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【エルフ国】


 ここはエルフ族による国、ミセタ王国。その王座の間。王であるエルレイア王は目の前に立っている息子、エルフィリオ第一王子を静かに見つめていた。


「父上。私は……」


 エルフィリオは、冷や汗をかきながらエルレイア王に何かを告げようとする。


「ほう。まだ何か申し開きがあるのかね。エルフィリオよ」


 王は、息子を威圧するように名前を強調してそう話す。


「い、いえ……」

「お前はラグンではピリカラルにおいて敗退。それに対して弟のエルファバは少数で武功を挙げた。あの時点でお前はエルファバに大きく差をつけられた」

「し、しかし私もピリカラルでは絶望と言われた撤退戦を生き抜きました!」

「それはニヒル隊が優秀なだけだ。事実国民もそう認識している。ニヒル隊の存在は隠しているが、皆陰では知っているはずだ」

「そ、それは……」

「そして、だ。『妖狐計画』の失敗に加え、此度のアイデン国での失敗。あれで優秀な駒を2つも失った。お前にはほとほと呆れるばかりだ」

「しかし、それらはレイチェルが率先して行っていて」

「指示していたのは貴様だろう。何にせよ、今現在エルファバが国民から大きな支持を受けているという事が、最も問題なのだ」


 王はそう言った。この国では、今第一王子エルフィリオと第二王子エルファバの跡目争いが起こっている。普通なれば、第一王子のエルフィリオに王位が受け継がれるはずだが、国内ではエルファバの人気が圧倒的になっていた。


 かつてラグン国との戦いの際に、エルファバは少数の手練れで精鋭集まるラグンに勝利した。この際、王はエルファバの武功を隠蔽しようとしたが、噂はどこからか広まり、国民からは英雄扱いされた。


 それに対してエルフィリオは、ラグンに数で勝っていると油断して、大きな痛手を被った。その際エルフィリオが率いていた部隊は壊滅状態に陥ったが特殊部隊ニヒル隊によって、帰還に成功していた。王子直属の部隊数十名はなんとか無事だったが、他の部隊は戦死した。これにはミセタ国民も非難し、ますますエルファバの地位が高まった。


 エルファバは、魔人と人間の共存を目指しており、それは王や国内の保守層にとって非常に邪魔な存在だった。


「レイチェルが暗殺に成功しておればな……」


 王はそう呟く。

 実は、レイチェルによってエルファバは何度か暗殺されかけていた。しかしエルファバの優秀な部下たちによってそれは防がれている。


「父上、このままだとエルファバが王位を継承することになるのでしょうか」

「私としてはなんとしても避けたいが……改革派の老人どもはそうはいかんだろうな。元々私が王位をになる事を認めていなかった連中だ。何より国民がエルファバを求めている」


 エルフ族は、このエルレイア王が初めての王であり、初めての国家である。元は里だった。その名残からか、一族の長を決めるときには、権力を持つ10のエルフによって決定される。その中で改革派と呼ばれるエルフ達は、エルレイアのことをよく思っていなかった。


「こうなったら……今度こそあいつを暗殺するしか……」

「幾度も失敗しているお前にそれが出来るのか?」

「なので父上。私には考えがあります。おい、入っていいぞ」


 エルフィリオがそう言うと、部屋の扉が開き、1人の男が入ってきた。不健康そうな顔をした壮年の男。死霊魔術師ネクロマンサーのギュンターだった。


「これはこれはエルレイア王。私がギュンターでございます」

「なるほど……確か貴様だけは戦場から離れておって運良く生き残ったのだったな。それで? こいつを使って何をするつもりだ。ゾンビなどではエルファバはやれんぞ」

「もちろん、違います。今回戦うのはゾンビなどではなく、エルフィリオ王子です」

「何?」


 王は驚いてエルフィリオの方を見た。エルフィリオは、少し不安そうな表情をしているが、どこか自信にも満ちている。


「私がこれまでに蓄積したデータを基に、ある秘薬を作りました。それが、これです」


 ギュンターが懐から取り出した小瓶には、黄色い液体が入っていた。


「それは?」

「妖狐の研究をしていた際に、神魔と呼ばれる魔族のある特性を発見しましてね。体内の筋力や魔力を増大させる力です。そのデータからこの秘薬を作りました。これは、飲めば倍以上の力を得る事が出来るはずです……その代わり、100年ほど寿命が縮まる副作用があります」

「100年……興味深いな」

「ええ。実験体に何度か試したんですが、ほとんどが急激な身体の肥大と共に絶命してしまいまして。たまに生き残っても、すぐに心臓発作を起こして死んでしまう。どうやら原因は寿命を縮めることにあったようです。そこで寿命が長い魔人に試したところ、生き残りましてね。素晴らしい力を発揮してくれています」


 ギュンターはそう言って、不敵に笑う。


「なるほど……それでエルフというわけか」

「そうです、父上。私はやっとわかりました。もはや誰かに任せたところで、国民からの支持は得られない。私自身が強くなるしかないのです。だからこそ、どんな手を使ってでも私は強くなります」

「いいだろう。やってみせよ、エルフィリオ。これが最後のチャンスになるやもしれぬ。お前が王となるのだ」

「はい、父上。必ずや成功させます」


 エルフィリオは力強く、そう言った。



 ♦︎



「うぅん……ん……?」


 目が覚めた。目の前には、木の天井が広がっている。

 俺は確か……ルークナイトを追って、湖に行って、それで……。


「あっ!」


 思い出した。魔王が復活したんじゃないか。

 そう思って飛び起きたが、俺はすぐさま腕を反対に引っ張られるような抵抗を感じた。よく見ると、手と足に錠がついている。拘束されているのか。


 落ち着け、ここはどこだ? 


 周りを見渡すと、木でできた棚や壁がある。小さな部屋だ。俺はベッドに寝ていたみたいだが……。

 ひとつだけある小窓から見える外の景色は明るい。今は昼のようだ。

 手錠を見てみる。しっかりとしたものだ。力ではちぎれそうにないな。

 そう思っていると、扉が開いた。現れたのはルークナイトだった。


「おや、お目覚めか。少年」

「嫌な目覚めだけどな。起きて最初に見るのがあんたみたいなおっさんだと」

「おいおい。これでも俺は魔王軍1の男前で通ってたんだけどな」

「俺をどうするつもりだ?」

「ふむ……その質問に答えるには説明が必要な事が多い。端的に言うなら、『必要だった』からなんだろうな。正直俺も全てを知ってるわけじゃない」

「よくわからないな。じゃああんたらの目的は?」

「それはもちろん、復讐。残った咎人たちへのな」

「咎人はあんたが全員殺したんじゃないのか」


 俺がそう尋ねると、ルークナイトは拳を握りしめて話し始めた。


「まだ残っている。全ての元凶。最悪の咎人がな」

「誰なんだそれは」

「そいつは今も生きている」

「今も? そんな馬鹿な。400年間も生きるなんて……待て、まさか」

「そうだ。そいつは今や一国の王となっている。名は、エルレイア王。ミセタ王国の王だ」


 エルフ族の王だと。そいつが400年前の戦争に関わっていたなんて聞いた事がないぞ。


「どうなってるんだ? なんでエルフの王が……」

「その話はまた後でするとしよう。とにかく、あんたには俺たちと一緒に行動してもらうぜ。そういえば、まだ少年の名前を聞いてなかったな」

「……フリードだ」

「そうか、フリード。じゃあ手錠は外してやるよ。動きづらいだろうからな。おっと逃げようとしても無駄だぜ? 俺の実力はお前の遥か上だ」


 わかってるさ。こいつには今の俺では到底敵わない。憑依してもダメだったんだから、素じゃ言うまでもない。とりあえず今は言うことに従っておくか。


 手錠を外された俺は、ルークナイトに言われるがまま部屋から出た。家の中は全て木でできていた。大きくはないが住みやすそうないい家だ。そのまま俺は家の外へと出る。

 久々に見た気がする太陽の光に、思わず目が焼かれてしまいそうだ。


「ここはどこなんだ?」

「ラグンは知ってるか?」

「ああ。ミセタ国の西にある小国だろ」

「そうだ。ここはそのラグンの南にあるピリカラルと呼ばれる地域だ」

「ピリカラル?」


 どこかで聞いた事があるような……。


「そうだ。少し前にエルフの第一王子が歴史的な敗北をして撤退戦を強いられた地域だ」

「ああ、なるほど。この家は、あんたらの家か?」

「まぁ、そんな感じだ。さてフリード。お前には俺と一緒に仕事をしてもらうぜ」

「何する気だ。人殺しか?」

「そんな話じゃない。今から俺とお前でミセタ国の情報を探る。エルフ王暗殺のためのな」

「結局そういう系かよ。まぁいい、俺は従うしかないみたいだしな」

「そういうことだ。よくわかってるじゃないか、ならさっさと行くぞ」


 ルークナイトが歩き出す。

 俺はどこか不満ながらも、仕方なくその背中についていくことになった。

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最強な主人公が無自覚のまま冒険するお話です
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