309:悩みは尽きない
「ううむ……」
俺は『シェイクボーダー』内の自室で唸り声を上げていた。
現在時刻は帝国共通日時で朝の9時。
『シェイクボーダー』が内部に停泊している『タマイマゼカワ』を含む帝国軍艦隊が、目的地であるシルトリリチ星系に着くまで後100時間と言うところだろうか。
「時間が無い。ある程度割り切って、特定分野にだけ集中させたんだが、それでもなお時間が無い」
シルトリリチ星系に着いた後で何が起きるかは分からない。
最もスムーズなパターンとしては、現地にフナカが居らず、フナカと協力体制にある宇宙怪獣も居なくて、シンプルに現地の犯罪組織を制圧してしまう形になるだろう。
この場合には、ぶっちゃけた話として、俺はおろかヴィリジアニラの出番すらないと思う。
この艦隊群を相手に普通の人間の集団程度ではどうにもならないし。
次のパターンとしては、フナカ不在、虫型宇宙怪獣のような宇宙怪獣が居るパターンだが……この場合はヴィリジアニラの目を生かして危機を避けつつ、俺も防御をしつつ急いで解析をして対処する形か。
フナカが制御できるレベルの宇宙怪獣なら、マガツキ、シュウ、先日の虫型と、まあ、何とかはなるだろう。
宇宙怪獣ブラックフォールシャーク並のが来たらどうしようもないが、それならそれでヴィリジアニラの目が任務中止を訴えるレベルで反応するだろうし、あのレベルのはフナカも御せないだろうから、考えなくてもいいな。
その次に厄介なのがフナカだけ居て、宇宙怪獣は居ないパターンで……これはまあ、全力でフナカに対処するしかないな。
多大な被害が出るだろうが、今俺が作っているmod含め、使えるものは全部使っても、どうにかするしかない。
最も厄介なパターンは……フナカとフナカに協力的な宇宙怪獣が居るパターンか。
どちらか片方ならばなんとかはなるだろうが、両方一緒に来られたら厳しいなんてものでは済まない。
この場合には、どちらかを速攻で撃破した上で、もう片方に注力するのが、一番生き残れる目があるだろうか。
で、パターン的にはこの四つだとしても、実際に何が起きるかは現場に行ってみないと分からない。
だから出来るだけの準備を整えたいのだけれど……その準備をする時間が、対応できる範囲を限ってもなお足りない。
相手の方が格上であるのは確実だから、対応しきれない部分が出てくるのは仕方がないのだけれど、これで大丈夫かと言う不安が拭えない。
フナカが居ないパターンも考えているけれど、俺たちがこの場に居る事とチラリズム=コンプレークスの性格と力を考えると、居る可能性の方が圧倒的だろうしなぁ……。
本当に悩ましい。
「一度休憩するか」
思考の行き詰まりを感じたので、俺は部屋の外に出ると、キッチンへと向かう。
「サタ。休憩ですか?」
「ああ。何処まで詰めても足りている感じがしなくて、流石に気疲れがなぁ……」
「そうですか」
キッチン、それに隣接しているリビングにはヴィリジアニラとメモクシが居た。
手元の情報端末の状態からして、ヴィリジアニラも休憩中だったようだ。
「そう言えば、艦隊の艦長たちとの話し合いはどうなんだ?」
「おおむね順調。と言うところですね。今回の任務を任された方々だけあって、信用も信頼も出来そうです。少なくともシルトリリチ星系とその周辺の未開拓宙域、これらを全力で回す事で賄える程度の賊ならば相手にはならないでしょう」
「なるほど。けれど、フナカ、それに未知の宇宙怪獣が相手となると……」
「当然ながら不安があります。私たちが全面的に前に出たとしても、艦隊への被害なしとはいかないでしょう」
ヴィリジアニラは一度限りの命令権を受け取ってから、艦隊の艦長たちの会議へ毎日出席している。
成果としては……まあ、悪くはなさそうだ。
フナカと宇宙怪獣が相手では厳しいのは当然の事だしな。
「サタ様。例のmodの製造とインストールについては終わったと各船から連絡が入っています」
「分かった。ただまあ、あのmodの効果については気休めだと思っておいてくれ。無視できないレベルのデメリットもあるしな」
「アレですね。ですが、アレは必要なものだと思います」
メモクシからは業務連絡。
無事に導入できたようで何よりである。
なお、例のmodとは、バニラシド星系での戦闘から逆算して製造した、対フナカ用のmodであり、フナカが使う分解の力に対してある程度の抵抗が出来るようになるはずの代物である。
うん、必須という事で優先的に作ったが、ぶっつけ本番にするしかないと言う、不安極まる代物である。
理論上は大丈夫なはずなんだが、OSが違うと、理論が成立しなくなることがあるからなぁ……。
デメリットとして、mod使用中はブラスターmod全般の精度が酷い事になるし。
「お、二日ぶりくらいに全員揃ったっすね」
「ジョハリス、『シェイクボーダー』の調子は?」
「『シェイクボーダー』は問題なしっす。ついでに『タマイマゼカワ』に搭載されている戦闘機や主砲も見て来たっすけど、そっちも問題なしっす。妙な情報も入ってこないっすから、増殖事件以降はまだ何も仕掛けられていないと思うっすよ」
ジョハリスは『シェイクボーダー』の外から戻って来た。
どうやら整備点検の他に、ネットや上層部にまで上がってこないような範囲の情報収集をしてくれていたらしい。
そして、現状ではフナカ側からの新たな攻撃はない、と。
うーん、やっぱり現地で開幕大規模に仕掛けてきそうな気配がするなぁ。
「そうですか。サタ、折角なのでお茶にでもしましょう」
「そうだな。そうするか」
俺はキッチンでお湯を沸かし始めた。
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