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16. 無礼講




「私は貴方がたを信頼していません。そんな方々から貰うものは何一つとしてありませんわ。……まぁ今回に関しては、ダイン様からの謝罪をいただけたのでそれで良しとしましょう。なので、さっさと頭を上げていただけますか?」





 ──お前らの謝罪なんて何も要らない。だからさっさとその姿勢をやめろ。


 私は暗にそう言い、サロンに入室した時と変わらない笑顔を貼り付けた。



「我らの謝罪が、必要ないと?」


 殿下は眉を顰め、ポツリと呟いた。


「ええ、その通りです。殿下もダイン様もお考えください。信用していない方から何かを貰っても、それは果たして本当に良いものなのでしょうか?」


「……と、言うと?」


「後から、俺はこの女に無理難題を押し付けられたんだ! と言われる種になるやもしれません。そんなものを、どうして欲するでしょう?」


「だが、俺たちはそんなこと……!」


 ダインが立ち上がり叫びそうになるのを、手で制する。


「お二人のことを信じられないと、そう言っているはずですが? ……確かに、そんなことは言わないと約束することはできます。ですが、人とは醜い生き物。少し情勢が変われば、自分可愛さに一瞬で手のひらを返します。絶対なんて言葉は信じません。信じたが最後、その甘さを突かれて滅びゆくのは、信じた方(わたくし)なのですから」



 私はそれを知っている。

 だから誰も信じないと誓った。


 孤独でもいい。

 命があるのなら、私は生きていけるのだから。


 殿下とダインは納得していない顔だ。


 私から隠すことなく「お前らは信じるに値しない」と言われたのだ。激昂しないことが奇跡のようなもので、私としては正直、感情に任せて言いすぎてしまったかな? と内心心配していたのだが、どうやら彼らは『当たり』のようだ。


 それがわかっただけで、今回のお話は有意義なものであった。




「でも、このままではお二人は納得しないでしょう。だから一つ、私の言葉を聞いてください」


 二人が頷くのを確認してから、私は大きく息を吸い、吐き出すと同時に言いたかったことを暴露した。


「ダイン様。あなたは考え無しすぎるでしょう。何ですかあの決闘は。あれでは自らの騎士道を歪に捻じ曲げているのと同じです。だからあんななまくらの剣になるんです。もっと鍛えなさい。主に心を。貴方は殿下の護衛なのでしょう? 今回はまだ剣術学科の生徒がぶつかった程度で済まされます。私も今回のことで騒ぐようなことはしませんが、あの決闘を見て、不満を持った生徒は多数います。それだけ殿下の護衛という立場は影響力があるのです。今後貴方が暴走することで、殿下の印象が悪くなる可能性が大きい。従者なら従者らしく、ちゃんと上司のことを考えて行動してください。あの時のダイン様は、正直とっっってもダサかったですわ」





「お嬢様、お嬢様。それ死体蹴りなので、やめてあげてください。聞いているこっちが泣きそうになりました」



 ルディからのストップが掛かる。


 私としてはまだ言いたいことは沢山あったのだけれど、ダイン様は膝から崩れ落ちて大変なことになっていた。完全に目が虚ろで、死人のようだ。殿下が「ダイン! おいダイン大丈夫か!?」と肩を揺らしているけど、反応はない。



 …………ふむ、確かにやりすぎたらしい。この時代の男は根性が無いな。




「では殿下。次は貴方です」


「──ヒエッ」


 いや、ヒエッて……あんたそれでも第一王子でしょう。


 とは言わない。流石に不敬だ。


「あ、あのだな、ヴィオラ嬢……? お、俺、いや、私は、一応これでも王子なのでな? お手柔らかにしていただけると嬉しいなぁって……」


「大丈夫です。殿下」


 私は慈愛の笑みを浮かべ、それを見た殿下は救われたように明るい顔へ。


「この場は無礼講。王子だとか関係ありません。その言葉は聞かないので、安心してください」









「──嫌だァアアアアアアア!!?!?!!! あ、俺、ちょっと急用を思い出し──っ!」









 逃げ出そうとした殿下の動きが、ピシッと固まった。


 よく見ると、先ほどまで再起不能だったダインが彼の足をがっしりと掴んでいた。まるで生者を地獄に引き摺り込む亡者みたいだなと、私はそれを他人事のように眺める。


「おい離せダイン! 命令だぞっ!」


「殿下、この場は無礼講。殿下、この場は無礼講。殿下、この場は無礼講。殿下、この場は無礼講。殿下、この場は無礼講。殿下、この場は無礼講。殿下、この場は無礼講。殿下、この場は無礼講。殿下、この場は無礼講。殿下、この場は無礼講。殿下、この場は無礼講。殿下、この場は無礼講。殿下、この場は無礼講。殿下、この場は無礼講」



「ヒィイイイイイイイイァアアアアアアア!!!!!」


 呪詛のようにブツブツと同じ言葉を吐くのはマジの亡者だなぁと、私は呑気にティーカップに口を付け、舌で紅茶の味を楽しむ。


「…………ふむ、もう少しお砂糖が欲しいわね」


「お嬢様。呑気に砂糖を追加してないで、助けてあげてください」


「そうね。誰か、聖職者を呼んでくださる?」


「ダイン様の方ではなく、殿下の方を助けてあげてくださいね?」


「それは無理よ」


「……え、」


「だって、これから殿下にはダイン様と同じ運命を辿るのだから」




「聖職者ーーーーー!! 誰か早く、聖職者を呼んでぇええええええ!!!!」
















 その後、サロンは阿鼻叫喚の図となった。


 殿下とダインは魂の抜けた死人のようになり、ルディは恐怖に耐えきれず部屋の隅っこでガタガタと震え、私はソファに座り優雅にお菓子を堪能する。


 騒ぎを聞きつけた教員は、後にこう証言した。



「あそこは本物の地獄だった」と。





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