………まさか、まだ聞いていないのか?」


「は? 聞いていないって、何をです?」


「いいや、そのうちわかるだろう。……ヴィオラ嬢は、あいつの誕生日パーティーに出席するのか?」


 どうしていきなりそっちの話題に? と疑問に思い、困惑しながらも頷いた。



「え、ええ……昨日、招待状が届きましたわ」


「なにっ!? 昨日だと、そんな馬鹿な!」


「おそらく、そちらに非はないかと。お父様が私への招待状は後回しにして、ようやく思い出したのでしょう」


「…………カステル家の事情は何となく察しているが、そこまで常識がなっていないとは。とにかく急がなければならないな。……そうか、だから私にプレゼントのことを聞いてきたのだな?」


「はい。その通りです」


「……だが、それ以外にも問題は残っているだろう。ドレスはどうするつもりだ?」


「それなら問題ありません。『シャトルレーゼ』のマダムとは個人的な繋がりがあるので、今ルディに連絡を取ってもらい、明日か明後日には採寸をしていただく予定です」


「あの店のマダムと!? ヴィオラ嬢には、本当に驚かされる。……一体、何をしたのだ?」


「いつの間にか親しくなっていただけですわ。特別なことは何も。……そんなわけで、ドレスは問題ありませんの。残るはプレゼントと……ああ、そうだ。メイクも誰かにお願いしたいのですが……流石にパーティーまで自分で化粧をするのは自信が無くて」


 マダムとの繋がり。そんなものを聞かれても、私はその時の記憶を失っているのだからわからない。だから曖昧に誤魔化しながら、他の話題に切り替えた。



「化粧は私の専属の者を使うといい」


「……よろしいのですか?」


「遠慮せずに使ってくれ」


 その申し出はありがたい。

 王族公認、国内で最高峰の腕を持つ使用人に世話をしてもらえるというのは、普通では体験できないことだ。


 その体験は誉れでもあると言っても過言ではない。

 まさか、それをベルディア殿下の方から言っていただけるなんて思わず、私は驚きを隠せなかった。



「……むしろ、今までそういった者は居なかったのか?」


「ええ。基本的に、私専属の従者はルディ一人だけですもの。他は基本的に無視されていますわ」


 ベルディア殿下は額に手を当て、天を仰いだ。

 改めてカステル家の惨状を確認して、頭でも痛くなったのだろう。



「よく、今までそれでやっていたな」


「世話をしてくれる者が居ないのであれば、自分でやるだけ。他に期待するのも面倒です。それが普通でしょう?」


「普通のご令嬢は、そこで文句を喚き散らすものだ」


「……まぁ、その程度の反抗で変わるような両親だったら、今もこのように拗れていません」


 むしろ必要以上に干渉して来ないから、この関係はありがたいと思っている。不満はもちろんあるけれど、その代わりに得もあるのだ。



「それもそうか……よしっ! ヴィオラ嬢への支援は私個人が担おう。準備に掛かる費用はこちらで全て負担する。逐一、報告するように」




「……へ?」


 ────いま、なんて?




「ヴィオラ嬢に恥をかかせるわけにはいかない。任せろ。第一王子として全力で支援させてもらう」


「いえ、それはそれで目立つので遠慮したいのですが……」




「お嬢様。使えるものは使っていきましょう」


「そうね。冷静に考えれば、次期国王候補を利用できる、またとないチャンスだもの。使わなきゃ損よね」


 目立つのはあまり好きではないけれど、これはチャンスだ。

 これからもこの関係を維持していれば、また追い詰められた状況になった時、ベルディア殿下の名前を利用することができる。


 ──なら、ここで使わない手は無い。



「…………頼む。間違っていないが、そういう話は裏でやってくれないか? なんか、心にくる」


 盛り上がる私達に、ベルディア殿下の悲しげな声は虚しく掻き消えた。




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