78:お茶会はまだ続く
「では我々はこれで」
「はい。行くことになれば、連絡させていただきますね」
さて、ヴィリジアニラに営業をかけた三人が去ってもお茶会は続く。
とは言えだ。
「しつ……っ!?」
「……」
覚悟を決めてやってきた先ほどの五人はまだしも、五人が通れたなら自分もなんて日和った気分でやってくる連中にまで声をかけさせる気はない。
なので俺はヴィリジアニラが居る、このテーブルに近づいてこようとする連中を睨みつけ、安易な気持ちでは近づけさせないようにする。
結果、今もまた一人、気まずそうに視線を逸らしてから去っていった。
「ふふふ。それにしても、優秀な部下が居て羨ましい限りですわね。ヴィリジアニラ様」
「お褒めの言葉、ありがたくお受けさせていただきます」
なお、現在ヴィリジアニラは『エニウェアツー』社の社員を名乗る女性と歓談中である。
『エニウェアツー』社の社員という事は、宇宙船『パンプキンウィッチ』と車を操って俺たちを送迎してくれたジョハリスの同僚か上司という事になるが、この場に招かれているという事はジョハリスの上司と考えていいだろう。
そして、ジョハリスの上司と言う事は、諜報部隊の一員でもあると言う事だ。
「ジョハリスさんも素晴らしい方でしたよ」
「そうですか。貴方様にそう言っていただけるとはあの子も喜ぶことでしょう」
……。
まあうん、どっちも諜報部隊なので、和やかに会話をしつつ、裏ではフラレタンボ伯爵への情報リークも兼ねた情報交換をしているようだ。
そういう意味でも、この場に普通の人間を近づけるわけにはいかないのである。
「……。二人とも」
と、ここでドレス姿の女性が一人で近づいてくる。
俺は睨みつけてみるが、気にしていないのか、分かっていてスルーしているのか、とにかく構わずに寄ってくる。
どうやら止められなさそうだ。
なので俺はヴィリジアニラと『エニウェアツー』の人に、部外者の接近を知らせ、二人は会話を一時止める。
「ご歓談を遮るような真似をして申し訳ありません」
「ちょうど話に一区切りがついたところですので、問題はありません。それで貴方は?」
俺は女性を観察する。
藍色のドレスに星を散りばめたかのような、けれど派手ではない程度に抑えた衣装。
幾つかの星を模したようなアクセサリー。
黒い髪に金色の目。
化粧はほどほどで、目鼻立ちは整っている。
美人ではあるが、普通の美人と言う感じだな。
「私はメーグリニア・バロン・スペファーナと申します。本日はスペファーナ男爵家の名代としてフラレタンボ伯爵家のお茶会に参加させていただいております」
「ご丁寧にありがとうございます。私はヴィリジアニラ・ヴィスカ・バニラゲンルート。今日はフラレタンボ伯爵のお招きで参加させていただきました。サタ、彼女と席を代わってもらえるかしら?」
「分かった」
「メーグリニア嬢、折角だからおかけになって。何か話があるのでしょう?」
「ありがとうございます。では……」
俺はヴィリジアニラの求めに応じて、椅子を立つと、ヴィリジアニラの背後に回る。
そして、先ほどまで俺が座っていた席を、フラレタンボ伯爵家の使用人が素早く改め、それからメーグリニアが座る。
さて、スペファーナ男爵家と言うのは……フラレタンボ星系の統治に関わっている貴族の一家で、軍事研究の責任者を担当しているようだ。
今回、お茶会に呼ばれたのはその縁で、此処までは名代として他の参加者たちに挨拶をして回っていたようだ。
それにしても、俺に席を譲らせるという事は……このメーグリニアと言う人物は、例の眼球を抉る連続猟奇殺人事件に何かしらの関係があるらしい。
事前の取り決めで、ヴィリジアニラの求めで席を譲る時は、ヴィリジアニラの目が脅威を察した時と決めていたからな。
「ふふふ」
「ほうほう」
「ええ、そうなのです」
とは言え、現状では怪しい点は見られないな。
『エニウェアツー』の社員さんも含めて、三人とも仲良く、笑顔で会話をしている。
「そう言えば、私に今日声をかけてくる人の中には宇宙怪獣について尋ねてくる方が多かったのだけど、メーグリニア嬢もそうなのかしら?」
「宇宙怪獣ですか? そうですね。興味があるか否かで言えば……大いにあります」
「そうなの?」
「はい」
おっと、ヴィリジアニラが踏み込んだな。
ヴィリジアニラの目の事を知っている人間しか知らない事だが、あの連続猟奇殺人事件にも繋がる正体不明の脅威は、宇宙怪獣ブラックフォールシャークに関係する事柄で現実のものに繋がるような傾向があった。
その傾向を踏まえれば、ここで反応があるか否かは重要だ。
ただ、その後に続く言葉は少々面を食らうものだった。
「星をも飲み込まんとする大きさ、帝国最新鋭の科学ですら分からぬ未知、推定年齢が億単位となる長大なる寿命、宇宙空間を単独で航行する生命力、独自のOSすら保有できる神が如き力、他にも他にも他にも宇宙怪獣だからこその力、知識、生態。あれらを知っていてなお惹かれない人間なんてこの世には居ません。卑賎なる我が身では彼らに近づくことはおろか、正しく知る事も許されはしませんが、その謎の一端でも明かす事が出来れば帝国の中でも指折りの叡智を保有すると言っても過言ではありません。ですから私は……はっ!?」
「「「……」」」
正に怒涛の勢いと言う奴だった。
「も、申し訳ありません。私一人で舞い上がってしまい……」
「だ、大丈夫よ。そのメーグリニア嬢はもしかして『宇宙怪獣教』を……」
「は、はは。分かってしまいますよね。そうですね。私は『宇宙怪獣教』の信奉者ではあります」
そして、メーグリニアはバツの悪そうな顔をしつつも、あっさりと自分が『宇宙怪獣教』の信徒であると認めた。
11/04誤字訂正




