死人人形の恩返し
***
「……お久しぶりです」
神殿の敷地内にある墓地。
数ある中から、目印の墓を見つけ出したその男は懐かしそうに目を細めると、そう零した。
五十代ほどの男だ。
黒髪には白いものが混じり、顔にもそれなりの皺が刻まれている。
けれど、どこか若々しく見えた。
「アキラさん」
墓で眠る存在。
その名前を口にした。
その時だった。
「このバカの知り合いか?」
墓石の後ろから声がした。
「えぇ、エドさんも、お久しぶりです」
なんて言って、男は微笑んだ。
「……お前とは会った事はなかったはずだけどな。
この阿呆から俺の事を聞いていたか」
「あぁ、そう、そうですね。
この世界の貴方とは、たしかに初対面だ」
ただただ穏やかに、男は短く返した。
その返しにエドが興味を持った。
「この世界?
渡航者、にしては妙な言い方をするんだな?」
「並行世界にも行ける渡航者ですから、俺」
「……嘘つきか」
「失礼ですね」
「異世界ならともかく、並行世界?
違う時間軸、違った道筋を辿った同じだけれど違う世界からきた??」
「えぇ、そうですよ」
ニコニコと男が答える。
「はっ、そんな存在、神にもいないぞ」
「あ、じゃあ俺、神さますら超えたってことですね!
頑張ってきたんだなぁ、なんちって」
とても五十代には見えない、それどころか幼稚にすら見える態度で男はおどけてみせた。
「そう、アキラさんよりも上に来た」
その言葉に、エドの顔色が変わる。
「この言葉の意味がわかりますか?」
「…………」
「わからないわけ、ないですよね?
この世界のアキラさんは、実の娘を――」
男の言葉は、しかし途中で止まる。
エドが襲いかかってきたからだ。
それを、男がヒラリとかわす。
「アハハ、貴方も変わらない。
なにもかも、変わらない」
楽しそうに男が笑う。
「俺も、曲がりなりにも親になったからわかりますよ。
子供の頃にはわからなかった、わかろうともしなかった、親の感情ってもんがね」
男は言って、続けた。
「でも、それはこの【お話】には関係のないことだ。
今、大事なのは大昔の借りを返すことですから。
墓参りに来たのは、ちょうど良かったからです。
もう、三十五年になります。
三十五年前、元々いた世界で俺はライさんとリムさんに助けてもらいました。
その時の借りを、恩を返しに来たんです。
なんだか、大変なことになってるみたいだったので。
でも、出来ることは限られてる。
俺が手を出しすぎると世界を壊してしまうから」
最後は苦笑だった。
そこに、声がかかる。
「マスターに御用の方、というのは貴方でしょうか」
「われらが主の片割れが会うってさ」
その声に男が振り返る。
そこには、双子らしき瓜二つの容姿をした少女と少年がたっていた。
少し前に、大愚が作った杖。
その杖が擬人化した姿である。
その二人を見て、男の顔が驚きに染まった。
今しがた、男とエドのやり取りの中で出てきた、そして墓の中で眠っているはずの【アキラ】そのものだったからだ。
そんな男に構わず、少女が問いかけた。
「あの、それで貴方のお名前は?」
男が、答える。
「ウスル、いや」
男は言いかけて、言い直した。
「アキレア。
テツ・アキレアですよ、お嬢さん方」




