仕事の準備を怠らないのは・・・大人として当然ですよね? 83
第一章 七九話
「もう少し多ければ危ない所でしたが....アルバの皆さんの勝ちです! 食らいなさい!!! “断熱元素変換冷却!” 」
詠唱と同時に....複雑極まりない魔力構造式へ一瞬で魔力が満ちる。多重展開された立体式の魔力構造式全体が煌めき、同時にコカトリスの群れが....
「....?! あれは一体?」
コカトリスが群れる空に広がった光景....それを見たクレオール枢機卿の口から疑問の言葉がこぼれる....
生き残った竜翼魔鶏を捕らえた“球形結界”に....透明の液体が満ちていく!! 液体中で暴れるコカトリスに“纏わりつく”猛烈な気泡が結界内部に膨れ上がり....
〈ヴゥァアーーーーーーーン!!!!〉
名状し難い膨張音を発して弾け、大量の白煙を虚空にぶちまけた....
爆発的に広がった巨大な白煙は完全に視界を遮ってしまったが、それも一瞬の事で....
「......馬鹿な!!?」
巨大な雲と化した白煙から、凄まじい量の雹と共に....完全に氷結した竜翼魔鶏がバラバラと落下していく!!
「ふうぅ、さあ仕上げです!」
〈シドーニエさん!! 送ります!〉
〈....了解です!!〉
{ミネルヴァ! マーキングはまだ生きてるな? 送るぞ!}
{了解!}
「エクスチェンジ!!!」
連続してスキルを発動する。敵個体別照準された氷結コカトリスの全てが....まるで虚空に溶けるように端から消えていき....
「.....なる程、三首の神獣が狩られる訳だ....」
ポツリと呟くクレオール枢機卿の視線の先には....今しがたのた戦いが嘘のような静寂と、巨大な雪雲と化した白煙だけが残っていた....
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〈エクスチェンジ!!〉
ドローンオウルを通してカナタの声が響く.... と、同時に凄まじい数のコカトリスの氷像がエルグラン山脈の火口に現れる!
この事態が“起こる”事を認識していたアローナとシドーニエはことさら慌てはしないが、火口に入り込んでいた魔獣たちは当然驚愕し....
「今よ!!」
大量の“氷漬けコカトリス”の山が魔獣の意識を引きつけ....その“一瞬の隙”を突いてアローナが封印管理立体魔法陣の側に飛びすさる! 即座にシドーニエの肩に留まっていた“ドローンオウルに分権”した“核魔法構文管理者”が発動する。
「緊急閉鎖発動! 閉じます!!」
シドーニエが叫ぶと....結界が二人を包み込み、同時に火口の壁面が元の空間に浸食されて....
「全く....本当にあいつときたら....」
火口に溢れていた全ての魔獣を巻き込んで....氷結コカトリスは三首の神獣を封印していた空間に飲み込まれていった.....
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「....なる程、確かにお主の力量....尋常ではないようだな....」
クレオール枢機卿が唸るように言葉を絞り出す....その時、一連のやり取りを大人しく見ていたクレオール家の超越者級達の中から、紫の刺繍が入ったローブの人物が静かに進み出る。
「頭首....発言の許可を頂けますかしら?」
「ふむ? お前が前に出てくるとはな....まずは何故か聞こうか?」
「は! 頭首も私の得意な系統魔法はご存知の筈。 その事で....どうしても確かめたい事が御座います!」
どうも声を聞く限り女性のようだ....だが....確かめたい事?
「お初にお目にかかりますわ....私はクレオール家直属次席魔法使い“フランソワーズ・エル・クレオール”ですわ」
.....また、なんなんだ? さっきの“カズミ”といい....僕とクレオール卿は、すんなり話が出来ない“運命”でも有るのだろうか....
「....で、その次席魔法使いの方が一体どういった御用です? 一応言っておきますが、僕はまだ、先ほどのコカトリスをけしかけて来た“黒幕”があなた方だという可能性も捨ててはいませんよ? それも含めて慎重にお話する事をお勧めしますが....」
「へえ? あなた自分でもさらさらそんな事思って無いのによく仰いますわね?」
「....どういう意味です?」
「本当にあなたがそう考えているならば....カズミ様とグラブフット様がこの場を離れている状況を黙って放置してるとは思えませんわ、あなたの言動を省みればすぐさまグラブフット様の後を追っているでしょう?」
「なる程、よく見ておられるようですね....それで、お聞きになりたい事とは何です?」
そもそも、その“聞きたい事”とは?
「あなたが今しがたコカトリスの群れに行使した魔法....あれは何です? どうみても通常の氷雪系魔法とは違い過ぎます! 氷雪の嵐をもってすれば小型の魔獣ならなんとかなるかもしれません....ですがあのサイズの魔獣を、しかも“一瞬にして”凍りつかせるなど....どう考えてもあり得ません!」
はあ....なる程、この“次席魔法使い殿”は、おそらく“氷雪系魔法使い”なのだろう。自らが絶対の自信を持っていた魔法系統で起こった“有り得ない”現象....まあ僕のは、厳密に“魔法”とは主張し難い物ばかりなのだが....
「....以前、他の魔法使いの方にも申し上げた事がありますが....」
{エクスチェンジ!!}
話ながら火口で大仕事をこなしてくれた二人をこの場に転移した。二人と.... この場にはいないが各持ち場を担当する主要な者達にはここでの会話はミネルヴァを通じて伝わっている。
「自分の認識にそぐわないからと言って事実が変わる事はありません。世界は広く新たな知識に限りはありません....精進なさるといいでしょう」
そう言って....ちらりとシドーニエの顔を伺う。彼女はこちらの話を聞きつつ、知らんぷりを決め込む腹づもりのようだ....
「....確かにあなたが使った魔法は私たちの使う魔法とは違う様ですわ、ですが....私たちより広い知識を持っているからといって、私たちより聡明だと思いこむのは早計ではなくて?」
「なる程....一本取られた様です。で、先ほどの魔法の何が聞きたいのです?」
僕がそう言うと....横目でこちらを見ていたシドーニエの耳がヒクヒクと動くのが見えた。
「あなたの素性や、他にも気になる事は数えきれない程御座いますが....まずはどうやってあれほどの低温を作り出したのです?」
はてさて....どう説明したものか.....まあ種明かしは“僕ら側の地球”の人間には別段難しい物では無い。
任意空間構築で任意の空間(巨大サイズ)と、その内側に仕切る形で小型サイズの空間を作る。あとは『断熱膨張』による気体冷却(ジュール・トムソン効果)を使ったに過ぎない。
具体的には、大空間の中に捕らえた空気中に有る僅かなヘリウムガスを、小空間にある他の気体と“相転移”する事で小空間内を高圧高濃度なヘリウムガスで満たし、逆に巨大空間内を限りなく真空に近い状態にする。
あとは小空間を仕切る壁を解除すれば、“断熱膨張”によってヘリウムガスの持っていた熱は一気に下がる。
理論上はヘリウムが液体化する-269 ℃(約4 K)まで温度を低下させる事も可能だ。
こうして大量に作った液体ヘリウムをコカトリスを捕らえた結界内部に充填すれば....温度変化による圧力限界を迎えた瞬間....対象の持つ熱を大量に奪って氷結、ガスは周りの空気中の温度も奪って雲を形成しながら蒸発するというわけだが....
この世界に“不要な変化”を起こさない事を神様と約束している以上は、そうそう迂闊な事も言えない.....
「弱りましたね....」
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