46:ショートブレッド食べ比べ
ショートブレッドとは何か。
基本は小麦粉、バター、砂糖を混ぜて作られた手軽に食べられる焼き菓子であり、その由来はとにかく古く、バニラ宇宙帝国が宇宙に進出する前、何ならバニラ宇宙帝国と言う国が存在しなかったころからあるようなお菓子である。
トリティカムファクトリーではそんな伝統的なお菓子を元に、手軽に食べられ、栄養を補給できる軽食になるようなショートブレッドを開発し、昔から売ってきた。
その開発と販売の歴史は今も続いており、伝統的な味のものから、期間限定の変わり種まで様々な味が売られ、今ではmod技術も利用したものも存在している。
「さて、まずは伝統と信頼のバニラ味。うん、美味い」
では順番に食べていこう。
まずはバニラ味。
帝国の名を冠しているが、こちらが指すバニラは独特の香りを持つ植物の方であり、宇宙帝国の名も元を辿っていくとこの植物に行きつくそうだ。
うん、ほのかに甘く、幾らでも食べられそうだ。
続けて、チーズ味、チョコレート味、メープルシロップ味、ハニー味。
どれもお馴染みな感じの味だな。
やはり幾らでも食べられそうだ。
あ、チョコレート味のカカオや、メープルシロップの元になるサトウカエデと言う木はグログロベータ星系のものだし、ハニー味の蜂蜜もケーラビーのそれみたいだな。
じゃあ、そこまで読み取れるならマイナーチェンジ版と言う認識も出来るか。
さらに続けてトマト味、ベジタブル味、パイナップル味、ミックスフルーツ味。
この辺は少し変わり種だが、まだまだ一般的な味だな。
いずれもそれぞれの表記通りの味がしている。
トマトとベジタブルは特に軽食と言う感じの味がするのは……この二つが野菜だからだろうか。
さあ、此処からは完全な変わり種。
フェイクミート味、つまりは肉もどき。
うん、肉って感じの味がするな。
なんなら、食感もmodによって割と肉っぽい感じが再現されている。
でも成分表記を見ても、俺の舌でも肉は一切感じ取れない。
続けてサシミ味、つまりは生の魚肉。
こちらもフェイクミート同様に、味も食感も魚肉っぽい感じになっているが、やっぱり肉は一切含まれていない。
さらにはナットー味。
納豆と言うのは大豆を発酵させて作られた独特の臭いや食感を持つ食べ物なのだが……その臭いと食感を部分的にだが再現してみせている。
うーん、この辺の変わり種は人によって好き嫌いが激しいだろうなぁ……。
「……。サタの体質的に問題はないのでしょうけど、よくそんなに食べられますね……」
「うん? ああ、普通のヒューマンの成人男性でも二本食えば一食分くらいにはなる。そのくらいには栄養価があるんだったな。これ。まあ、問題はないから大丈夫だ」
ちなみに、俺はここまでに12種類食べているが、ワンパック4本入りなので、48本食べていることになる。
普通のヒューマンの成人男性なら24食分……一週間分以上食べている計算になるな。
本体のサイズを比べたら誤差でしかないが。
「お、カロリーボムタイプもあったのか。端から頼んでいたから気づいていなかった」
「カロリーボム?」
「極地探検家向けの製品ですね。一本で普通のものの4倍の栄養が含まれています」
「……」
おお、流石はカロリーボム。
味が濃い、脂っぽい、口の中が乾かないように芯に甘いシロップが入っている。
なんと言うかこう、太りに行っています、と言う感じの味がするな。
でも流石は大企業と言うか、美味しさもある。
ちなみにメモは極地探検家向けの製品と言っていたが、軍や傭兵と言った特殊な職業向けでもあるし、非常食にもなり得る。
用途はかなり幅広く、一部からの人気は高いものなのだ。
「さては最後は……」
ではラスト、新製品の試食版だな。
俺はパッケージから取り出すと、匂いを嗅いでから口に入れ、噛み砕く。
「……」
簡単に表現するならばパーフェクトコントロール味、と言うところか。
指定破砕modによって、口の中で噛み砕いた際に最も美味しく感じるような形で粉砕されていくのが感じる。
そして、美味しく感じるようにという事は、舌の味蕾を正しく刺激するだけでなく、微粒子を鼻腔の方まで移動させて芳しい香りを届けると言う意味でもある。
いや、それだけでなく胃に到達すれば胃酸と素早く反応して消化され、腸に到達すれば極めて効率的に体内へと吸収される。
そうして吸収された栄養素はmodから解放されると共に、体内の必要な部位へと迅速に移送されて、その役目を果たすことになるだろう。
味そのものはmod機能を除けば従来品と大差ない。
食感も同様。
悪くはないな。
悪くはないが……新作のmodであるなら、少し実験が要るな。
トリティカムファクトリーほどの大企業に抜かりはないと思うが、念のためだ。
「サタ?」
「サタ様?」
「メモクシ。新製品についてのご意見BOXってあるか?」
「こちらですね」
「分かった」
と言うわけで、本体の方でのセイリョー社基準でのmodの検証をして、その結果をトリティカムファクトリーに送り付けておく。
うーん、この感じなら従来品を食べるのがつらくなっているが、まだ口は動く病人とかに向いてそうな気はするな。
欠点は現状のmod構成では何かを仕込まれた場合に、その何かの吸収も効率よくなる点か。
これは有効利用も可能だが、注意喚起も必要な点だろう。
「あのサタ。送信に妙に時間がかかっているような……」
「まあ、それだけのデータを送ってますから。でも、専門家視点だと貴重なデータなんで無碍にはされないと思います」
「気を付けないと営業妨害と捉えられそうですね」
「不安ならセイリョー社を頼ってくれと冒頭に書いてあるんで大丈夫です」
「……」
まあ、ハズレ品ではないし、何処かで利用は出来るかもしれない。
致命的事象破綻の危険性もなさそうだし、このmodについては覚えておこう。
と言うわけで、俺は残りの新製品も味わいながら食べたのだった。
とりあえず担当者の精神がひゅっとなり、胃がきゅっとなるやつ。




