外国には・・・外国の事情がある物ですよね? 57
第一章 五三話
苦笑しつつ、答えた僕の返答に・・・セルディック4世は同じく苦笑を浮かべながら・・・
「カカカッ、なんともはや・・・そちの申す平穏に込められた “真に求める物” は、初めて会ったワシには解らんが・・・“民の平穏”は儂とて望む所。まして我が国が主導して起こした争乱なれば・・・決着に手を拱く訳にはいかんな。」
よし、協力に言質はとれた。後は提案次第だ。
「ならば僕の話を聞いて頂く前に・・・先に片付けねば成らない事を成しましょう。」
セルディック4世とアローナの表情が訝しげに変わる。
「?それはどういう事か?」
「先に申し上げた様に・・・此度の願いを聞いて頂く為に・・・陛下にはギルムガン王国にて“唯一絶対の為政者” 足り得る事が肝要かと・・・」
「ふむ・・・ 確かに、儂に薬を盛ったであろう者を始めとして、宮廷内には儂に従う事を良しとしない者も多いが・・・ならばこそ、二度と隙は見せる訳にはいかんな。早速此度の件を画策した者達を調べ挙げて・・・」
やはり一国の王だけあり、こちらの意図を正確に汲んでくれた。が、それを悠長に待つには時間が無い。
「話が早くて助かります。ならば少しの力添えをお許し願いたいのですが・・・」
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それは、王の為にアルバ地方への侵攻を開始して暫くした早朝の事だった。起床後の診察に訪れた侍医が、国王の不在を発見し、王宮内は上を下への大騒ぎになった。
私を始めとする“国王派”はもとより、王弟である“ソルダート公爵派”、また、その外の小派閥や日和見貴族達は、それぞれ “敵対派閥がとうとう業を煮やして国王を拉致した” と考え、“すわ内戦か!” と思われたが・・・やはり各派閥とも、決定的な証拠無しには身動きが取れず、事態は膠着する事となる。
夕刻・・・結局、王の行方はようとして知れず、王宮内には一触即発の雰囲気が漂っている。各派閥は身内で固まり、“議論百出なるも実の少ない討議”を重ねていた所へ・・・一通の書状が届く。
不可思議な事に、その書状は誰一人気付かぬ内に入り口の前に現れていた。
封蝋の印章は国王の物で、中身は“この書状を受け取り次第、謁見の間に参集せよ”との文言にセルディック4世のサインが添えられていた。
「これは・・・面妖な! しかしこれは確かに父王の印章。なれば・・・」
書状を確認した私は・・・弾かれた様に立ち上がり、傍らに控えた派閥の長老であり大叔父でもあるセランバード辺境伯へ、
「謁見の間に向かいます!大叔父上、同行をお願いしたい!」
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謁見の間に入ると、既にそこにはソルダート公爵を始めとする各派閥の主だった者が参集していた。
「ふん! スクルージよ、この様な変事に随分と悠長に現れるものよ!王太子の名がそれ程重いか?」
尊大なソルダート公爵がイヤミを吐くが、今はそれどころではない。
「遅参の誹りは改めて伺いましょう。父王は何処か?」
例え、相手が“宮廷の最大派閥”で“血縁上は叔父”でも・・・正式な王太子である自分がいる以上、彼が次の王になる事は無い。王自身が継承権の順番を入れ替えでもしない限りは・・・
そう、今回の王の誘拐は、正にそれを狙った“公爵派の暴発では無いか?”と危惧して居た・・・それこそ、この場に現れた途端、父王の名代を名乗る公爵が、継承権の入れ替えを宣するかも知れない! そこまで警戒し、近衛を連れてこの場にやって来たのだが・・・王のおわすべき玉座には誰も居ない。
「ふん! さも自分は此度の仕儀について“預かり知らぬ”とでも言いたげよな? どう見ても、病床にあってなお王位を継げぬ貴様が兄王を拐かしたとしか思えぬではないか! 」
「ほう? なる程、それが叔父上の筋書きであらせられるか? 何とも陳腐な! 今時、流れの旅芸人でも、もう少しマシな物を書き上げるでしょうな! 」
見かねたセランバート辺境伯が諫めに入る。
「ええい! 止めぬか! 神聖な謁見の間で何をしておる!」
「カカカッ、誠にそうよのう。」
その時だった・・・確かに今の今まで何者も居なかったはずの玉座に、父王セルディック4世が座していた。
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おかしい・・・確かに、先程まで誰も居なかった筈の玉座に父王が現れたのも訝しいが・・・昨日の病床での謁見の折は、痛々しい迄に衰弱していたというのに・・・今の父王は姿こそ痩せ細っているが、病特有の憔悴感はなく力強い面差しで、謁見の間に控える我らを見据えている。その傍らには見慣れぬ若い男と・・・
(アローナ! 何故ここに? 今はアルバ地方にいる筈! )
「どうした? 我の顔を忘れたか? 全く薄情物ばかりよの? 」
皆が呆気に取られていた時、いち早く我に返ったセランバート辺境伯が、
「皆の者、何をしておる! 陛下の御前なるぞ!」
と大声でその場に居るものを諫め、真っ先に平伏する。それを見た我々も慌てて臣下の礼をとる。すると大叔父であるセランバート辺境伯が、
「陛下! 御見苦しい所をお見せして誠に申し訳御座いません。此度の失態は長老たる私の至らなさ故の事。罰は如何様にも・・・」
「よい。伯には気苦労ばかりかけるの。至らなさであれば余もどっこいという所よ! 気に病むでないぞ?」
「はっ、もったいの無いお言葉で御座います陛下。 して、此度の仕儀、如何様な事で御座いましょうか? 」
そう、それだ。こうやって皆の前に現れた父王は、明らかに昨日までとは違い病に冒されている様には見えない。で、あればアローナやグラブフットが“上手く事を運んだ”という事だ。ならば、何故、父王は1日とはいえ姿を消していたのか?
「何、此度はアローナと・・・この御仁に、色々と世話になったのだが・・・」
「なんと、姫様とそちらの御仁?が・・・」
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姫? 驚きを隠して、さり気なくアローナに視線をやると、何故か恥ずかしそうにそっぽを向いたアローナがいる。
「まあ、それは後でよかろう? それよりも・・・ソルダートよ。」
声を掛けられたソルダート公爵がびくりと震える。
「へっ、陛下、ご心配いたしましたぞ! 何故にこの様な・・・」
『 パンッ! 』
そこまで言った時、王の打った柏手がソルダート公爵の言葉を遮る。
「まあ、慌てるな。話はこれを見てからでも遅くはあるまい? 」
そう言った王は、こちらに向かってウインクをよこした!
この王様・・・実は相当に“やらかすタイプの人間” なのでは? と、気付いたのは・・・新たに作ったテンプオーダーに招いて、王宮内をくまなく監視していた時だった・・・
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エンター6内で、〈“王の失踪”を知って怪しげな行動を起こす者を、密かに監視する。〉その為に、あらゆる所にテンプオーダーの出口を作って監視する事にした。
王が行方知れずとなれば、きっと薬を盛った黒幕も驚いて動き出すと踏んだ故に取った作戦だったのだが・・・
肝心のセルディック4世が・・・まあ、これでもかという位、色々と質問を放ってくる。まるで好奇心旺盛なやんちゃ坊主の様だ。
「待って下さい! 少し落ち着いて下さい。あなたは先程まで重度の中毒症状だったのです。まだ無理はいけません。そちらにベッドを用意しましたから大人しくしていて下さい!」
「なんの、自分の体の限界くらい分かっておるよ。それよりもこの様な得難い体験をして黙っておる事など出来ようか!」
と、一向に大人しくしていない。仕方ないのでアローナに強引にベッドで大人しくさせた時、その場面は唐突に訪れた・・・




