フィアナ、贈り物を交換する
その後も、私たちは王都の中を散策します。
様々な人が行き交う中、
「あっちの方から良い匂いがしますね!」
漂ってくる懐かしい匂いに負け、私は屋台にスーッと吸い込まれるように向かいます。
(焼きたてのクレープ──懐かしい匂いです!)
それは王都にたどり着いた直後に、私が食べたクレープの匂いでした。
ふんわり漂う甘い匂いに導かれた私は、やがて見覚えのある屋台に辿り着きました。
「あ、あなたは!」
「えへへ、お久しぶりです!」
「驚いた。まさか本当にエリシュアンに受かるなんてねぇ」
「えへへ、運が良かったんです! お姉さん、クレープを3つお願いします!」
そんな雑談を交わしながら、私は出来たてのクレープを受け取ります。
相変わらずフルーツたっぷりで、生クリームもほどよい甘さで最高の逸品です。
「もぐもぐ、2人も1緒にどうですか? ここのお店、とってもオススメで──って、あれぇ?」
私は、後ろを振り返り、
(あっ……)
ようやく2人が付いてきていないことに気がつきます。
(しまったぁぁぁ!)
(食べ物の匂いに釣られて、はぐれちゃいました!)
サァッと青ざめる私を見て、クレープ屋のお姉さんは苦笑します。
こんな時に携帯電話でも持っていれば便利なのですが、当然、そんな高度な魔導具を持ち歩いているはずもなくあるはずもなく、
(どうしましょう!?)
途方に暮れる私です。
皆、王都での迷子には、どう対処しているのでしょう。
(こ、こうなったら拡声魔法を使って、大声で呼びかけてみましょうか)
(それとも片っ端から、聞いて回る?)
そう混乱する私の脳裏に、迷子になったらその場から動かず待ってなさい……なんて、エルシャお母さんの言葉が蘇りました。
とりあえずクレープを抱えたまま、その場で現状維持を選んだ私の元に、
「フィアナちゃん!」
「ようやく見つけましたわ!」
数分経った頃、エリンちゃんたちが息を切らしてやって来ます。
「あ、シャドウローセのクレープ!」
「まさか本当に、食べものに釣られてたなんて──」
呆れ顔で、セシリアさんがそう呟きます。
一方のエリンちゃんは、ちょっぴり視線がクレープに吸い込まれており、
「はい。2人の分!」
「わあっ!」
「ありがとうございます。……って、そうじゃなくて! いきなり王都で、消えないで下さいまし!」
能天気に笑う私を見て、セシリアさんはプリプリと怒るのでした。
「うっ、ごめんなさい。2人とも、どうやってここまで?」
「ふふん。エリシュアンの魔王を見かけなかったか、と、聞いて回ったんですわ!」
「うっ、聞きたくなかった真実です。王都の皆さんまで!?」
いよいよ深刻なレベルで、私の噂が広まっているみたいですね!?
私は、真顔になりつつ、
「そういえば、王都では迷子になったりしたらどうしてるんですか?」
迷子センターみたいなものがある訳では無いでしょうし──私は、そう首を傾げます。
「はぐれないのが何よりですが……、そうですわね。まずは衛兵の詰め所を覗きに行くのが良いでしょうか」
「なるほど……」
セシリアさんが、そう答えたところで、
「迷子――せっかくなので、位置把握の魔道具を贈り合いませんか?」
エリンちゃんが、そんなことを言い出しました。
「位置把握の魔道具、ですの?」
「はい。互いにマナを通した魔道具を送り合うことで、互いの居場所が分かるんです」
「便利そうですわね!」
「1つ持っておくと、すごく便利らしいです。これでフィアナちゃんが、食べものに釣られてどこか行っちゃっても、すぐに見つけられますね!」
「何で私が、すぐ迷子になる想定なんですか!?」
前科があるから、まったく反論できません!
でも、良いアイディアな気がします。
迷子のことは置いておくとしても、
(アクセサリを選んで、お互いに送り合うなんて──最高に青春してます。素敵です!)
「良いですね、やりましょう!!」
「うわっ、妙に食い付いてきますわね!?」
目を輝かせる私に、引き気味のセシリアさん。
「「「クレープ、美味しかったです(わ〜〜)!!」」」
「またのご利用をお待ちしております。後、フィアナちゃんは、食べ物の匂いに釣られて迷子にならないようにならないように!」
「お姉さんまでッ!」
ヒラヒラとクレープ屋のお姉さんに手を振りながら、私たちはアクセサリ屋に向かって歩き出すのでした。
※※※
クレープ屋を離れた私たちは、商業通りにある魔導具ショップを訪れていました。
「今日は、何がご入用ですか?」
「はい! お友達と送り合うために、アクセサリを買いたいです!」
"友達"を強調してアピールする私。
言葉にするだけで、なんとも素敵なシチュエーションなのです。
「エリシュアンの生徒さんたちですね。なら、こちらのブランドはいかがでしょう?」
そう言いながら店員さんは、私たちをブローチの前まで案内してくれました。
カラフルなアクセサリで、エリシュアンのオシャレな制服に付けてもバッチリ似合いそうです。
パッと目を輝かせる私たちですが、
「ふえぇ、金貨480枚……」
(そんなにあれば、クレープ食べ放題です!)
前世換算、400万円超え──高級車が買えそうな値段ですね!?
私とエリンちゃんは、アカン……、という気持ちで顔を見合わせます。
「高価な魔道具は、それぐらいするものですわ。……ワタクシたちには、逆立ちしても手が出ませんわね――」
スパっと見切りを付けるのは、庶民系お嬢様ことセシリアさん。
「て、店員さん! このお店で、1番安いアクセサリは──」
「こちらにあるプロトシリーズが金貨40枚ほどで、それが1番お求めやすくなっているかと――」
「「「お邪魔しました──」」」
……撤退!
金貨がポンポン飛び交う王都、怖いです!!
意気消沈したまま店を出ようとした私たちを見て、
「も、もし施術を自分たちで出来るなら、格安で譲るってことも──」
店員が、そんな事を言ってきました。
「施術を自分たちで? そんなのドワーフの国に留学して、長年の修練を積んだ専門家ぐらいしか出来ないじゃないですの。いくらフィアナさんでも──」
「魔法陣を刻むアレですよね? 少しは出来ますけど……」
「あ、出来るんですわね──」
遠い目をするセシリアさん。
その後、店員さんがアクセサリの原材料を持ってきてくれました。
今度は、冒険者として活動していた時の報酬で、ギリギリ支払えるぐらいの値段であり、
「これとかどうですか、エリンちゃん?」
私たちは、早速アクセサリの物色を始めます。
私が選んだのは、エリンちゃんの深翠の瞳にそっくりの色合いをした水精霊の装飾具でした。
花より団子を地で行く私なので、センスの欠片もないと思うのですが、
「わあ! フィアナちゃんが選んでくれたやつなら、どんなものでも嬉しいです!」
「フィアナさん、ワタクシも。ワタクシも選んで欲しいのですわ!」
セシリアさんが、ずいずいと私の服を引っ張ります。
じーっと期待した目で見つめられ、
「セシリアさんには……、これとかどうでしょう?」
私が手に取ったのは、妖精をかたどった碧色の装飾具──陽気で突拍子もない感じが、セシリアさんのイメージにピッタリなのです。
「ありがとうございますわ! 一生、大切にしますわ!」
「えへへ、大袈裟ですよ。えっと、2人からも──」
そうして最後は、私が選んでもらう番。
エリンちゃんとセシリアさんは、あーでもない、こーでもないと言い合いながら、商品を吟味していました。やがて、1つを手に取ると、
「フィアナちゃんは、私にとっての太陽ですから」
「あなたとの出会いに感謝を。フィアナさんのおかげで、ワタクシたちの人生は変わりましたわ」
選ばれたのは、太陽をモチーフとした装飾具でした。
(それを言うなら──私もです)
エリンちゃんが居なければ、私は未だにぼっち道を歩んでいたかもしれません。
セシリアさんが居なければ、貴族という存在に偏見を持ったままだったことでしょう。
「そうだ! せっかくなので、つけ合いっこしましょう!」
「いいですわね!」
「なら、フィアナちゃんのブローチは、私が付けます」
「いいえ、ここはお世話になってるワタクシが!」
そんなひと悶着もありながら、
(お友達と、放課後の街歩き──最高です!)
王都での1日が過ぎていくのでした。
そうして日が沈みはじめた頃、
「……あれ? 何か、忘れてませんこと?」
「あ、テスト勉強──」
ポンと手を打つ私たち。
静かな沈黙が広がり――私は、ずるずる引きずられるように宿に連れて行かれ、
「直前にジタバタしても結果は変わりません。人生、諦めが肝要だと思うんです!」
「明日は1日、みっちりとお勉強です(わ)!」
「ヒィィィィ!」
深夜の宿に響き渡るは私の悲鳴。
そうしてテスト前最後の週末は、どたばたと進んでいくのでした。





