第三十二話 王宮の異変
港街の上空にシンドバッドが浮かんでいる。
甲板から見た水平線の向こうに太陽が昇りつつあるのが見えた。鮮やかに港街を染め上げる光景は見慣れたものだったはずだが、上空から見下ろすなんていうのは、はじめてだった。
予定ではこのまま、王宮に乗りつけるつもりでいるらしい。
できれば目立たず降りた方がいいんじゃないかと思ったのだけど、ファルは逆に、「堂々と姿を見せてくれ」とキルスに願い出た。
「国王陛下に今回の件を説明するにあたり、この船は魔神の存在を象徴づける存在になる。
旧都が滅んだことはすでに伝わっているはずだ。脱出のために国宝の一つである『魔法の絨毯』を持ち出したことも。一人二人ならばともかく、口止めできる人数ではなかったからな。また、あの場に私がいた以上、使者であるアラムが単独で行ったものだとは思っていないだろう。王子ファルザードの指示だった、そう思っているはずだ」
「国王陛下に説明というと?事実報告ですか?」
「おそらく叱責を受けることになる。独断で動いたことについてもそうだが、伝統ある旧都を喪わせたことは、国王陛下の治世において、多大なマイナスになるからな……。
お祖母様がどちらに着くか分からないが、場合によっては、王位継承権を剥奪されるだろう」
「大事じゃないですか」
「ああ。だがおそらくそこまではならない。私が剥奪されれば、次の国王はサンジャルとなる。サンジャルはお祖母様の子ではないから、彼女は王位継承に関しては味方だ」
楽観視はできないらしく、ファルは固い表情のままそう言っていた。
睡眠の足りていないファルに代わり、私は夜明け前から甲板に上がり、見張りをしていた。
まあ、見張りといっても港街が見えたら起こしてくれ、というリクエストに応えるためだけの話であり、異常事態に備えたりというわけではない。
港街が近くなったせいか、キルスが甲板に出てきた。彼には見慣れた光景らしく、あまり甲板に出ていることは少ない。単純に私たちと話したくないのかもしれないけど、すぐ船室に籠ってしまうのだ。
シンドバッドに言わせると、『キルスは人見知りなんだよねー』となる。
キルスは甲板にいるのが私一人であることに気づくと、嫌そうに眉を寄せた。
「……てめえか」
あからさまな嫌悪を向けられ、私も肩をすくめる。
「港湾課の調査官としましても同じ言葉を返したいですよ」
またキルスか、と何度思ったことだろう。
「その件については無罪放免になったっつったろうが」
「ええ、聞きました。ファル……いえ、王子が了解しているそうなので、これまでの罪については問いません。けれど、もう同じことは繰り返さないでいただきたいですよ。密航も、逃亡も。どういった能力で逃げていたのかは分かりましたので、次からはきっちり対応させていただきますから」
そもそもキルス自身は戦う力をほとんど持っていない。武器を構えてもすぐ無力化されている。それはつまり、弱いので武器で威圧しているだけなのだ。きちんと鍛錬しているこちらからすれば、相手にもならない。
「ケッ」
決まり悪くなったのか、キルスはそっぽを向いてしまった。
「だいたい、てめえの顔が悪い。っとにイライラさせやがる」
キルスの言葉に、私はふっと視線を向けた。
「そういえば、あなたは私を『魔神に似ている』とは言いませんでしたよね。気づいていたんでしょうに」
港湾課の制服に反応はしていたが、私の顔を見てどうこうという行動はなかったはずだ。そう思い話題を向けると、キルスは仏頂面になりながらも答えてくれた。
「魔神じゃねえことは分かってたからな」
「ふむ?」
「……あー、なんだ。雰囲気が違うっつーか。顔は確かにそっくりだし、見かけも似てっけどな。あいつは綺麗だけどてめえはガサツそうだったし。あいつは浮世離れしてるけどてめえはズケズケしてたし、あいつは……」
キルスは苦々しそうに歯を噛みしめた。
「おれを子ども扱いするからな」
表現としてはいささか比較できていないように思えたが、キルスにとって魔神は高評価で、私は低評価なことは伝わってきた。魔神のしもべたちのように親しい仲でさえ『似ている』と言うのに、彼にとってはまったく別物であるらしい。
「3つ目の願い事、使う気はないんですか?願い事はいろいろありそうですけど。シンドバッドが今後も必要なら、それを今後も継続するようお願いするとか、そういうことは?」
私の問いに、彼はきゅっと唇を噛みしめた。
「……使ったら、あいつはいなくなるだろ。別の主人見つけて」
「……?魔神が、いなくなるのが、嫌なんですか?」
私の問いに、キルスはカッと顔を赤らめた。
「べ、別にっ。そういうわけじゃねえよ。ふざけんなっ!」
プイッと顔をそむけ、ズカズカと甲板から離れようとするキルス。
だがちょうどいいタイミングで上がってきたファルと鉢合わせし、キルスは苦々しい表情を浮かべたまま立ち止まった。
「もうすぐ起こしにいこうかと思ってましたよ」
私が言うと、ファルは微笑んだ。
「やはりか。夜明けだろうと思って起きてきたんだ」
先ほどのキルスとの会話は聞こえていなかったらしい。「おはよう」と爽やかに微笑むと、ファルはキルスに向かって声をかけた。
「もう少し世話になる」
「……おう」
もごもごと返事をしたキルスは、今度は私とは離れた位置に立った。
水平線を明るく染めていく太陽。それを見つめる私たち三人のもとへ、ふっと影が下りた。
シンドバッドが空中に現れ、ゆっくりと甲板に着地したのだ。
彼が生身で浮かべる存在なのは知っているが、こうやって現れると本当に驚く。
『もうすぐ着くよ』
シンドバッドはそう言って、キルスに視線をやった。
『向こうには魔神もいるだろうし、仏頂面やめたら?』
「う、うるさい。黙れ」
わずかに顔を赤らめて、キルスはますます仏頂面になった。
「……改めて尋ねるが、3つ目の願い事を使う気はないんだな?」
もしかしたら私とキルスの会話を聞いていたんだろうかと思う質問を、ファルが切り出した。
キルスはその言葉に渋面を浮かべる。
「……だったら、どうする。あのバアさんみたいに力づくで使わせようとするか?」
「いいや。使う気がないのであれば、一生使わないくらいの方が都合がいい。君のランプは王宮の宝物庫で預かっているから、3つ目の願い事を叶える日が来たら、王宮を訪ねてきてくれ。その上で、使用済みになったランプは悪用されないよう仕舞っておきたい」
『ちょっと待ってよ。それだと魔神はいつまでも課題がクリアできないじゃないか』
不満そうに口を尖らせたシンドバッドがファルを睨む。
『だいたい、人間の都合に振り回されるのはこっちだってうんざりだよ?魔神は気が長いから気にしてないみたいだけど、何百年もランプに封じられてたこっちとしては、早いところ解放されたいんだから。僕以上にそう思ってる『土』のやつなんか、何するか分からないからね』
「……そうだな、言い過ぎだった。君たちへの配慮が足りなくてすまない」
『い、いやまあ、謝らなくてもいいけどさー』
ファルが思いのほか素直に頭を下げたことに、シンドバッドは決まり悪そうな、それでいてまんざらでもないような表情を浮かべる。不満はどこかへ飛んで行ったらしい。
キルスといい、シンドバッドといい、彼らの精神年齢はずいぶんと若い。少年みたいだ。
「船を王宮に向けてくれるか。国王が民衆に演説を行う式典時用のバルコニーがある」
『りょーか……』
了解、とシンドバッドが請け合おうとした時だった。
ガコン、と船が動きを止めた。
空飛ぶ船シンドバッドは砂嵐にだって揺れはしなかった。嘘のように心地良い飛行だったのだ。
それが、ぐらぐらと足場が崩れ落ちるような衝撃に驚き、私は思わず甲板の端にしがみつく。ファルも戸惑ったように周囲を見回していた。
「なんだ、何があった!?」
一番混乱しているのはキルスだった。彼がこのシンドバッドの持ち主になってから、こんなことはなかったのだろう。シンドバッドに掴み上がる勢いで尋ねるが、尋ねられたシンドバッドも途方に暮れたような不安げな表情を浮かべていた。
『し、知らないよ!?――あ、あぁっ!だ、だめっ。維持できないっ……!』
シンドバッドの悲鳴と共に、白い船が落下していく。
ぐんぐんと高度を落としていくそれに、船上の私たちは恐怖に引きつった。どれほどの高さで飛んでいるのかは分からないが、放り出されたら墜落死する。
『な、なんとか地面にはっ……』
シンドバッドの声が聞こえる。
「シンドバッド、てめえ!おい!しっかりしろ!」
キルスの叫び声がこだまする中、白い船はどこにも姿がなくなり、私たち三人は砂漠の上に放り出された。
シンドバッドが最後の力を振り絞ったのだろう。ふんわりと着地してくれたのは救いだったが、地面に着いたとたん、白い船は消えてしまったのだ。
飛び起きたキルスがシンドバッドに掴みかかろうとするが、シンドバッドもまた、地面に放られた状態で混乱している。
「どうしたよ、おい。飛行中に力尽きるなんざ、今までなかっただろうが!」
『そ、そんなこと言われたって僕にも分からないよ。こんなの……、主人が変わりでもしなければ起きないはず。魔神に何か起きたのかもしれない』
「魔神て……、あの女は宝物庫にいるんだろうが?」
キルスが答えを求めるようにファルを振り向いたが、彼にだって分かるわけがない。
「『魔法のランプ』は、王宮の宝物庫だ。私が自分でおさめたんだから間違いない」
だがこの場でお互いに責め合っていても意味がないのは間違いなかった。
「王宮に行きましょう。まだ明け方ですから、昼前までには王宮につけるはずです」
私が言うと、キルスは嫌そうな顔をした。
「馬もラクダもねえんだぞ?」
「足があるでしょう。そもそも馬で移動できるのは国軍くらい、行商人だって馬よりもラクダの方が多いくらいなんですからね。シンドバッドに慣れて自分で歩くってことを忘れてるんじゃないでしょうね?」
「こ、このくそ女……。誰の船でラクしてたと思ってんだ」
「行かないんですか?」
「行くぞ」
先に決断したのはファルである。キルスと私のやりとりを聞いていたら日が暮れると思ったのかもしれない。
歩きづらい砂地だが、幸いにして流砂の上などではなかった。比較的固い部分を選んで街へと急ぐ。
やがて街に近づいていくにつれて地面はどんどん固く歩きやすくなってきた。地盤がしっかりしている場所を選んで街を作っているということもあるが、人が行き来している間に”道”になっている部分だったからだろう。
急いだおかげか昼になる前に港街へ到着したが、そこには私たちの予想を超えた事態が待っていた。
□ ◆ □
最初におかしいと感じたのは街の様子だった。
港街はいつものようにバザールが開かれ、賑やかな状態だったのに、人が行き交っていないのだ。
バザールに店を広げている行商人たちも、いつでも撤収できるように荷物を小さくまとめているのが見える。そればかりか、店の中に座りこんで頭を伏せている人が多い。
一度おかしいと感じた後、改めて見回すと、道のあちこちに人がうずくまっているのが分かった。王宮に向けて伏せているのだ。
どこかの宗教で総本山に向かって最敬礼をするという話を聞いたことがあるが、エランにはそういった宗教はないはずだ。国王に対して敬意を払うといったって、ここまでする国民はいないはず。
すべての人間がそうしているわけではない。頭を伏せている者もいれば、そうでもない人ももちろんいる。
時折姿を見せる港湾課の調査官も、困惑している様子だった。
誰か知り合いに状況を聞きたいと思いながら王宮へと急ぐ。
「アラム先輩に状況確認していきますか?」
事務所に寄れば誰かいるはず。そう思いながら口を開くと、ファルは少しばかり口を尖らせた。
「君は、何かというとアラムだな……」
「そりゃ、まあ。上司で先輩ですからね」
私の回答に、ファルは納得するができない、といった複雑な表情を一瞬浮かべたが、それ以上話題を続けるのは得策ではないと考えたらしい。
「……オレとしても彼の報告は聞きたいが、今は時間が惜しい。王宮に行く」
口を尖らせた理由については言及せずに、ファルはそう言って足を速めた。
キルスとシンドバッドもまた、私たちについてくる。空飛ぶ船シンドバッドが船を維持できなくなった理由が魔神にあるとすれば、王宮にいるはずの魔神に会うのが一番早いと考えたのだろう。
そういえば、シンドバッド自身も空に浮かんでいたはずだが、今はキルスと一緒に走っている。本人の飛行能力にも何か異常が起きているんだろうか。
王宮に近づくにつれて、『何かが起きている』空気が漂ってきた。
王宮を中心として風が渦巻いているのだ。細かい塵が空気中に漂い、それが王宮を中心とした嵐のようにうねっている。色はピンクとオレンジ色を混ぜたような澱んだ色。ただ、砂嵐のように身が引き千切られたり目に飛びこんで来たりといった風ではない。目には映っているのに体感できないといった風だった。
「なんでしょう、あれは……」
正直に言えば近寄りたくない空気だった。
毒ではなさそうだし、おかしな臭いもしないのだが、異様な雰囲気だ。王宮に近づくにつれて人の姿を見なくなってきたのも、皆が避けているからだろう。危険なものに近づかないというのは人生の処世術だから。
「……宝物庫に向かうつもりだったが、変更する。まず、国王陛下に面会しよう」
ファルはそういって、王宮の入り口へと飛びこんだ。
王宮入り口には複数の男たちがいた。
いずれも武装しており、軍属の者であることはすぐに分かった。
彼らは玉座の間に向かって顔を向けたまま、身動きせずにうずくまっていた。
何があったのかと足を鈍らせた私と違い、ファルはますます速度を上げる。
まっすぐに向かうのは王座の間である。
一般人は入れない王座の間。その入り口で躊躇って足を止めてしまった私と違い、キルスもシンドバッドも気にせず駆けこんでいく。
ええい、もう。後で怒られるだけのこと!港湾課のラーダの取り柄は度胸である!心の中で気合を入れて、私もまた、その後を追いかけた。
玉座の間をはじめて見た。
入り口からまっすぐ長いホールがあり、その一番奥に玉座が置かれている。玉座の少し手前から数段分の階段があって、その上に椅子が一つ設置されているのだ。一人用だからさほど大きな椅子ではないのだが、背もたれが高く、細かい彫刻がされている。びっしりと宝石も埋めこまれていて豪華だった。
天井も壁も、細かい細工が施されている。華のような模様が一面に描かれているが、小さなタイルが敷きつめられている様子はまるで夜空のようだ。
奇妙な点はいくつかあった。
まず、階段の下には男が一人膝をついていた。
豪華な衣装を身に着けた初老の男だ。玉座を向いて頭を伏せているので顔は見えない。
玉座の横には女が一人立っていた。赤い服を身に着けた、見覚えのある女性だ。そして、玉座に座っているのは国王陛下ではなかった。見覚えのある30代の男性が座り、こちらを見下ろしている。その手には大事そうに何かを抱えていた。
その唇が開いたように見えた、次の瞬間。
【ひれ伏したまえ】
圧がかかった。
「――――!?」
ビリビリと空気を震わせる衝撃波のようなものが飛んできたと思った瞬間、どしゃりと潰されるような圧倒的な圧力によって、私はその場に伏していた。
伏して玉座に向かう。顔は上げず、玉座にいるはずの相手の顔は見ない。口は開かず、ただ聞くのみ。
私のような素人でも知っている最敬礼の一つだったが、肝心なところはそこではなかった。
なぜ、この姿勢をとってしまったのか自分でも分からなかったのだ。
声が聞こえたと思った瞬間、すでに従っていた。伏したのは私だけではない。ファル、キルス、シンドバッドという――玉座の間に入った全員が、文字通りひれ伏してしまったのだ。
私は伏した姿勢のまま横をうかがった。一度は伏したファルが、その姿勢のまま顔を上げ、驚いたように声を上げる。
「ダーラー、なぜそこに座っている……!?」
そうだ、寸前に見た玉座の男は確かにダーラー様の顔をしていた。だが、彼はこんな声だったろうか?威圧的で、抑圧的で、横柄な、思わず従ってしまうような響き。
私は伏したままファルの視線を追った。伏した姿勢でもチラリとならば前が見えるものらしい。
だが、ファルの言葉に答えたのは玉座の男ではなかった。
入り口と玉座とのちょうど中間点で膝をついていた男が振り返った。怒りを浮かべている様子は、私たちの不作法を叱るというよりも、もう少し苛烈な表情だ。
「ファルザード、陛下に対して無礼なことを申すな。ここにおわすのは、エラン王国国王ダーラー陛下。今しがた禅譲した――国王陛下だ」
「な!?」
そう言った男こそは、私の知っている国王陛下だった。
国王陛下はその場に立ち上がると、まず玉座の男へ断りを入れた。
「陛下。この者をいかがいたしましょう。もし、玉座の間を血で汚すことをお許しいただけるのであれば、この場で処断いたします」
【許そう。私は忠義な部下の進言を聞き入れぬほど狭量な人間ではないつもりだよ】
再び、あの声だ。ビリビリとした圧力が飛んでくる。それが声の威力だとすれば、確かに王の貫禄を感じさせる。
「ありがたきお言葉」
国王陛下はそう言って、腰に佩いた剣を引き抜いた。細かい装飾の施された豪華な曲刀は、儀式用にしか見えなかったが、ずいぶんと大きなものだった。
伏して顔を上げているファルと、それを見下ろす国王陛下との間には、数メートルの距離がある。だが、姿勢のせいもあり、すでに首を落とされるために待っているような構図に思えた。曇りない刃がファルに向けられた。
「抜け、ファルザード。それとも大人しく首を差し出すか?」
国王陛下は切っ先を輝かせてそう言った。
とても父親が子に向ける言葉じゃない。
ファルは思わず腰に手をやろうとしたが、彼はそもそも剣を持っていなかった。もしかしたら旧都に向かった時点では持っていたかもしれないけど、騒動の間にどこかへ行ってしまっている。
伏した姿勢のまま、立ち上がることもできず、武器を手にもできない。
「どうした。まさか丸腰でやってきたわけではあるまい」
国王陛下の言葉に、ファルは一瞬だけ躊躇したが、ただ静かに立ち上がってみせた。
「だとしたら、どうします。まさか王子の立場が一晩したら逆賊扱いとは思いませんでしたよ」
武器はない、ということを、ファルは堂々と示して見せた。両手を広げ、丸腰であることを見せながら玉座の間へと距離を狭めていく。
数歩進み寄ったところでファルの動きは止められた。国王陛下が道を阻んだのだ。
あくまでも国王陛下は、玉座の男を守る立場であるらしい。
仮に禅譲という言葉が本当だとして、なぜ、ダーラー様なのか。
その答えは目の前にあった。
ダーラー様の隣に立っている赤い服の女性は、よく見る顔をしていた。私とそっくりと称される顔――魔神。
で、あるならば。ダーラー様が大事そうに抱えているものの正体も知れていた。
あれは『魔法のランプ』のはずだ。
「ダーラー、もう一度聞く。なぜそこに座っている?国王陛下がおっしゃったことは本当か」
ファルの質問に、玉座のダーラー様は笑った。
【君に質問を許可した覚えはない。だが――、特別に答えよう。
彼の言葉は真実だ。私は前国王陛下より直々に、次代を引き受けるようにとの言葉を賜っている】
「それは、隣にいる女性とは無関係にか」
ファルは玉座の隣に立つ女性に向かって尋ねた。
「その顔、その姿。あなたは魔神だ、そうだろう?」
ダーラー様の返答はなかった。その必要はなかった。代わりに隣にいた女性――魔神が答えてしまったからだ。
『しかり。我が存在は魔神と呼ばれる。わたしの新しい主人は『エランの王』となることを望んだ』




