【迷宮と姫③】
それから数日が経った朝、俺たちはリビングでくつろいでいた。
そういえば、ノンの能力を見てなかったけど、どんな感じなんだろ。見てみるか。
「鑑定」
すると青い炎の板が現れる。
♦︎
名:ノン
種族:スリープシープ→亜羊人
体力:B
魔力:C
攻撃力:S
守備力:A
知力:D
精神力:C
器用さ:C
俊敏性:E
運:A
信頼度:A
スキル
『眠り姫』『呑気』『アイス』
♦︎
凄い偏ったステータスだな。物理攻撃タイプか。その割にはスピードがないけど。
さて、スキルの方は……。
『眠り姫』
睡眠をとることで体力魔力を高める。一定量の魔力を超えると覚醒する。
『呑気』
幻覚系スキルに耐性を持つ。
『アイス』
氷属性スキル。目標地点から氷の刃を出現させる。
え!? ノン氷属性のスキル使えんの!? 雪国育ちの魔物でもないのに?
氷属性スキルは割とレアだったはずだが。
「ノン、お前氷属性のスキル使えるみたいだぞ。知ってた?」
「氷ぃ? そうなんだぁ。冷たそうだねぇ」
知らなかったようだ。
「次のクエストで使ってみようぜ」
「わかったぁ」
そんな会話をしつつ俺たちはギルドに赴いた。ちなみにレモンとサイドはお留守番だ。
「うーん、なんかいいのないかなぁ」
クエストの張っている掲示板を見ていると、リンが俺の裾を掴んできた。
「マスター、マスター、これ」
「ん? これは……」
リンに見せられたクエストの内容はこう書いてあった。
♦︎
依頼主:ガンク
依頼内容:王都にある地下ダンジョン20階層付近に出没するスピードマウスの素材が欲しい。討伐は1匹で十分だ。すばしこい奴だから気をつけろよ。
報酬:うちの装備品1つ
♦︎
「ガンクっていうと、もしかしてあのドワーフの武器屋のガンクさんか?」
「そう思う。下に書いてある依頼主住所も一致する」
「なるほど、これは受けてみたいな。よし、これにするか」
そう思い、俺は依頼書をそこから剥がし受付まで持っていった。受付はエリナさんだ。
「あらフリードさん。クエストを受けるんですね。これは……ダンジョンクエストですか」
「ええ、少し深い階層も潜ってみたいと思っていたので、いい機会だと思って」
「そうですね! 20階層ですか……少し不安もありますが……深くまで行かなければフリードさん達なら恐らく大丈夫でしょう。ただ、ダンジョン攻略となると1つ注意点があります」
「注意点?」
「ええ、実は今日の夜から明日にかけてダンジョンの一時的閉鎖が行われます。なので今日は日が暮れるまでには戻ってきてください」
ダンジョンの一時的閉鎖? そんなことあるのか。
「なんのためにそんな事するんです?」
「国の調査団によるダンジョンの定期的な点検ですね」
「なるほど、じゃあ早めに帰って来るようにします」
「はい、そうしてください。閉鎖する前にはダンジョン内にも調査団の人達が行くので、その人達に案内されたらちゃんと帰ってくださいね。仮に残ったりしてると処罰対象になってしまうので」
「わかりました」
「では、討伐対象のスピードマウスについての情報をお伝えします。スピードマウスは名の通りとても素早い魔物で、強敵ではないですが討伐がしづらいです。主に20階層付近に出没しますが、気づかれるとすぐ逃げてしまうので逃げられない状況を作るのがいいと思います」
エリナさんはスピードマウスの絵を見せながらそう説明してくれた。
「わかりました。頑張ります」
「はい、いってらっしゃいませ」
俺たちはギルドを出て、そのまま王都の中心にあるダンジョンへと潜っていった。まぁそこそこ戦闘にも慣れてきていた俺たちは特に苦労することも無く地下10階を突破した。
そこからは少し魔物が強くなり始め、厄介だったがなんとか倒して潜っていく。
「ねぇご主人。ダンジョンって、どうやって魔物が生まれてくるのぉ?」
ノンがそう訊いてきた。
「うーん、今の所わかってるのはこのダンジョン内にある壁から時々新しい魔物が出現するってことかな。この壁、やけに多くの魔素を含んでるらしくて、そこが関係してるんじゃないかと言われてるけど、まだまだダンジョンには謎が多いからなぁ」
「ふぅん。難しいんだねぇ」
「リンはダンジョン出身だろ? その辺何かわからないのか?」
リンに尋ねると、彼女は顎に手を当て少し考え始めた。
「正直、魔物の時の記憶は酷く曖昧。あまり自我というものがなかった。ただ、獲物を捕食して、より多くの魔力を手に入れようとはしてた、と思う」
「なるほど。リンも生まれた時は壁から?」
「覚えていない。気づいたらここにいた」
スライムは知能が低いとは聞いていたから魔物の時の記憶はなくても仕方ないのかな。そんな事を思いつつさらに下へと潜っていくと、地下19階まで達した。
「そろそろ、スピードマウスが出てもおかしくないな」
「にゃっ、フリード、あれ!」
テンネが指をさした方向には体長50センチほどの翼の生えた白いネズミがいた。スピードマウスだ。
「あっ、逃げたぞフリード!」
俺たちの気配に気づいたのか、スピードマウスは一目散に逃げ始めた。まずい、見失う。
「追うぞ!」
「わかったにゃ」
その後物凄い速さで逃げたスピードマウスを追ったが、結局俺たちは途中で見失ってしまった。そして再び見つけるまでに1時間以上かかってしまった。
「や、やっと見つけたぜ」
俺は声を潜めてそう言った。ここまで出現率が低いとは。俺は壁に身を潜めている。
「よし、テンネ。手筈通りに」
「わかったにゃ」
そう、俺はスピードマウスを探している間に対策を立てた。まぁ対策というほど大したものじゃないが、要はテンネの『黒き影』のスキルを使おうということだ。
「黒き影」
黒き影は暗い場所での視認度、感知度を下げるスキル。恐らくこのダンジョン内であればテンネに適用されるはずだ。
実際、スキルを発動した途端テンネの存在がどこか希薄になって、そこにいるようないないようなそんな感じがする。
「じゃ、頼んだ」
「任せるのだ」
テンネは足音を消してスピードマウスの元へと近づくと、全く気づかれることなくスピードマウスの喉元に剣を突き立てた。
スピードマウスはそのまま事切れて、俺たちはそれを確認するとテンネの元へと近づいた。
「やったにゃ」
「よくやった」
「さて、帰る時間も考えるとそろそろ戻らないとまずいな。さっきから戻ってる冒険者もよく見るし、俺たちも戻ろう」
結局テンネのおかげとはいえ歩き疲れた。そう思って横にあった壁に手をつけた瞬間だった。
「うわぁああああ」
カチッという音と共に壁が奥に凹んだ。そしてそのまま俺たちの立つ地面が崩れていき、俺たちは無残にも落下していくのだった。
「いてっ」
そのまま尻餅をついて恐らく1つ下の階に落とされた俺たちは出口らしきものがない謎の閉鎖空間に閉じ込められてしまった。
「や、やべー。どうしよう……」




