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フィアナ、飛び出す

「その銃、もうちょっと工夫したほうが良いですよ。そんなにずっと突きつけられたら、細工し放題ですからね」

「は?」


 私の言葉に、ギョッと銃に視線を落とすのでした。


 注意が逸れたのは一瞬――けれども隙としては、それで十分でした。



「だいたい手を縛ったぐらいで、動きを封じたつもりですか?」


 私は、呆気に取られるテロリスト生徒2人に襲いかかります。


 私は軽やかにステップを踏んで、そのままリーダーの後ろに周り込みます。

 勢いそのままに、頭に回し蹴りを叩き込み、1瞬で男の意識を刈り取りました。


「くそっ、ふざけやがって!」

「あっ! 今、その銃を使ったら――」


 リーダーを倒され、男は焦ったのか引き金に手をかけます。

 私は、静止しようとしましたが……、


 バーン!

 銃弾の出入り口が詰まり、爆発する魔法銃。



「だ、だから言ったのに!」


 そう言いながらも距離を詰め、私は容赦なく男の顎に掌底を打ち込みました。

 脳を揺さぶられ、大の字で気絶するテロリスト役の生徒たち。


(ここで覆面を剥ぐのは、マナー違反なんでしょうね)


 自由(テストからの解放)を求めて戦っていた熱い思いは忘れません――でもそれはそうとして、あまりにもクオリティが稚拙すぎました。

 サクッと2人を気絶させた私は、


「これから、どうしましょう」


 とりあえず手の縄を解き、私は状況の把握に努めます。


 どうやら彼らが口にした魔封じの結界は、本当に効果を発揮しているようです。

 意識を集中しても、たしかに魔法の発動が阻害されている感触はあり、


「なるほど、厄介ですね――」


 効力を発揮するのは、あらかじめ用意していた魔導具のみ。


 そんな高価な品を持ち込むほど、このストライキは本気ということでしょう。

 ふと教室の中を見渡せば、散らばった試験用紙が視界に入ってしまい、


(今を楽しみましょう。私も被害者側で、テロリストごっこを続けます!)


 そして願わくは、このまま有耶無耶になってテストが無くなりますように!

 そんなよこしまな願いを抱きつつ、私は教室を飛び出すのでした。




【セシリアサイド】


 金髪の少女――セシリアは、魔法銃を突きつけられたクラスメイトたちとともに、体育館に歩かされていた。

 クラスメイトたちは恐怖で震えており、その表情は一様に暗い。


 突如、テロリストに学校が占拠される緊急事態――もちろんエリシュアン学園の創立以来、初めてのことである。



 そもそも純粋培養の貴族たちは、荒事に耐性のない者のほうが多い。

 冒険者として逞しく活動しているエリンやフィアナは、ごくごく少数派なのだ。


 そんな訳でセシリア以外の殆どの生徒は、反抗など考えるはずもなく、感情の抜け落ちた機械のようにテロリストたちの命令に従っていたのである。

 そんな状況でセシリアとエリンは、ひっそりとテロリストたちの死角に潜り込み、


「エリンさん、聞こえてますわね?」

「はい、セシリア様」


 そう言葉を交わし合っていた。


「相手の人数は3人。全員で一斉に襲いかかれば――」

「それも難しいと思います。皆が怯えきってますし、私たちは丸腰で魔法も使えません。一方的に攻撃されれば、手も足も出ないかと――」


 ヒソヒソと囁きを交わす2人。


「フィアナさんを助けに行くんですか? それなら私たちにも協力させて下さい」

「私たちは、フィアナさんに恩があります。まさか、自分を犠牲にするような選択を取るなんて――このままなんて、絶対に許せません!」

「勿論ですわ!」


 そう協力を申し出たのは、セシリア派の2人――ヘレナとマーガレットだ。


 セシリアに心酔している2人であるが、敬愛する主人を助けられたことにより、密かにフィアナに恩返しする機会を伺っていたのである。

 そう囁きあっていた少女たちであるが、


「おい、コソコソと何をしている?」


 その動きを訝しんだ1人の男が、そう声をかけた。


「そ、それは――」

「トイレに行きたくて……」


 ここは任せて欲しいと目配せするヘレナ。


「な!? 何を呑気な!」

「少しぐらい我慢しろ!」

「そ、そんなこと言われましても――」


 ヘレナは困ったように目を泳がせ、


「それとも、ここで漏らせと言いますの?」

「最低、随分といい趣味をしてらっしゃいますのね」


 目に涙を溜めながら、哀れみを誘うような声でそんなことを言うヘレナ。

 更には相方のマーガレットが、すかさずそう追い打ちする。


 その場の雰囲気が、微妙に変化する――すなわちヘレナを哀れみ、テロリストの男を責めるようなものへと。

 少しでもテロリストの男が警戒していれば、魔法銃をもう1度発砲し、威圧して空気を引き締めにかかっただろう。

 しかし男は、そうしなかった――流されていたのもあるし、ここまで何の障害もなく学園を制圧できていたので、油断しきっていたのだ。


「くそっ、仕方ないな。おい、誰かこいつをトイレに連れて行け」


 結局、男はそう決断する。

 すなわち3人しか居なかった見張り係を、さらに2つに分けるという失態を。


「呑気な奴め。早く済ませろよ」

「面目ありませんわ」


 そう言いながら、ヘレナは見張りに連れられていく。


「グッジョブですわ、ヘレナさん!」


 セシリアは、内心で喝采を送る。


 これで残るのは、たった2人の見張りのみ。

 ようやく訪れた反撃のチャンス。

 タイミングとしては、今しかないという絶好の好機に、




「ねえ、面白いことしてるじゃない」


 そこに声をかける少女が居た――名はアレシアナ。

 いつものように眠そうな目をしながらも、その瞳は、警戒するようにセシリアたちを睨んでおり、


「何をするつもり?」

「そちらこそ……、何のつもりですの?」


 セシリアは、堅い声でそう聞き返す。

 この状況で、アレシアナのこの落ち着きぶり――普通ではありえないのだ。


 思えば今日のアレシアナは、どこかテストが始まる前から様子がおかしかった。


 徹夜明けのような隈に、心ここにあらずといった様子の上の空の会話。

 セシリアが、なおも問い詰めようと口を開いたところで、




「何の騒ぎだ!」


 残った覆面の男が、ヒソヒソとささやきを交わすセシリアたちに気が付き声をあげる。


 チャンスは一度きり。

 それも相手が油断しきっている状況での奇襲のみ――すなわち作戦は、警戒された時点で失敗なのだ。


 セシリアが、自らの失敗に唇を噛んだとき、


「何でもないわ。持ち場に戻りなさい」

「「ハッ!」」

「!?」


 あろうことか、そう指示を出したのはアレシアナであった。

 更に信じられないことに、男2人はアレシアナに従って武器をしまうではないか。



「どういう、こと、ですの……?」

「そういうことよ」


 アレシアナは、静かにそう呟く。

 その表情は、いつものように気だるげな空気に彩られており、


「そんな――」

「そう。私は向こう側――ご愁傷さま」


 淡々と、そう言い切るアレシアナ。


 まるで今日の天気でも交わすかのような酷く軽い口調。

 クラスメイトに、今回の事件の共犯者がいたという事態――セシリアは、口をパクパクさせることしか出来なかった。

 意表を抜くアレシアナの裏切りに、クラスメイトたちも同様の反応をもらす。


「何だよ。このタイミングでバラすのかよ」

「仕方ないでしょう。あなたたちがあまりにも隙だらけで――そのまま放っておいたら、制圧されてたでしょう」


 アレシアナは、無表情のままそう吐き捨てる。

 そのまま覆面男たちの傍まで移動し、



「――ほら、やっぱり隙だらけ」


 こぼれ落ちたのは、そんな言葉。


 その瞬間、何が起きたか正確に把握できた者は居ないだろう。

 セシリアの目に見えたのは、アレシアナの手から黒い鞭が現れたところだけだ。

 その鞭を素早く振るい、アレシアナは男の銃を弾き飛ばす。


 それと同時に、地面から黒い鎖が何本も現れ――、


「なっ、おまえ!? 何のつもりだ!?」

「見ての通り。私だって、いつまでもただの駒でいるつもりはない――生徒が、クラスメイトを守ろうとするのは当然でしょう」


 アレシアナは、テロリストの男をまたたく間に縛り上げていく。

 その動きには一切の躊躇がなく――セシリアは、ただ呆気に取られまま一連の戦いを見ていることしか出来なかった。

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