フィアナ、合流する
「なっ、おまえ!? 何のつもりだ!?」
「見ての通り。私だって、いつまでもただの駒でいるつもりはない――生徒が、クラスメイトを守ろうとするのは当然でしょう」
アレシアナは、テロリストの男をまたたく間に縛り上げていく。
その動きには一切の躊躇がなく――セシリアは、ただ呆気に取られまま一連の戦いを見ていることしか出来なかった。
「あ……、あなたは結局、味方なんですの? それとも敵、なんですの?」
2人の男を縛り上げたアレシアナを見て、セシリアは呆然と尋ねる。
思惑も何もない。
反射的に出てしまった疑問だった。
目まぐるしく変わる事態に、理解が追いつかないのだ。
「面白い質問ね」
アレシアナは、冷たい瞳でセシリアを射抜くと、
「敵か味方か、なら――間違いなく敵、でしょうね。穏やかな光の中で、平和にのうのうと生きるお貴族様――ええ、あなたのことは死ぬほど嫌い」
そう吐き捨てる。
「それなら、何でこんなことを?」
「…………さあね。気の迷い、なのかしらね」
アレシアナは、そう首を傾げる。
その表情は、本気で自分のしたことを不思議がっているようにも見え、
「今回の事件の黒幕は、シリウス教頭。あいつがテロ組織と手を組んで、学園を占拠しようとしてるのよ」
「なっ!? そんなことが――」
「考えてもごらんなさい。警備の目が行き届いてるエリシュアン学園に、テロリストがそう簡単に入れる訳がないでしょう。手引きした人が――それも警備を動かせるレベルの偉い人が、裏から糸を引いてるってことよ」
そう説明する間も、アレシアナはせっせと覆面男を拘束していく。
普段のおっとりした様子から、まったく想像できないアレシアナの姿。
その様子を見ながら、セシリアの頭はようやく状況を受け入れつつあった。
「つまりあなたは、黒幕に脅されてテロリストたちに手を貸すはずだった。……けれども裏切って、私たちに手を貸してくれている。そういうことですの?」
「助けたって訳じゃないわ――たまたまタイミングが一致しただけ。私も、利用されてばかり居られないから」
アレシアナは、そう言いながらセシリアに向き直り、
「だからセシリアさん。あなたたちは、フィアナさんを助けに行ってあげて――こっちは私の方で、良い感じにしておくから」
「信じて……、良いんですのね?」
「――別に、信じる必要はないわ。それでも私の今の状況を考えれば、ここであなたたちを裏切るメリットがない、ということは分かるはずよ」
「いいえ、信じることにしますわ」
――損得勘定で動くことほどつまらないことはない。
そうワタクシの大切なお友だちが、教えてくれましたからね。
じっとアレシアナの目を覗き込み、そう告げるセシリア。
その真っすぐの瞳を受け、アレシアナは居心地悪そうに身じろぎしていたが、
「好きにすればいいわ」
そう吐き捨てるように呟くのだった。
「そうだ、フィアナさんにこれを渡してちょうだい」
「これ、なんですの?」
「きっと役に立つものだから。お願いね」
アレシアナは、走り出しかけたセシリアに紙切れを渡す。
一見、白紙の魔力が込められた紙であり、
「確かに渡してちょうだいね」
「はいですわ、たしかに承りましたわ!」
セシリアは、そう真面目な顔で返答。
そうしてセシリアとエリンは、とある魔導具を取り出した。
王都で贈り合ってから、肌見放さず身に着けていた位置把握のための魔導具であり、
「やっぱり、まだ教室にいるみたいですわね!」
魔導具から溢れるマナは、ぼんやりと教室の方を指しており、
「フィアナさん、待っていて下さいまし! ワタクシが、必ずや助けに向かいますわ!」
「今度は、私が恩を返す番です……!」
2人は、教室に向かって走り出す。
「やれやれ、眩しい友情だこと。本当に憎らしいくらい――あの規格外の子が、大人しく助けを待ってるとは思えないけど」
そんな2人を、アレシアナはいつものようにじとーっとした目で見送るのだった。
そうして2人は、やがて教室にたどり着く。
そこで2人が見たものは、
「あれ? お2人は、どうしてここに?」
目を回して気絶しているテロリスト2人を、ぐるんぐるんに縛り上げたフィアナの姿。
何が楽しいのか、こんな時ですらフィアナは目をキラキラさせており、
「それでこそ、フィアナさんですわね……」
そうセシリアは、ため息をつくのだった。
【フィアナサイド】
「えぇえぇぇぇええ!?」
私――フィアナは、セシリアさんたちから驚愕の事実を聞くことになりました。
曰く、この事件はシリウス教頭の仕業であるとか。
曰く、エレナ学園長の不在を狙って起こされた計画的な犯行。
曰く、アレシアナさんも共犯者だったが、土壇場で裏切り、私たちの味方として行動してくれているだとか。
(……って、設定の実技試験ですかね!?)
あまりにぶっ飛んだ話を聞き、私はそう脳内で変換します。
まさか平和の象徴で、王都の中心にある大きな学園が本物のテロリストによって占拠されかかっているなんて状況――あり得る筈ありませんからね!
そんな訳で、私は今後の行動を話し合うことにします。
「学園の中で、ワタクシたちは魔法を封じられてしまっています。この魔封じの結界が、非常に厄介でして……」
「そうですね。私も支援魔法を試しましたが、何も発動しませんでした」
「ワタクシもお手上げでしたわ」
降参するように、ばんざーいと手をあげるセシリアさん。
(なるほど、随分と本格的ですね)
生徒によるテストのストライキかと思いきや、実はシリウス教頭によるサプライズ演習だったという新事実。
この面倒な状況も、実技試験の一環だとすればしっくりきます。
さしずめアレシアナさんがテロリスト役として参加しているのは、成績上位者として試験官側に抜擢されたからでしょうか。
さしあたって今、考えるべきは、
「魔封じの結界。厄介ですね――どうにかして破れないでしょうか」
ずばり、学校に貼られた魔封じの結界の解除方法でしょう。
結界の中でも、魔導具は使えるそうです。
それは魔法が使えない私たちをよそに、向こうは一方的に魔導具で攻撃できる状態。
まずはこの結界を解除することが、与えられた試験だと考えるべきでしょう。
「そういえばアレシアナさんは、なんで魔法が発動できたのでしょうね」
「特定の属性だけは、影響を受けないんじゃないでしょうか。闇魔法はアレシアナさんの十八番――闇属性の魔法だけは、結界の影響は受けないと考えるべきですね」
「学園の中に、アレシアナさん以外の闇魔法の使い手は――」
「残念ながらゼロ。1人もいませんわ」
「駄目じゃないですか……」
私は、むむむと眉をひそめます。
今、唯一、拘束されていない私たちが出来る事、
「私たちで、なんとかして魔封じの結界を解除したいですね」
「そうですわね……、口で言うのは簡単ですが――」
学園全体を覆うような大規模な結界です。
それを無力化するには、それを生み出している魔法陣を破壊する必要があります。
相手もその特性を分かっており、当然、その魔法陣は巧妙に隠されているはずで、
「そういえば、アレシアナさんから渡されていたものがありましたわね」
その時、セシリアさんがとある紙を取り出しました。
一見、白紙の紙でしたが、
「これ……、魔術式の暗号ですね!」
特定の波形のマナを通すことで、真の姿を現す魔導具の1種です。
悪戦苦闘すること5分。
四苦八苦しながらマナを流し込み続けたところ、白い紙が光を放ち、やがて地図が空中に描き出されました。
それは学園の地図と、魔法陣のペアであり、
「これ、魔封じの結界の設計書ですね!」
「本当ですの!?」
「ええ。教頭先生の部屋と、旧校舎、それと学食に魔法陣が仕掛けられています。3箇所すべての魔法陣を破壊すれば、この結界は止まると思います!」
私は、そう断言します。
「それじゃあ、早速、全員で向かいましょう!」
「いいえ、事態は一刻を争いますわ。ここは3手に別れて、一気にやるべきですわ」
セシリアさんが、そう言い出しました。
今回の作戦の肝は、奇襲なのだとセシリアさんは力説します。
もし結界の破壊を企んでいることがバレれば、あっという間に防衛を強化されることでしょう。
同時に3箇所叩くことで、成功率が高まるとセシリアさんは説明します。
「た、たしかに……。でも、1人ずつで大丈夫でしょうか?」
テロリスト役の生徒は、何人いるか分かりません。
一対多の状態で、一方的に魔導具を撃ち込まれれば厳しいのでは……、と不安に思う私でしたが、
「大丈夫ですわ。ワタクシも、エリンさんも、あなたと一緒に修羅場をくぐり抜けてますわ――少しは信じて下さいまし!」
「はい、任せて下さい!」
セシリアさんたちに、グッと力強く頷かれてしまい、
「分かりました、私も皆さんのことを信じます。やりましょう!」
私は、そう答えるのでした。





