呑まれそうだった...
「はぁ...はぁ...」
私は滝のように汗を流しながら息を整えていた...。
ずっと青天だったはずの平原には、まるで大雨でも降った後の様に一部分だけが濡れている...。
大きく息を吸いながら私は小さく呟く。
「危なかった...、あいつ...私の意識と体を少しの間だけとはいえ奪っていた...」
名前も知らない声の主に恐怖を覚える私。
(...あいつの力は強力だけどあまり使わない方が良さそうね)
【砂鉄水】を使う度に奴の鼓動が胸の奥から胎動しているのがわかる。
私と言う体を媒体に何か大きな力が出てこようとしている感じがするのだ。
しかし、今回は別に奴の力を使おうとしたわけではないはずなのに出てきたのは謎だ。
(...隙さえあれば私の肉体を奪おうってことかしら?)
今考えても答えは出ない。
私が馬車の方に向き直ると、まだ豆粒程の大きさの馬車が見えたので思いっきり走りはじめた。
悪いけど盗賊の死体を埋葬してあげるほど私は暇じゃない。
無様に転がる奴らの死骸を眺めながらもこの場を去る。
私達を殺そうとしたのだからあいつらも殺される覚悟を持っていたはずだ。
もとより今はそう言う時代だと知っている。
平和な村や町もあるが、大陸の中央に近づけば近づくほど小規模の紛争みたいな小競り合いが多発しているらしい。
それに乗じてこう言う盗賊も活動しているのだとトミーおじさんから習ったのを思い出す。
(...まあ私には関係のない話だ)
そう思っていると、ようやく馬車に追いついた私は勢いよく飛び乗るのでした。




