暗躍する者たち-1
翌日。
私たちは、順調にチェックポイントを通過しながら移動していました。
お昼を過ぎて、そろそろ昼休憩に入ろうかという頃、
「あ、セシリアさん!」
「フィアナさん!」
私は、セシリアさんチームと合流します。
どうやら向こうは、私たちとは逆回りにチェックポイントを巡っているようです。
「その……、食事はどうしてますの?」
「モンスターを狩って食べてます。せっかくお泊りに来たんです、やっぱり保存食なんて味気ないですよね」
おずおずとそんなことを聞いてくるセシリアさんに、私はそう返します。
その言葉に、セシリアさんのチームメンバーは、何とも言い難い顔をしていました――いったい、どうしたのでしょう。
「――心配して損しましたわ」
「?」
苦笑いするセシリアさん。
「魔石は、どれぐらい集まったんですの?」
「えへへ、こんな感じです!」
私は、キラキラ輝く魔石をセシリアさんに見せます。
集まった個数は、全部で7つ――これは、かなりの好成績のはずです。
「も、もうそんなに集めましたの?」
「途中からは、モンスターを避けるのを辞めたんです。片っ端から倒してしまった方が、効率が良いですしね」
「人数の不利をものともしない――それでこそフィアナさんですわ」
セシリアさんは、呆れたようにため息をつきます。
「そちらは、どんな感じですか?」
「こちらで集まったのは、これぐらいですわね――」
セシリアさんが見せてくれたのは、きらりと輝く1つの魔石。
チェックポイントを巡る速度としては、だいたい同じぐらいでしょうか。
魔石の個数を考えれば、今のところはこちらが有利と言ってもいいでしょう。
「それじゃあ、残りの日程も頑張りましょう!」
「ええ、お互いに健闘を祈りますわ!」
そう握手を交わして、解散する私とセシリアさんなのでした。
【セシリアサイド】
「多少は無理をしないと勝てませんわね」
フィアナと別れ、セシリアはそう小声で呟いた。
可能な限りモンスターとの交戦を避けながら、ハイペースにチェックポイントを巡ってきたセシリアチーム。
チェックポイントをさっさと巡り終え、余った時間で魔石集めに注力するという作戦を立てていたのだが――、
「このままでは、取り返しの付かない差になりますわね」
このペースでフィアナが魔石を集めるなら、こちらも魔石を集めながら移動しないととても巻き返せないような差を付けられてしまいそうだった。
かといって今のチームで、そんな高等プレーが出来るかと言うと怪しいところでもあり、
「買収、しますか?」
「そうですね。バカ正直に張り合う必要はありませんわ」
「馬鹿なこと言わないでくださいまし! ワタクシは正々堂々フィアナさんに勝って、派閥入りを認めさせるんですわ!」
セシリアは、ふざけたことを言い出すカトリーナたちを一喝する。
決して曲げられない部分というのは、誰にでもあるもので――そういうズルい生き方だけはしたくないと、セシリアは決めていたのだ。
「あなたたちも、それでいいんですの?」
「そうです。このままじゃあ負け戦ですわ。派閥の話だってそう――このままローズウッドに付いたところで、何も得るものはありませんよ?」
カトリーナたちは、あろうことかヘレナたちにそんなことを囁き始めるではないか。
「あなたたち……、まさか最初からそれを狙って――」
セシリアは、思わず息を飲む。
実際、彼女には何もかもがうまく行っていないような焦りはあった。
1年も学園に通っておきながら、何1つとして結果を出せていないからだ。
このままでは、学園一の派閥を作ることなど夢の夢。
メンバーを繋ぎ止めておくことなど不可能。
「もう本音を言っても良いのよ。ヘレナ、マーガレット今ならルナシア様が、モンタージュの名において、あなたたちを保護してくださるわ。決して悪いようにはならない」
「そうそう。駄目な主人は、捨てるに限るものよ?」
謳うように言うカトリーナとレイラ。
別に引き抜きが成るかどうかには興味がない――ただ、それを口にすることで、セシリア派に亀裂を入れることが目的なのだろう。
ギリリ、と唇を噛むセシリアに対して、
「結構です。私は、セシリアさまに付いていくと決めたので」
「その通りです。そういう正直なところが、セシリアさまの魅力ですから!」
ヘレナたちは、迷うこともなくそう返す。
その揺るがない視線を見て、
「交渉は決裂。後悔しても知らないわよ」
そんな捨て台詞を吐くカトリーナたちに、
「天下のモンタージュ派が、随分とワタクシたちにご執心のようで。なにか特別な理由でもありますの?」
セシリアは、意地悪くそう聞き返す。
「いいえ、なんて人聞きの悪い。私たちは騙されているように見えた可哀想な生徒を善意で救いに来ただけですわ」
「ええ。思い上がりも甚だしいですわね」
カトリーナたちは、苦虫を噛み潰したような顔でそんな反応を返すのみ。
それ以降、彼女たちは何か口を開こうとすることはなく、
「ありがとう、ヘレナもマーガレットも。だからこそ甘えてばかりはいられない――いい加減、結果を出さないといけませんわね」
一方、セシリアは何かを決意して。
――それぞれの思いを抱えたまま、森の中でのスロベニア課外演習は進んでいく。
***
2日日目の夜。
チェックポイント近くのキャンプ地で、
「ヤバいわね」
「まさかセシリア・ローズウッドが、あそこまで配下の心を掴んでいたなんて――」
ひそひそとささやきを交わす者がいた――カトリーナとレイラ。
セシリア派を内部から崩すために送り込まれた生徒たちである。
「あんな奴の何がいいのやら」
「まったくですね。極めて非効率――こんな時間までモンスターを狩り続けるなんて。貴族らしい優雅さのカケラもありませんわ」
セシリアたち3人は、少しでも魔石を集めるためにとモンスターを狩りに行っていた。
カトリーナたちは、キャンプ番を任せられた形である。
彼女たちにも己の成績がある以上、表立っての妨害はできないだろうというセシリアの判断であった。
その時、レイラの持つ黒水晶が光りだした。
「そっちの調子はどう?」
「はっ、申し訳ございません、アレシアナ様」
「ちょっと。私の名前は出さないでって、いつも言ってるでしょう」
「申し訳ございません」
水晶から聞こえてくる声に、レイラは怯えた様子を見せる。
通話の相手――それはモンタージュ派のNO.2であるアレシアナであった。
「……で、状況は?」
「内部分断に失敗してしまいまして――ですが、お任せ下さい。必ずや今回の演習で、セシリア・ローズウッドを再起不能に追い込んでみせますので」
「そう。なら……、あの方から伝言よ。例の作戦を遂行せよ――心配しないでも、後始末はこっちでやっておくわ」
「ほ、本気なのですか?」
「なに、まだビビってるの? しっかりしてよ。失敗したら、私まで罰を受けるんだから――」
そう釘を指し、通話を切るアレシアナ。
通話が切れた水晶を握りしめたまま、レイラはいつまでもブルブルと震えており、
「レイラ、アレシアナ様は何て?」
「例の作戦は決行。目障りなあいつを――ここで確実に殺る」
「そう…………」
レイラが抱えていたのは、何かの卵だ。
闇の魔力でどす黒く染め上げられたそれは、今にも孵化しそうに蠢いていた。





