フィアナ、あっさりと事件を解決する
「そ、そんな馬鹿な。致死量の3億倍の劇物だぞ……」
あんぐりと口を空けるシリウスに、
「もっと真剣にやって下さい! こんなのが最終試験じゃ、肩透かしです!」
「は? おまえは、いったい何を……」
「まだありますよね? それともこっちから行っていいですか? いわばこれは試験の最終編――もっと、ワクワクするような模擬戦をしましょう!」
「ヒィィィィ!」
私が笑顔で近づくと、シリウスは怯えた様子で後ずさります。
「奥の手、ないんですか?」
「いや、その――」
「何もないなら、次は、こちらから行きますけど――」
「ヒィィィィ! く、来るな――バケモノめぇ!」
「あ、その盤外戦術はもう知ってます」
ちなみに、最初に使ってきたのはマティさんです。
失礼な人たちですね!!
飛んでくる血塗れナイフは、もう避ける必要すら感じません。
拳と足を強化魔法で固め、ナイフを無造作に殴り返します。
そのまま弾き飛ばしてしまうのが、対処法として1番手っ取り早いのです。
そうして私が、マルコスの目の前に立つと、
「ヒィィィィ! こんなのは、悪い夢だぁぁぁぁ――」
そう悲鳴をあげながら、マルコスはパタンと気絶してしまいました。
(う~ん、これで良かったのでしょうか――)
困惑しつつも、私はとりあえずマルコスを縄で縛り上げます。
これで知っている情報では、テロ騒動のリーダーを、無事取り押さえたことになるはずです。
実技演習は、これで合格といったところでしょうか。
「あ、そうだ。魔法陣壊さないと」
部屋の一角で、存在感を主張するように禍々しく輝く魔法陣。
もはや残った1つだけでは、ほとんど効果を発揮していないようですが、
「えいやっ!」
右ストレートで、魔法陣を物理破壊。
そうしてついに、完全に魔封じの結界の効果が解かれたのを実感し、
「これで、試験も終わりですかねえ」
私は、のんびりとそう呟くのでした。
【アレシアナサイド】
黒衣の少女――アレシアナは、目の前の事態にため息をついた。
スカーレットムーンという犯罪ギルドに所属するテロリストたちは、人質を巡って醜い言い争いを繰り返していたのだ。
何せここエリュシアン学園は、大陸中から優秀な学生を集めた学校なのだ。
一致団結して反乱を起こされれば不利――見せしめに何人か殺しておくべきというのが、過激派による主張であった。
「何度も言わせないで。人質は、生かしておくからこそ意味があるの」
アレシアナは、そう主張し続けていた。
「だがよう。この人数、ちょっぴり面倒じゃねえか?」
「ああ、まったくだ。少しぐらい減っても、人質として問題ないんじゃねえか?」
「……あの方の意向に逆らうつもりなの?」
冷たい声で詰め寄るアレシアナ。
そのやり取りは、アレシアナが忠実なシリウスの部下を演じるために必要な演技だ。
同時に、目の前で人死にを見たくないという彼女の優しさの現れでもあった。
セシリアたちが行動を起こそうとしたときに、アレシアナが割って入った理由――あれは何も妨害が目的ではない。
セシリアたちの身の安全を確保するための最善の行動だと思ったから、多少無理にでも割って入ったのだ。
魔法が使えないセシリアたちが、武装した犯罪ギルド2人と正面衝突した場合、勝負は良くて五分五分――悪ければ、こちらが殺されていた可能性もあった。
だからアレシアナは、あそこで正体を明かして、監視していたテロリストたちを排除したのである。
その後、アレシアナは、犯罪ギルドのメンバーに対して教室を制圧するときに仲間を失ったと嘘の説明をしている。
「さてと、どうなることか……。お手並み拝見と行きましょうか」
フィアナに届けるようお願いした魔法陣の設計書――あれはシリウスの部屋にあった極秘の資料である。
警戒心が深かったシリウスは、結界の設計書にも暗号をかけており、ついぞアレシアナにその暗号を解くことは出来なかったのだが、
「面白いもの、見せてちょうだいな」
そう呟くアレシアナの瞳は、純粋な好奇心に煌めいていたのであった。
それから数十分後が経った頃。
「おい、どういうことだ!?」
「マナが――魔法が、使えるようになってるぞ!」
体育館の中が、にわかに騒がしくなった。
その原因は明らかであった――フィアナたちが、見事に魔封じの結界を解除したのだ。
とはいえ体育館の中には、数十人の武装したテロリストが未だに占拠している。生徒たちは、行動を決めあぐねていた。
その瞬間を見計らったように、アレシアナは動き出す。
「皆さん、魔法が戻りました。今こそ反撃の時です!」
「なっ、てめぇ!?」
「何も恐れることはありません。人数は、圧倒的にこちらが上――武器を手に取り、今こそ奪われたエリシュアンの誇りを取り戻すのです!」
高らかに声をあげたアレシアナ。
ぱっと見れば、それはただの仲間割れ――大抵の生徒たちは、あ然とアレシアナを見つめるだけであった。
そんな中、特進クラスのクラスメイトだけは、
「今ですわ!」
「よくもこれまで、私たちの学校で好き勝手してくれましたわね!」
いち早く武器を手に取り、テロリストたちに立ち向かった。
それはアレシアナが、2重スパイ――実は味方だと知っていたからであるし、何よりフィアナたちの勇姿をその目で見ていたからというのも大きかった。
「なんだ、おまえたちは!」
「怯むな! 敵は、所詮は学生――うわぁ!?」
アレシアナは影を操り、次々とテロリストたちを武装解除していく。
姿を隠し、死角から敵を速やかに排除する――それは影とともに生きるアレシアナにとって、もっとも得意とするところであった。
「さてと、潮時ですかね」
次々と蜂起するエリシュアンの生徒たち。
1度、生まれた流れを止めることは、いかに手練れの犯罪ギルドであっても不可能であり、
「良いものが見れました」
アレシアナはそう呟き、密かに体育館から離脱。
――そのまま闇の中に、ひっそりと姿をくらませたのであった。





