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21. 気持ちの整理




「──お前たち、喧嘩しているのか?」



 それは日中の、ベルディア殿下とのお茶会のことだった。


 突拍子もなく言われたその言葉に、私は口を付けていたカップを置いた。その際にガシャンと大きな音が鳴ってしまったのは、私の気持ちの現れだ。



「別に、喧嘩していません」


「……いや、だが今日の二人を見ていると、」


「喧嘩していません」


「…………そうか」


 喧嘩をしているわけではない。


 これは私の問題だ。

 ルディは何も悪くない。



「これは俺のお節介かもしれないが、今日の二人はどこか余所余所しく感じる。こうして頻繁にお茶会を開く仲になった俺だが、それでもヴィオラとは出会ってまだ半年だ。それでも気付くのだから、相当だぞ?」


「っ、わかって、おります」



 わかっている。

 そのくらい、自分でもわかっている。



 ──でも、どうしようもないのだ。



 あの日、自分なりに考えて気持ちを切り替えようと思ったけれど、結局何も考えられぬまま一日を無駄に消費し、こうして今日となった。流石に二日連続で休むのはいけないと、無理をしてでも登校したけれど……やっぱりベルディア殿下にはバレてしまったか。


 彼は人の心を読むのが上手い。

 それはこの国の経済に関わっていることで得られたスキルなのだろう。学生だからと侮れば、全てを見破られて痛い目を見るのは私なのだ。



「ルディには申し訳ないと思っています。……でも、まだ気持ちが落ち着くまで、私は、」


「わかった。これ以上、余計な詮索はしないようにしよう。俺にはヴィオラ嬢が何を悩んでいるのかはわからない。だが、なるべく早く結論を出すことだ。今日のルディは……見ていて可哀想だった」



 平常心を保とうと声を出しても、最後の方はつっかえつっかえになってしまう。


 それを察してくれたのだろう。

 ベルディア殿下は一方的に喋り、もうこの話題には触れないという雰囲気を出した。




 ──ルディが可哀想、か。




 今日の朝、私はルディと顔を合わせるのが苦痛だった。

 見ているだけで嫌なことを想像してしまい、会話をするだけでも震えが止まらなくなっていた。


 そのせいで、今日はあまり話せていない。

 いつもは楽しくお喋りできていた登校時の馬車の中では、私は一言も口を開かなかった。ルディは私の異常を察してくれたのだろう。彼も口を開こうとはせず、楽しかったはずの朝の時間は、ただただ苦しかった。



 今、学園の広場で行われている茶会の場に居るのは、私とベルディア殿下だけだ。

 いつもは護衛としてルディとダインも共に茶会を楽しむのだけれど、今日は二人には席を外してもらっている。



 お願いしたのは、私だ。


 ルディの顔は見れなかった。

 でも、ベルディア殿下は見ていたらしく、それで『可哀想だった』という感想を抱いたのだろう。



「今日はお開きにしよう。淑女に無理させるのは、好きじゃない」






          ◆◇◆






 放課後、人目の付かない場所で私は一人、ポツンとベンチに座っていた。


 ルディは剣術学科に顔を出しているため、別行動だ。

 いつもは「お嬢様を一人にさせられません」と頑なに別行動を断る彼でも、今日だけは私のお願いを聞き入れてくれた。



「はぁ……」


 広場の隅っこにあるこの場所は、特にやることもなく散策していた時に偶然見つけた場所だ。多くの生徒が通る通路からは死角になっているし、植物のアーチをくぐり抜ける必要があるので、まず貴族令嬢は近づこうともしないだろう。


 単なる偶然でこの場所ができたのか、それとも誰かが故意に作っていたのか。それは私にはわからないけれど、ここは誰の目を気にする必要もなく、ゆったりと落ち着けるこの場所は悪くない。



 一人になったところで、何かが変わるとは思わない。

 ただ、今は一人で居たかった。


 そんな私のわがままでルディを遠ざけたことは、申し訳ないと思う。



「私も、甘いわね」


 もう誰も信じないと誓った。

 どうせ裏切られるから、心にこれ以上の傷を作るくらいなら、誰とも関わらない方がマシだと、そう思ったからだ。



 ──でも、現状はどうだ。


 この世界のことを知らない私は、ただ一人、味方になってくれると言う彼を頼り、どこでも彼と行動をするようになり、いつの間にか『信頼』の心が芽生えていた。


 最初は利用するつもりだった。

 公爵令嬢という立場がある以上、下手なことはできない。


 そのためには補助が必要だった。

 だから私は、ルディを側に置くことにした。


 彼はただの駒。

 いつ記憶を失った私を見限るかもわからない、ただの駒だったはずだ。



 ──ああ。

 自嘲気味に、笑う。



「それでも私は、彼を信じたいのね」


 何もない私を支えてくれたルディ。

 そんな彼に、私は……絆されてしまったのだ。



 彼は裏切らないかもしれない。

 でも、彼以外の誰かが私を裏切った時、彼は命を捨ててでも私を守ろうとするだろう。




 ──あの人のように。



 一度は愛を誓い合った『彼』のように、私を守って死ぬのだろう。


 また、あの苦痛を味わうことになるのは、嫌だ。怖い。怖くて仕方がない。



「それでも──」



 私は彼を失いたくない。

 その気持ちだけは、嘘じゃないと信じたかった。





更新遅れて申し訳ないです!

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