仕事の準備を怠らないのは・・・大人として当然ですよね? 74
第一章 七十話
「何を世迷い事を!! 」
ヤッパリか....もし逆の立場なら、自分も不審者だと思うだろう。
「ごめんねおじいちゃん。でも本当に“親戚みたいなもの”だから...」
少し話をして誤解を解こうとしたのだが....若い方の男が『消えたとしか思えない速度』で動き始める....のが『ゆっくりと』見える!?
〔あっ! 又ちゃん!これ...なんかしたでしょ?〕
〔ああ、発動待機保存してあった“認識増速魔法”を解凍したよ。全く....初代はもっと思慮深い男だったんだけどね....〕
又三郎がぼやく間にも....ガスは一生の背後に周りこんで、彼女を羽交い締めにしようとつかみ掛かってくる。
〔まあ、この程度の動きなら圧縮動作記録を解凍するまでも無いだろう?〕
又三郎の念話には答えず、背後からつかみ掛かってきたガスの腕を振り向かずに掴んで、勢いのまま小手返しの要領で抑えこむ。
「ちょっと! 普通いきなり襲いかかる? あんた達には女性に対する優しさってないワケ?」
抑え込まれたガスが、痛みより驚愕で固まっている。ふん! 女だと思ってなめてるからそんな目にあうのよ!
〔又ちゃん、やっちゃって!〕
〔まかせときな “高電圧麻痺!”〕
又三郎が魔法を発動する。抑えこんでいた掌から瞬時に“高電圧低電流の電気”がガスに流れこみ、即座に意識を奪う。
「....言っときますけど“正当防衛”ですから!」
再度、年配の男に話しかける。男は...少し慌て気味にフードを下ろして素顔を現した。あら? 話振りからしたらもっと“おじいちゃん”かと思ったが....出て来たのは45~6歳くらいに見える渋い中年男だった。
「まさか?! 君は....いや! あなた様は! 一つ聞かせて頂きたい! あなた様がたったいま行使した魔法は....出力は極限まで抑えられていましたが....雷撃魔法では?」
「....まあ....そうね、似たようなモンよ」
聞いた瞬間!! 本当に即座に!!! ロマンスグレーは両手を地面に付いて頭を下げて....いわゆる見事な“DOGEZA”の姿勢になった?!
「数々のご無礼!! 平に平にご容赦を!! 幾星霜の時の彼方から、我々はあなた様をお待ちしておりました!!!」
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ガスが爆破した城壁を修復した後....ヴィルヘルムとライモンドを伴って一般市民が避難している大聖堂へ向かう。
流石にグラム神聖国が統治していただけあって聖堂だけは立派である。それが今や立派な“避難所”になっているとは....皮肉なものだ。
「ヴィルヘルムさん、他の冒険者や義勇軍に志願してくれた方達は?」
「今は市民の護衛を兼ねて大聖堂に一緒に待機してる」
よし、手はず通りだ。予定外の来訪者が来たので多少手間取ったが、とりあえず城壁は目処がついた。
後はアルバ本来の守り手達の背中を、ほんの少し後押しするだけだ。
「ヴィルヘルムさん、ライモンドさん、恐らく24時間か...遅くとも48時間以内にグラム神聖国の軍隊2000余りがやって来ます....ですが....彼等の好きにはさせません。その事をしっかり市民の皆さんと義勇軍の皆さんに周知しに行きましょう」
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数時間の後、ヴィルヘルムやライモンドだけでなくマレーネとサブリナ、ローランドとロアナ、そこに兵の撤退を指揮していたアローナとグラブフットが大聖堂に集合する。
大聖堂には約9000人の非戦闘員と800人余りの義勇軍を収容している。本来は一万人弱もの人間を収容するキャパシティはなかったが、僕の任意空間構築で中を拡張して人数に対応した。
構築に必要な魔力は、集積と収容している人々が少しずつ負担する形に魔法陣を組んだので、僕の内在魔力は使わずに済んでいる。
結界の各種管理も専任のドローンオウルを聖堂各所に配置してあるので、万が一領都内に被害が及んでも、即座に入り口を閉じて別空間に避難する手筈だ。まぁ、領民達は大聖堂が大きくなって違和感を感じているかも知れないが....
今回、義勇軍に参加してくれたローランドさんとロアナの親娘など....
「三首の神獣を狩る様な魔法使いのやるこった。いちいち気にしてたら身が保たねぇよ。」
などと、身も蓋もない言いようだ。まあ仕方ない、とりあえずはこの大聖堂に避難中の領民達に話を聞いてて貰おう。
{ミネルヴァ、合図したら声を聖堂の各所に配置してあるドローンオウルへ中継してくれ}
{了解致しました。集音器具をセットします}
ミネルヴァがテンプオーダーを応用して作成したマイクが講壇の説教台に現れる。
「ライモンドさん。まず皆さんに簡単な説明とアローナさんとグラブフットさんの紹介を頼みます。紹介されたら二人は手筈通りに....」
「....わかったわ。でも....本当に大丈夫かしら?」
「そうだぜ、俺らは所詮余所者だ。ギドルガモンの討伐っていう手札があってもなぁ....」
「大丈夫ですよ、最後はマレーネ様にも出馬して頂きます。コッソリとですが....」
やり取りを聞いていたライモンドが意を決して立ち上がった。
「....正直なところ、もうアルバ地方は色々と限界だった。重税や宗教的差別、魔物を狩る為の冒険者達を集めようにも戦力を集める事をグラムの奴等が危惧して許されない。だからな....今回の事はきっかけに過ぎない。俺達はもう立ち上がるかゆっくりと死ぬかを決めなきゃならない瀬戸際だったのさ!」
「ならば....そんな理不尽を許容する必要は無くなったと知らしめましょう! その為にも全員の力が必要です」
「ああ! 任せてくれ!」
力強く頷いたライモンドは講壇に向かっていった....
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