フィアナ、拉致される
学園生活にも慣れてきたある日のこと。
私、フィアナは――唐突に何者かによって、拉致されていました。
「!?」
拉致、されかけて、いました!
(いやいや、どういうことですか!?)
(何があったんですか!?)
さすがに混乱する私です。
それは放課後、エリンちゃんとの待ち合わせ場所に向かっていた時のことです。
廊下で待ち伏せをされた私は、目眩ましの魔法を不意打ちで喰らい、気がつけばロープでぐるぐる巻きにされていました。
さらには厳重に目隠しをされ、今はどこかの建物の中を歩かされています。
白昼堂々、学内で誘拐事件とは――極めて由々しき事態ですね!
(まあ、なんでこんなに落ち着いているかというと)
(相手の正体が、分かっているからなんですが――)
大人しくされるがままになっているのは、相手に見覚えがあったからです。
仮面を被って正体を隠そうとしていたようですが、残念ながら魔力の波形は誤魔化せません。
その正体は、セシリアさんと共に行動している少女2人です。
(ふふん、甘いですね)
(まさか目隠しを付けたぐらいで、私から情報を遮断できるとでも?)
幻影魔法に対抗するため、ルナミリアで身につけたテクニックのひとつ――私は周りのマナを探ることで、だいたい周囲の状況を探ることができます。
そうして辿り着いた先は、貴族寮(偉い貴族の人たちが泊まっている宿舎)の中にある、ちょっと広めの部屋でした。
私は、そのまま椅子に座らされ、
「フィアナさん、あなたはセシリアさまの派閥に入るべきですわ」
「そうですわ。セシリアさまが、あんなにも気にかけて下さっているのに――いったい、何が不満だというんですの?」
そんな言葉を、投げかけられました。
「えっと……、ヘレナさんにマーガレットさんですね?」
「ゲホッゲホッ」
むせる2人。
「いえいえいえいえ、わたしたちはセシリアさまの派閥とは関係なくてですね」
「そんなことより、あなた、状況分かってるの? ここには誰も来ないわ。この状況で私たちに逆らったら、どうなると――」
2人は、私に杖を突きつけてきます。
(はあ……)
(まさかセシリアさんが、こんな強引な手に出るなんて……)
思わずため息をつく私。
最近は、おかしな勝負を仕掛けられるばかりで、すっかり油断していました。
この件は、セシリアさんの差し金なのでしょうか。
「えいっ!」
私は勢いよく立ち上がると、するりとロープから抜け出します。
「なっ!? 座りなさい。無駄な抵抗はやめて――」
「う、嘘っ!? いつの間にか縄が解けてる!?」
「縄は、結ばれるときに工夫すれば、簡単に解けるんですよ? さあ、そっちこそ痛い目に遭いたくなければ、降参して下さい!」
一瞬で形成逆転。
私は2人から杖を奪い取り、テキパキと縄で縛り上げます。
一応、他に刺客が居ないことを確認し、ふうとひと息吐いたところで、
「ヘレナさん、マーガレットさん、今から作戦会議を――」
セシリアさんが、ひょこりと顔を覗かせました。
「あれ? なんでここにフィアナさんが――」
「ついに来ましたね、すべての黒幕! セシリアさん、お覚悟~!」
「って、ぇええええええ!?」
私は呆気にとられる――フリをしている?――セシリアさんに飛びかかり、
「ごめんなさい!」
「ぎゃふん!」
拘束魔法を使って、縛り上げます。
その間、わずか十秒。
「セシリアさん、今回はさすがにやり過ぎだと思います。たしかに常在戦場の心構えは大切ですが、学内で攫うのは反則です」
「学内で、攫う……? フィアナさん、あなたは、いったい何をおっしゃってますの?」
セシリアさんは、恨めしそうな顔でこちらを見てきます。
その顔には、本気で困惑の色が浮かんでおり、
(演技だったら大したものですが……)
「セシリアさん、何か申し開きはありますか?」
「ワタクシからすると、フィアナさんが闇討ちに来たとしか思えない状態なのですが……」
「あれぇ……?」
「どうやらワタクシたち、じっくりと話し合う必要がありそうですわね――」
ようやく互いの行き違いに気がつくのでした。
かくかくしかじか。
事情を説明する私とセシリアさん。
「お2人とも馬鹿なんですの!? 馬鹿なんですの~!?」
「「ヒーン、セシリアさま。ごめんなさい~!!」」
涙目で謝罪するセシリア派の少女たち。
今回の件は、セシリアさんにとっては寝耳に水だったそうです。派閥の少女たちの完全なる暴走ということで――、
「ワタクシの失態ですわ。派閥をコントロールできていないなんて、あるまじき事態――まさかこんな形で、フィアナさんに迷惑かけることになるなんて……」
セシリアさんは、しゅんとした様子で項垂れます。
貴族と平民の平等を謳うエリシュアン学園で、生徒を攫って無理矢理要求を通そうとした――その事実だけ見れば、実行犯の2人は謹慎処分が妥当な重い事態だそうで、
「まあまあ。私は無事ですし、お2人もセシリアさまのことを思ってしたことなので、大目に見てあげてください」
「「フィアナさん……!」」
目をうるうるさせる少女たち。
「お2人とも、フィアナさんの寛大な心に感謝なさい。まったく、本当に――誰を見て育ったら、こんなことをしでかすのやら――」
「派閥のリーダーじゃないですかね……」
「なんですの?」
きょとんとするセシリアさん。
「まあまあスリリングで楽しかったですよ。普通に生きてれば誘拐なんてされることありませんし、1回ぐらいは経験しておいて損はないですよね!」
「もう、フィアナさんは優しすぎますわ」
心の底から申し訳なさそうに、セシリアさんはひら謝り。それでも最後に、そう苦笑してくれたところで……、
「それでは失礼します。また明日」
「はい、また明日!」
そう声をかけて、私はセシリアさんの部室を後にするのでした。
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