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24.舞い降りた難題




 翌日、学園から戻った私は、玄関に着くなりお父様に呼び出された。


「一ヶ月後、アレイクス殿下が誕生日を迎えられる。お前も出席するようにと、招待状を預かっている」



 部屋に入るなり、淡々と告げられたその言葉に、私は静かに頭を下げる。


「かしこまりました。謹んでお受けします」


「カステル家の顔に泥を塗らないよう、気を付けろ。以上だ。下がれ」


「はい、失礼いたします」



 私は無表情を崩すことなく、私室まで辿り着く。

 中に入ると、ルディがソファーの上で寝転がっていた。



「あ、お帰りなさい、お嬢様」


 菓子のクッキーに手を伸ばし、ひらひらと手を振るその姿は、従者とは思えないほど堕落している。



 今更、その姿を嗜めることはしない。

 ルディも私と同じように、ここ以外に居場所が無いのだ。


 そこでも気を張っていろと言うのは、あまりにも酷だろう。




 ──でも今は、それが無性に苛つく。




「え、なんですか。能面みたいな顔して雰囲気悪いですよ。ほら、スマイルスマイ──」


「なんっっっなのよ、もーーーーーーーーー!!!!」



 とびきりの絶叫が、その部屋に響き渡った。






          ◆◇◆






「なるほどなるほど、第二王子の誕生日パーティーへの出席ですか」


 私はまず、お父様のところで何があったかをルディに話した。

 説明をしている内に、徐々に落ち着きを取り戻した私は、ティーカップに口を付け、一息。



「一ヶ月後って、私は学生で忙しいってのに情報が遅すぎるのよ。報連相ちゃんと意識しなさいよ、全く」


 普通、招待状は遅くても二ヶ月前に届くのが当たり前だ。

 貴族は色々と準備がある。夜会に行くためのドレスを仕立てる必要もあるし、招待してくれた主催者に渡すお礼の品も考えなければいけない。誕生日というのもあって、そっちのプレゼントも用意する必要がある。



 万全な態勢で挑まなければ笑われる貴族社会。

 特に女性は忙しいと言うのに、うちの親は無能かっ!



「でも、昨日ご両親が王城に行ったのって、それに関係あるんですかね? もしかして招待状を貰ったのも昨日だったり」


「…………いや、それはまた別問題だと思うわ。王家なのだから最低限の礼儀は弁えているでしょうし、一ヶ月前に招待状を寄越すなんて馬鹿な真似はしない。体裁に関わるもの」


「うーむ、そしたら、昨日のは何だったのか……」


「さぁ? ……そんなのを考えるよりも、まずは目の前の問題が先よ」


「…………ですね。仕立てはどうしましょう? いつものマダムのところですか?」


「ええ。連絡は頼んだわ。あっちも事情を話せば応じてくれると思うけれど……本当に大丈夫なのね?」


「何度かあったことですし、マダムなら心配要りません」



 私が愛用している仕立て屋は、この国で一番大きな店を構えている。

 それだけ人気で常に人が出入りしているような場所だけど、ヴィオラとそこのオーナーは懇意にしているらしく、カストル家の内事情も理解してくれているらしい。



 ──ヴィオラよくやった!

 と、私は過去の自分を盛大に褒め称える。



 一先ず、ドレスの仕立ては問題ない。


 後はプレゼントだけど……。



「第二王子の好きそうな物って、何かしら?」


「さぁ? 何処かの誰かさんがあからさまに避けているせいで、学園でも会ったことがありませんし……剣術学科は平民の集まりですから、街に出来た美味しいコロッケ屋さんの噂しか聞きませんからねぇ」


「何それ、行きたい」


「我慢してください。放課後、変装して一緒に行きましょう」



 ぐっ、と互いに親指を立てる。



 ──じゃなくて!

 今は脱線している場合ではない。



「あ、その人のことを一番よく知っているのは、その家族ではありませんか?」



 何かを思いついたように、ポンッと手を叩くルディ。


「家族?」


「そう、家族です。……ほら、なんか情報通っぽい感じの家族が居るでしょう」


「…………、ああ! ベルディア殿下! 今まで存在を忘れていたわ!」


「いや、忘れないであげてください。一応、第一王子なんですから」



 一応を付けている辺り、ルディも大概だとは思うけれど……まぁ、そこはあえて突っ込まないようにしよう。また話が脱線しそうだ。



「明日、ベルディア殿下に案を出してもらいましょう」


「資金はどうします?」


「うちは公爵家よ。ドレスもプレゼントも、全部後で払わせるわ。流石に、それくらいは出してくれるわよ……ね?」


「最後は疑問形にならないでください。こっちも不安になります」


「だって、あの両親よ? 常識くらいは残っているといいのだけれど……」


「ご自分の両親にそこまで言える人って、お嬢様くらいで──ぶっ!」


「うっさい」



 呆れ顔のルディに腹立ったので、天罰という名のチョップを下した。


「暴力反対です」


「自業自得」


 訴えるように睨まれても、私は知らん顔だ。



「いつもはこの程度の軽口、適当に流すではありませんか」


「それだけ余裕が無いってことよ。……でも、現状はまだ何もできない、か」


「マダムのところは、早くても明後日ですね。それまでに第一王子から情報を聞き出してください」


「余裕よ。そっちもヘマするんじゃないわよ」


「誰に物を言っているのですか?」


「無礼者の従者よ。……だからこそ、信用してるわ」



 私の従者は、主人に対しても無礼極まりない。

 でも、やるときはやる男だと思っている。


 だから私も、頑張らなければならない。



「やってやるんだから!」


 私は立ち上がり、拳を強く握る。


「おおー、頑張ってくださいねー」


「あんたもやるのよ!」


「いでぇ!?」


 やる気があるのか、無いのか。

 はっきりしない従者にチョップを喰らわす。



 やっぱり、私の従者は無礼者だ。




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