【幼馴染の秘密】
「マスターにとって、リズっていう人はどんな人?」
家に帰ろうと歩いていると、リンがそう尋ねてきた。
「んー、そうだな。ずっと遊んできた仲のいい幼馴染ってのがしっくりくるかな」
「じゃあ、会うの楽しみ?」
「うーん……それなんだけど、俺が村を追放された時に、もう俺とは会いたくないって言ってたらしいんだよね。まぁロイヤー情報なんだけど。だからちょっと、不安かな」
「そう……安心して。マスターが危険な目にあったら私が守る」
「そりゃ安心だ」
本当に何故このタイミングでリズが来たんだろうか。どんな目的があるのかわからない。
俺はそんな事を考えて、やがて家に着いた。玄関の扉をあけて、中に入る。
「ただいま」
そう言って、リビングへと進んでいくと、確かにそこには知った顔があった。
ピンク色の髪。強気な雰囲気を出しているが、どこかあどけない見た目。リズだった。何も変わってない。
「フリードッ!」
彼女は俺の存在に気づくと、椅子から立ち上がって俺に抱きついてきた。思わず俺も抱きとめる。
「会いたかった……フリード」
リズは目に少し涙を溜めていた。
「本当にリズなのか? なんで今更……」
「なんでってあんたが急に飛び出したりするからじゃないの。心配したんだから」
「リ、リズは俺の事嫌いになったんじゃなかったのか?」
「嫌い? なんであんたの事嫌いになるのよ。今までずっと一緒だったのに」
「いや、だって村から追放されたんだぞ俺。話聞いてるだろ?」
「ああ、『魔物使い』の事ね」
「ああ……って」
なんか軽くないか? 結構重大な事だと思うんだが。
「追放された時ロイヤーが言ってたんだ。リズが俺の事もう見たくないって」
「ロイヤーがそんな事を。けどそれは嘘よ。あの日、私は部屋に閉じ込められていたの。フリードに会うと『力』が目覚めるからって……」
「力?」
「なんでもない、さぁ、戻りましょうフリード」
「戻るって、村へか? 無理だ、俺はもうあの村には帰れない。追放されてるんだから。それに帰る気もない。俺は今が楽しいんだ」
「ふーん……」
リズは辺りを見渡して、意味ありげにそういった。
「フリード。随分魔人が多いのね。これも魔物使いのスキルってやつなのかしら?」
「まぁ、そんなとこだ」
「実は私、村を飛び出してきたの。無断でね」
「おいおい、村長達が心配してるぞ」
「かもね。けどそれより私はあなたへの心配が強かったのよ」
「さっきから心配心配って、何をそんなに心配してるんだ?」
俺がそう尋ねると、リズは不気味な笑みを浮かべた。
「それは勿論……フリードの貞操よ」
「な、何? て、貞操?」
ちょっと待て、こいつ何をいってるんだ? いきなり意味がわからないぞ。
「小さい頃から、あなたが美味しく育つのをずっと待っていたのに……こんなぽっと出の魔人なんかに奪われたりしたら嫌だもの」
「ま、待ってくれリズ。なんの話をしてるんだお前は」
「フリード。お主気づかんのか? こやつ、人間ではないぞ。魔人じゃ」
「何っ!?」
ホムラの言葉に俺は衝撃が隠せなかった。リズが人間じゃない? ていうことは、目の前にいるこいつは偽物ってことか?
「あら。狐のお嬢さんは結構目が効くのね」
「お前リズに化けてるのか!? リズをどこにやった!」
「ん? 違うわよフリード。私はリズ。ただあなたの知るリズは元から人間じゃなかったってこと」
「リズが、元から魔人だった……?」
そんな事ありえるのか? ずっと一緒に育ってきたリズが魔人?
「私も、元々は力が目覚めてなかったから、それが目覚めるのを待つしかなかったの」
「じゃあお前は……」
「そうよ、見せてあげるわ。これが……私の本当の姿!」
リズが力を込めると、彼女の周りに黒い霧のようなものが渦を巻いた。それは彼女を包み込み、そして収束した時にそこにいたのは、俺が知っているリズじゃなかった。
ピンクの髪はそのままに、黒いツノが頭から、背中からは黒い翼が、そして尻からは先端がハート型の尻尾が生えていた。
「ほ、本当に、魔人なのか……」
「そうよ。私は、サキュバスのリズ」
サキュバス。確か、夢なんかに現れてそいつの精を貪っていく魔人だったか。
「最近やっと力が目覚めてね。変身できるようになったの」
「なんで俺に、黙ってたんだ」
「だって嫌われたくないもの。だから私が、魔物の話をいっぱい聞かせて、徐々に魔族への耐性をつけさせたんじゃない」
「ま、魔物の話ってそういう事だったのかよ!」
「そうよ? まぁそのせいで、こんなに沢山の魔人とよろしくやっちゃってるみたいだけどー」
リズは恨めしそうにあたりの魔人を眺めてそういった。
「お前の目的は、なんなんだ? 何故俺に嫌われたくなかったんだ」
「単純な話よ。私は小さい頃にあんたが途轍もない才能があるって見抜いたの。魔物に関してのね。そんなの、絶対美味しいじゃない。だから好きになったの、あんたのことが」
全然ロマンチックじゃない告白をされた気がしたんだが。けど当の本人は、顔を赤らめてニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。興奮しているようだ。
「私が力に目覚めたら、すぐにあんたの精を頂くって決めてたわ。そして、あの村で一生私と肉欲に溺れた日々を過ごす。そう決めてたのに……」
「お、俺が追放されたからか」
「そう。だから私は絶望したわ。すぐに追いかけようと思ったけど、私の力に気づいてたお義父さん達は、私を家から出さなかった」
「なるほど……」
村長たちは、知ってたのか。リズは孤児だったはずだけど……。
「けど今私はここにいる。さぁフリード、私と汁という汁を出し尽くす濃厚な一夜を過ごしましょう。ふふ、安心して、私は初めてだけど、母から受け継いだ技術は身についているわ」
ジリジリと、リズが俺の方へと近づいてくる。背はそんなに高くないのに、何故か迫力がある。
そう思っていると、リンが俺の前に出てきて剣を構えた。
「マスターに、近づくな」
「あら、なぁに? スライムか。スライムはいくら激しくしても壊れないから奴隷商からはとても人気があるって聞いたわ。あなたはそういうプレイ好きなの?」
「意味のわからないことを」
「意味がわからないわけないじゃない。フリードは魔物使いなのよ? 魔族なら彼から放たれてる甘美な匂いに気づいてるでしょ? 何もしていなくても身体が疼いてしまう甘美な匂いだわ」
「そ、そんなの……知らない」
「可愛い嘘ね」
なんだ? 甘美な匂い? 俺そんな匂いしてんのか。なんだそれ。
隣にいるホムラに聞いてみよう。
「俺そんな匂いしてる?」
「まぁの。妾達なら誰でも好きな匂いじゃ。まぁ妾はお主のような餓鬼には興奮せんがの……な、なんじゃその目は。本当じゃぞ? 本当じゃからな!」
どうやら本当らしい。まぁとにかくこのままだと家で破壊活動が行われそうだし止めよう。
「まぁ、待て。リンも剣を下げて」
「マスターが、そう言うなら」
「どうしたのフリード。私を受け入れる気になった?」
「リズ。お前の要求にこの場で答える事は出来ない。けどそれじゃお前は納得しないだろう。だから間をとって、お前もこの家に住んだら?」
「マ、マスター。それは……」
「うーん、そうね……まぁ、それなら後々私に溺れさせればいいか。よし、わかった。いいわよ!」
何やら納得した様子だ。よし、これでこの場は収まったな。先のことはわからんけど、まぁなんとかなるだろ。
「マスター、この女は危険」
「大丈夫だよ。性格は昔のリズのままだし」
「ええ、私は安全よ? けど、油断してると――」
「えっ」
リズがその場から素早く動くと、俺の目の前にきて、唇付けを交わしてきた。
あまりの早業に何も抵抗できなかった。それに気づいたリンがリズを引き剥がすまでその口づけは続いた。
リズは、恍惚とした表情で唇をなぞった。
「あぁ……美味しい。そうそう、油断してると、こういうことするけどね」
「マスター、やっぱり危険」
うーん、確かに危険かもしれない。




