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トランスファー “空間とか異次元とかってそんなに簡単なんですか?”  作者: 鰺屋華袋


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22/102

道具は・・・手に馴染む物が一番だと思いませんか? 22

        第一章    十八話



{丁度いい。ついでに買い物をすまして行こう}


{了解です。建材が石材の為エコーロケーションだけではマッピングが困難です。電磁波によるレーダーを併用してマッピングを開始します}


{頼むよ}


 アレディング商会王都本店は4階建ての石造建築だ。


 3階までのフロアの約2/3が商品の販売スペースで残りが倉庫等のバックヤードの様だ。


 取り扱い商品は多岐に渡る。恐らくこの店舗にくれば日用雑貨から武器・防具、食料品に致まで揃わぬ物はないだろう。


 適度にフロアを見て周りながら観察する。ついでに服や靴、カバンなどを購入して試着スペースで着替をする。(ちなみに店員と世間話をしたら試着スペースは割と一般的なようだ)それなりに高額商品である新品の服はサイズが違ったからと言って簡単に返品や交換は出来ない。であればこそ試着スペースは必要なのだろう。


 こちらの世界に移ってから使いっぱなしだった物を改めて購入しながら店内を歩く。


 大体のマッピングが済んだあとトイレに入って人目をさける。ここからが本番だ。


{ミネルヴァ、エクスチェンジで荷物を宿に転送したら“隠蔽(フルカーテン)”を頼む}


{了解しました。座標設定完了、何時でも発動出来ます}


{エクスチェンジ}


{“フルカーテン”を発動しました}


 手荷物を宿の部屋に送り、“隠蔽(フルカーテン)”で姿を隠す。この魔法は認識阻害とは異なり空間の光線を対象を避ける形で湾曲させて誤認させる。所謂[光学迷彩]であるが光が自分を避けるとこちらからは何も見えなくなってしまう。そこでエコーロケーションとレーダーを組み合わせ、モノクルにAR投影(拡張現実投影)する事で視界を確保している。


 ちなみに空間結界型の隠蔽魔法なら同じ事をしても空間内壁に景色を投影すればいい。


 そっとトイレからでると僕達は4階部分に繋がる階段を登り始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 4階の奥深い位置にある部屋。一人の男が部下から報告を受けていた。


 様々な業務連絡をや結果報告を受けた後、懸案事項について相談を始める。


「現在の予定達成率は55%です。このまま推移しますと期日での達成率予測は出来て85%といった所でしょう」


「やはり増員が急務か……鍛冶屋街の店主達はどうなってる?」


「ギルド関連はまだうるさく言って来てますが肝心の職人達が限界に近いですね。ただ、早急にカタを着けたいならもう一押し何かダメおしが必要かと...」


「まったく...背に腹は代えられんとはいえ面倒な事だ」


「やはり職人達に守秘義務を課して外注に切り替える訳にはいかないんでしょうか?」


「今回の仕事は絶対にギルドや国に気取られる訳にはいかん。完全に子飼いにして囲い込んで情報漏洩を防がなければ身の破滅だぞ」


「...ではやはり職人達の結束を切り崩す策が必要かと...」


「取り急ぎ奴らの中で影響力の強い何人かに報酬の増額をちらつかせろ。仲間を引き込めば更に増額を提示しても構わん」 


「分かりました。早速手配します」


 部下の男が足早に去って行く。一人執務室に残った男は深い溜め息をついた。


「どこのどいつか知らんが全く余計な事をしでかしてくれた物だ。()()()()帝国軍が侵攻してくれてさえいればこんな事態にもならなかったというのに」


 そう呟くと彼自身も執務室を足早に出ていく。すると誰も居ない筈の部屋の中で...


「とういう事だ?」


 カナタの呟きがこぼれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その後執務室を漁り、幾つかの書類と手紙等を見つけてようやく事態のあらましが見えて来た。

  

「なる程な...そういう事だったのか」


 利に敏くて金に汚い奴らってのは世界を跨いでも同じ様にいるもんだ。両親が死んだ時の事を思い出して少し暗澹たる気持ちになる。


{とりあえず宿に戻ろう。ミネルヴァ、座標設定を頼む}


了解(オーバー)! 座標設定完了です}


{ムーヴ}


 一瞬で宿前の路地に移動する。


「さて、満更関係ない話でもなし...どう料理してやろうかね」


 宿の扉を開きながら呟く。彼には珍しく不適な笑みが口元に浮かんでいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その頃王城では...


 ビットナー伯爵が国王ブルームハルト二世と宰相パウルセン公爵に謁見し、昨日のあらましを報告し終えた所だった。


「なんともはや...その者の申す事は分かった。とにかく我が国に敵対せず。滞在中は我らに最大限の配慮と利益を供すると、そういう事じゃな」


 パウルセン公爵が話をまとめると伯爵が頷く。


「はい。他国との争いや秘匿している魔法の開示などは許容出来ないそうですが...約定を違えない限り敵対する事はないかと...」


 伯爵の報告を黙って聞いていたブルームハルト二世がおもむろに口を開いた。


「報告ご苦労。引き続き宰相と話し合って条件の詳細をまとめよ。裁可は宰相に一任するゆえ...早々に彼の者と契約を交わし、我が国に不利益を被らない体制を整えよ」

 

「「 御意 」」


 二人が今後の協議のため退出すると国王は小さく呟いた。


「...さて我が国に流れ着いたのは希望の種か災厄の種か...何の花が咲くかは土と水が肝要かの...」



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