【ロイヤーの失敗⑦】
更新が遅れて申し訳ありません!
少し忙しかったため遅れてしまいました。
ちゃんと更新できるよう頑張ります。
ロイヤー達がレイチェルと共に王都から脱出した後、彼らはミセタ国の地下研究所にいた。
ロイヤー達はまず身体を洗い、新しく服を着て、レイチェル達の話を聞くことにした。
「君たちのことは調べさせて貰いました」
レイチェルは、ロイヤー達に向かってそう言った。
「俺たちにいったい何の用だよ」
ゾックが、睨みを利かせてそう言った。
「おやおや。見ないうちに良い目をするようになりましたね。どんな過酷な環境だったのやら」
「てめえ!」
レイチェルに掴みかかろうとするゾックを、近くにいるロベルトが止める。
「落ち着きなよっ! 大丈夫さ! 君たちなら俺らに協力してくれる!」
「てめえもいったい何もんだ!?」
ロベルトに対してゾックがそう問いかけると、レイチェルが笑みを浮かべて答える。
「彼は、アイデン騎士団の団長ですよ」
「な、何? 馬鹿な。何故騎士団長がレイチェルと一緒に……」
「彼もアイデン国に恨みを持っているって事ですよ。さぁわかったら落ち着いてください」
「……ちっ」
ゾックは、渋々といった様子で椅子に座る。
「話を戻します。今回我々が君たちをわざわざ危険を冒してまで助けたのには理由があります」
「だろうな。じゃなきゃ俺らを助けるメリットがねぇ」
「ええ。単刀直入に言います。僕たちはアイデン国を潰すつもりです。そのために君らが必要です」
「どういうことだ?」
ゾックは釈然とせず訊き返した。
「最初から話しましょう。今、ミセタ国では跡目争いが激化しています」
「跡目? 王のか?」
「はい。エルフの王は病に罹り、あまり体調が良くありません。そのため跡目を誰にするかの論争が勃発しているのです。そこで今、候補として有力なのが二人います。まず一人目は、第一王子エルフィリオ」
エルフィリオは、有名なピリカルラの撤退戦でミセタ国がラグン王国に大敗を喫した際に、ミセタ国の隊を率いていた王子である。
その時に王子達を無傷で逃げ帰らせたのがニヒル隊であり目の前にいるレイチェルがその一人なのだが、ゾック達はそのことを知らない。
「そして二人目が第二王子のエルファバ」
「そんなの普通に考えたら第一王子に継承権があるだろう」
「ええ、そうです。ですがエルフィリオ王子がラグンで敗走しているのに対して、エルファバ王子はラグンで少数にも関わらず勝っているのです」
「あの戦闘に定評があるラグン隊に少数でか!?」
エルファバは、サイダーンと呼ばれる渓谷で3000人を超えるラグンの兵士達に対して500人で挑み、彼らを退却させていた。
「ええ。意図的に情報を閉ざしているので武功はあまり轟いてはいませんがね。それでも噂は人々に広がり彼への支持が増えています」
「何故情報を閉ざすんだ?」
「王が第二王子を王にしたくないからです。彼は『エルフ族と人間は手を取り合って仲良くしていくべき』という考えを持っています。今の排他的なエルフ国の考えとは真逆なのです。だから王や国内の保守的な人々は第一王子を支持する」
「しかし民から受けるカリスマ性は第二王子が優っているってわけか。それで? あんたらはどうしたいんだ?」
ゾックが問いかけると、
「――要は第一王子の手柄を立てたいんだろ?」
それまで黙っていたロイヤーがそう口を開いた。
「国民や王族内部による第二王子の支持を超えて第一王子が逆転するには、第一王子が正当性を持って手柄を立てなにゃならない。そのためにアイデン国を潰そうってか?」
「鋭いですね、ロイヤー君」
「だけどそれは無理だろう。形だけとはいえ同盟を結んでるアイデン国に攻撃したとなったら批判はあれど賞賛などないぞ。そんな事するなら第二王子を暗殺する方が早くないか」
「その通り。もちろん僕たちも暗殺を試しましたが彼の周りの兵士が優秀でしてね、なかなかうまくいかなかったんです。さて、ではここで前回の妖狐を何故僕らが使おうとしたのかを話しましょうか」
レイチェルは笑みを止めずに話を続ける。
「僕らは当初、暗殺を進めていましたがうまくいかなかったので、別のプランを考えました。つまり手柄を立てる方向です。そのために手っ取り早いのは何か? 例えば太古より現れた伝説の妖狐を討伐したらそれは名声に繋がると思いませんか?」
「……なるほど。そういうことか」
「はい。ですが実際にはあの怪物は制御できる代物ではありませんでした。一番シンプルな案だったのですがね。なので僕らは今、次の案に移ろうと思っています。ロイヤー君。人が一番感謝をするのはどんな時だと思います? 君なら、わかるはずです」
レイチェルは、糸のように細めた瞳の奥で、ロイヤーを試すように問いかけた。
ロイヤーは、冷や汗を流し俯きながらも答えた。
「……命の危機、絶望から助けられた時……」
「その通り。さてここでクイズです。最近だと不自然なゴブリンの繁殖、キンジクを採りに行った者達の失踪。もっと遡ればここ数ヶ月の間、アイデン国では至る所で誘拐や失踪事件が相次いでいましたね? それは何故でしょう」
「あんたら……まさか。その為の死霊術師……?」
ロイヤーは、何かに勘付いたかのように驚きの表情をレイチェルに向ける。
「大正解です。僕たちには見た目はアイデン国の住人であるゾンビどもが沢山います。さて、そんな彼らがミセタ国の住民を襲ったらどうなるでしょう」
「そんな事をしたら国民はアイデン国に反感を……」
「そうです。そこを第一王子率いる僕たちが抑えます。そしてその流れで首謀者ってことにするアイデン国王達あたりを始末します。民を救って悪を誅した第一王子は、賞賛されるでしょうね」
「自作自演か……そうかなるほど。普通に考えたら無謀だが、何故かここにはアイデン騎士団の団長がいるからな……」
ロイヤーはそう言ってロベルトのほうを見た。ロベルトはヘラヘラと笑っている。
「この騎士団長は信用できるのか? アイデン国の二重スパイという可能性は?」
ゾックがそう尋ねる。
「それはありません。彼にはアイデン国に深い憎しみがありますから」
「深い憎しみ?」
「後で本人にでもきいてください。それよりやっと本題です。君たちが必要な理由。僕たちがアイデン国に攻めるなら、ロベルトさんの力で騎士団達と高ランク冒険者を抑えれば後は大丈夫だと思っていたのですが……最近厄介な人たちがいる事がわかりましてね。君らの幼馴染ですよ。フリード君です」
その名前が出た瞬間、ロイヤー達の顔つきが変わった。
「フリード、だと?」
「ええ。何故か僕たちと縁があるようでね。厄介な事に力もつけている。ああいう輩はまともに相手すると痛い目にあいます。というかあいました。なので、幼馴染の君達に対応してもらおうと思いまして」
「僕らがフリードの対応だと?」
「ええ。僕らとフリード君が会わないように、君たちで彼らを足止めしてください。任務はそれだけです。彼は情にもろいようですし、君たちなら彼も話を聞くでしょう。可能なら、そこをついて――殺してください」
レイチェルが、ロイヤーに冷え切るような声でそう伝える。
「知っていますよ。君がフリード君を嫌っている事は。そしてそれが、君のお兄さん――」
「――やめろっ!」
レイチェルの言葉を遮るように、息を荒げたロイヤーの声が響き渡る。
「……いいぜ、わかった。僕が、フリードを……殺してやるよ」
ロイヤーがそう答えると、レイチェルは薄気味悪く口元を釣り上げたのだった。




