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【狐娘と羊娘】


「リズ、リズや? ご飯ができたよ」


 ある老婆が、部屋の扉をあけてそう言ったが、部屋の中には誰もいなかった。


「リズ? まさか!」


 老婆は部屋の窓を確認すると、窓に付けられていた柵が壊されて、脱出した後が残されている。


「……あぁ、大変だ。リズが出て行っちまった! 爺さん!」


 老婆は、すぐに部屋から出ると、庭で野菜を育てていた老人へと報告した。そう、彼らはフリードが住んでいたハマラという村の村長夫妻。リズの義理の両親である。

 事情を聞いた村長は、顔を青くする。


「な、何? いったいどうやって! 窓には柵を付けていたじゃないか」

「窓の柵はねじ切れていたわ……たぶんフリード君に会いに行ったのよ」

「ま、まさかリズの奴遂に『力』に目覚めたのか……! 今のあいつがフリードなんかに会ったら大変な事になるぞ……!」


 村長は声を震わせてそう呟いたのだった。


 ♦︎



「なんじゃと? 貴様、魔物使いの癖に『憑依』もできんのか?」


 ある日の昼。リビングでゆったりとしているとホムラがそう言ってきた。


「憑依ってなんだよ」


 なんだその怪しげなワードは。


「貴様、鑑定を受けておらんのか。自分のスキルの把握は基本じゃぞ」

「鑑定はギルドで出来るし俺だってそうしたいけどさ、魔物使いってバレると色々面倒なんだよ。絶対俺拘束されるぜ?」


 俺も自分の能力は把握したいと思っていたけどギルドで鑑定したら俺のスキルがバレる。リールラとヴィーナスにはバレちゃったけど隠してもらってる状態だ。


「そんな事してきたら殺してしまえばいいじゃろ」

「そんな事したら余計問題になるわ。で、憑依ってなんだよ?」

「魔物使いの真に恐るべきスキルが『憑依』じゃ。自らしもべにした魔人の能力を、文字通り自らに憑依させる事ができる。例えばあのスライム娘の力を憑依させれば貴様は一時的にスライムの魔人となり、その力を得るじゃろう」

「えっ、それ凄くないか? 要は仲間にした魔人の力をコピーできるって事だろ?」

「一時的にじゃがの。しかしそのスキルが貴様に備わっているかはわからん。恐らく実力不足で使えんじゃろ」


 ふーん、とりあえずやってみようかな。


「憑依」


 唱えてみたけど何も変化は起きなかった。


「駄目みたいだな」

「まぁ何か条件があるやもしれぬし、鑑定を受けん事にはわからんのう」

「でも鑑定は出来ないしなぁ」

「なら鑑定を持つ魔物を捕まえればよかろう」


 ホムラの言葉に俺は感心した。

 た、確かにその手があったか。


「でもそんな魔物いるのか? ていうかわからなくないか」

「鑑定を使えるものは限られておる。『目』に力を持つ奴らじゃ。ここらじゃと……サイクロプスかのう」


 サイクロプス。1つ目の魔物か。見た目の怖さと相反して凄く優しい種族なんだよな。確か巨人だと聞いたけど、ここら辺にいるのか?


「どこにいるんだ?」

「北のボーグ山を越えたあたりにサイクロプスは生息しとるはずじゃ」


 ボーグ山か。まぁそこまで大した距離でもないな。俺もテンネ達の力に頼ってばかりだしな。自分の力を知るためにも鑑定は必要か。


「よし、行ってみるかな」

「妾も行くぞ。退屈してたところじゃ」

「わかった」


 さて、あと誰を連れて行こうか。テンネはなんか散歩がしたい気分とか言って一人でどっか出かけて行ったしな。リンは読書に集中してるし……サイド達は昼は動けないしな。後暇そうなのは――


「おい、ノン。いつまで寝てんだ、出かけるぞ」


 ノンは案の定部屋のベッドで気持ちよさそうに寝ていた。


「うーんご主人? むにゃむにゃ……あと300分」

「いや300分は長いだろ。ほら行くぞ――ってうぉっ?」


 ノンの腕を引っ張って起こそうとしたら、ノンに逆に引っ張られてひきづりこまれてしまった。俺はノンの胸に突っ込む形となり、シープ独特の柔い毛に包まれることとなった。


「もぉ、ご主人、寝てる時のノンを狙うなんてぇ……えっちだねぇ」


 ノンは少し頬を赤らめて、おもむろに手を広げると、俺の頭を包み込むようにして抱きしめてきた。豊かなノンの胸の谷間に俺の頭が埋もれた。

 ま、まずい凄い気持ちいい。


「お、お前な……話を聞け」

「ふふ。ご主人〜、ノンと一緒に寝ようよぉ」


 駄目だ駄目だ、この雰囲気に飲まれると話が進まなくなる。

 俺はなんとかノンを引き剥がした。


「ほら、行くぞノン」

「うぅん、めんどくさぁい。わかったよぉ」


 ノンをベッドから引っ張りあげて、準備をさせるように言った後、俺も自分の準備をした。


「ホムラは準備しなくていいのか」


 ホムラは鳥人ハーピーの服屋で買ったワンピースの服を着ているだけだった。


「妾に準備などいらぬ。それより貴様、妾の名前を呼び捨てにするなど不敬じゃぞ」

「よし、準備できた。ほらホムラ、行くぞ」

「人の話を聞けっ、おい、フリード!」


 お、ホムラが俺の名前を呼んでくれたな、とか思いつつ、ノンがまた寝ようとしていたのを叩き起こして俺たちは家を出た。


 馬車に乗ってボーグ山を越えて、サイクロプスが出るらしい森をうろうろしてみた。


「ていうかここの森の木でかくね?」


 木が普通の木の二倍近い高さがある。


「まぁこのくらいの高さがないとサイクロプスは隠れられんからのう」


 ホムラの言う通り、確かにでかいサイクロプスならこれくらいの木がないと目立って仕方ないか。


「あの木の上とか気持ちよく寝れそうだねぇ」


 ノンは木を見上げてそんなことを言った。こいつは寝ることしか考えてないのか。

 そんな事を考えながら、森の中を歩いていると、何かを殴打するような音が聞こえたので、木に隠れて様子を伺ってみた。


「サイクロプスじゃねえか」

「おっきいねえ」


 そう、そこには緑色の肌を持つ単眼の巨人が4体いた。何をしているのかと見ていると、一体のサイクロプスが地面にうずくまるようにして四つん這いになっていて、後のサイクロプスがそいつを蹴っていた。


「サイクロプスのいじめ?」

「じゃろうな。魔物間でもはぐれ者は出る。しかしサイクロプスはあまり攻撃的な種族じゃないはずじゃがの」


 しばらく蹴り続けて満足したのか、蹴っていたサイクロプス達はどこかへと去っていった。

 すると、蹴られていたサイクロプスが起き上がる。すると奴がさっきまでいた場所に、猪がいた。サイクロプスはその猪の頭を楽しそうに撫でていた。


「何しとるんじゃあいつは」

「猪を助けた? よくわかんないな」

「猪は奴らの好物のはずじゃが」

「好物? じゃあ今から食べるんじゃないか?」


 そう思って見続けてみたが、サイクロプスは何をするでもなく猪がどこかへ逃げて行くのを見送っていた。


「食わなかったのう」

「変わり者だねぇ。ノンなら食べたのに」

「変わり者の、サイクロプスか」

「面白い。フリード、あやつを魔人化せい」

「え、なんで?」


 ホムラが急にそう言ってきたので、俺は思わず訊き返した。


「どうせ仲間にするなら変な奴の方が面白いじゃろ」

「そんな理由かよ! まぁでも……少し交渉してみるか。話通じるかわからんけど」


 俺は木から飛び出して、サイクロプスの方へと歩き出した。俺が地面にある木の枝を踏んだ音で、サイクロプスは俺の存在に気づいて俺の方を見てきた。

 単眼の目と俺の目があった。凄い目力だな。すると魔物は、背を向けて逃げ出してしまった。


「えっ、ちょ、待て! おーい! 魔人に興味ないかー!」


 俺達は声を出しながら魔物を追いかけることになった。なんだこの状況。

 だが途中で見失ってしまった。図体の割には以外に速かった。


「はぁ、はぁ……くそ、どこいった」

「情けないのうフリード。この程度で息をあげるとは」

「お前それ、俺の背中から降りてから言え!」

「うるさいのう」


 ホムラは途中で「疲れた」とか言い始めて、俺の背中におぶさり始めたのだ。仕方ないからこいつをおぶりながら探してたら見失ったのだ。そこから小一時間ほど歩き回った。


「あ、ご主人〜あれみてぇ」

「ん?」


 ノンが指差した方には、山と森の中間のようなひらけた場所だった。そしてそこにサイクロプス達が三体いる。


「サイクロプス達の集会所か……」


 サイクロプス達が何かを喋っているみたいだ。そして何かを決心したかのように雄叫びをあげると、どこかに向かっていく。俺はそれについていった。


 そして彼らが着いた先には、数十匹の猪の群れとそれと戯れる一体のサイクロプスの姿があった。


 そして驚くいじめられっ子サイクロプスを放って、他のサイクロプス達は棍棒を持って猪達に襲いかかったのだった。

 いじめられっ子は必死に猪達を庇おうとしているが、多勢に無勢。猪達は無残に殴られていく。


「おいフリード」


 ホムラが背中越しに話しかけてくる。

 ああ、わかってる。これはチャンスだ。なんだかわからないがあのサイクロプスは猪を庇ってる。ここで恩を売っておくといい交渉材料になるだろう。


「助けよう」


 俺はそう言って、サイクロプス達の前に繰り出したのだった。

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最強な主人公が無自覚のまま冒険するお話です
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