フィアナ、パーティーを組む
冒険者ギルドに戻る道すがら、
「フィアナの姉御! お荷物、お持ちします!」
モヒカン3人衆が1人――最年少のサブロウが、恭しく私に頭を下げてきます。
ちなみに3馬鹿モヒカンたちは、タロウ・ジロウ・サブロウと、とても覚えやすい名前をしていました。
「あ、ありがとう」
仕方なくカバンを渡す私。
まるでパシリ……、やっぱり友達とは程遠いのです。
「あ、フィアナちゃん。無事だったんだね!」
受付嬢の元に向かうと、随分と心配していたのか、そう嬉しそうに声をかけられました。
「はい、こうして戦ってCランクとして認めてもらいました!」
「ヒャッハー! 姉御は世界最強。いずれはSランク入り間違いなし!」
「……マジ? Cランク3人相手に勝っちゃったの!?」
受付嬢は、あんぐりと口を開けていましたが、
「はい、これがCランクの冒険者ライセンス!」
「ありがとうございます!」
立派な装飾が施されたカードを、手渡してくれました。
(これが念願の冒険者ライセンス!)
(これでいよいよ、パーティーを組めます!)
私が、ニコニコと渡されたピカピカ輝くカードを眺めていると……、
「エリン! おまえのような役たたずは我がパーティーに必要ない。よっておまえは追放だ!!」
「そんな……! いきなり、困ります」
そんな言い争いが、耳に入ってきました。
その片方の少女の声には、なぜだか聞き覚えがあり……、
「まったく! 特進クラスの人間なら、どんな活躍をしてくれるかと思えば──とんだ貧乏くじじゃねえか」
「ま、まだ魔法は使えませんが、これでも――」
「へんっ、おまえなんか杖を棍棒みたいに振り回すのが関の山だろう」
「うぅ……」
深々と下げられたライトブルーの髪。
背中に不釣り合いに大きな杖を背負った少女は……、
「エリン……、ちゃん」
「フィアナちゃん?」
授業中に居眠りした私を、遠慮がちに起こしてくれる天使――エリンちゃんでした。
***
冒険者ギルドで、偶然、私が出くわしたのはエリシュアンの生徒たち。
とはいえエリンちゃん以外の生徒に見覚えはありません。
私が、まじまじと彼らのことを見ていると……、
「こ、こいつは――魔王!?」
「なんで!?」
男子生徒の1人が、ギョッとした様子でそんなことを呟きました。
ちょっぴりショックです。
「フィアナちゃん、どうしてここに?」
「えっと……、冒険者になりたいなって」
思わぬ再会に驚いていると、エリンちゃんがそんなことを聞いてきました。
まさか友達が欲しくて、とも答えられず私は言葉を濁します。
「エリンちゃんは?」
「私は――早く魔法を使えるようにならないといけないから」
ぎゅっと杖を握りしめながら、エリンちゃんは表情を曇らせます。
(エリンちゃん……、随分と授業でも悩んでたよね)
(どうにかして、力になりたいけど――)
唯一、特進クラスで魔法を発動できず居心地悪そうにしていたエリンちゃん。
話を聞くと、冒険者としても『マジシャン』クラスとして登録しながら魔法を使えないという現状に、とても困っているようで……、
(そうだ! これなら一石二鳥!)
良いことを思いついた、と私はポンと手を叩き、
「ねえ、エリンちゃん。そのパーティーを辞めたらソロですか?」
「えっと……、はい」
おずおずと頷くエリンちゃんに、
「なら、私とパーティー組みましょう!」
善は急げです。
私は、笑顔でそうエリンちゃんを誘います。
(もしパーティーを組めれば、1緒に何度も死線をくぐり抜けて、そのうち固い友情が芽生える――可能性も!)
「え……?」
私がそう言うと、エリンちゃんは目をまん丸にして驚き、
「それは……、願ってもない話ですが――私でいいんですか?」
「もちろんです!! エリンちゃんがいいんです」
これは、夢に向かっての大いなる第一歩!
私はエリンちゃんの手を掴み、ぶんぶんと振り回します。
無邪気に喜ぶ私をよそに、エリンちゃんはあわあわと困惑していました。
そんな様子が面白くなかったのか、パーティーリーダーの男が、
「止めとけ止めとけ。無能のエリンなんかと組んだら、せっかくの才能が台無しだぞ」
そんなことを言い出しました。
「もし冒険者として活動していくなら、仲間はちゃんと選んだ方がいい。例えば──俺たちのパーティーとかな」
そう言いながら、自信満々で己を指差すリーダーの男。
聞いてもいないことをペラペラを喋り、更には勧誘までしてきたので、
「エリンちゃんが無能者って。どういう意味ですか?」
ムッとした私は、パシッと差し出された手をはたき落としました。
「なっ、正気か!?」
断られると思っていなかったのでしょう。
男は、驚いた様子でこちらを見ると、
「俺たちのパーティーは、エリシュアンの中では第19位の上位ライセンス持ちで──」
「知りませんよ、そんなの。言いたいことは、それだけですか?」
怒りの籠もった私の視線を受け、一瞬、リーダーの男は怯んだようでしたが、
「な、何をそんなに怒ってんだ。役立たずを役立たずと言って何が悪い――そんな奴と組むメリットなんて、何もないだろう」
「あなたがエリンちゃんの何を知ってるんですか」
男の心無い言葉に、自分でも驚くほどに冷たい声が出ました。
「エリンちゃんは、編入生の私にも優しくしてくれました。それに誰よりも才能に溢れていて、それでいて努力家で――エリンちゃんは役立たずなんかじゃありません」
「何を馬鹿なことを――」
「何より、私が、エリンちゃんとパーティーを組みたいと思ったんです。それ以上の理由が必要ですか?」
意固地になり、尚もそう言い募る相手に、
「あぁぁあん? 姉御が、立ち去れって言ってるんだ。さっさと消えろ!」
「ヒャッハー! 姉御に逆らうやつは、皆殺しだぁぁぁ!」
「ヒィィィィ、3馬鹿モヒカン!?」
「「「あんだと!!?」」」
いきり立って凄む自称舎弟のモヒカンの皆さん。
(どこの世紀末ですか……!)
「すみません。話がややこしくなるので、黙って頂けると――」
「「「…………すみませんでした!!」」」
私がたしなめると、スン……と黙り込み、またしても神速で土下座を決めるのでした。
「すげぇ、もう3馬鹿モヒカンを完全に従えてるよ」
「あれが――エリシュアンの魔王!」
「俺……、蔑んだ目で踏まれたい──」
「ひ、人聞きの悪いこと言わないで下さい! ほら、タロウさんたちも立って下さい!?」
広がる噂が不穏過ぎます!
(……って、あぁぁああ!? なんかエリンちゃんに恥ずかしいところ見せちゃった!)
(姉御呼びって!? 姉御呼びって!)
恐る恐るエリンちゃんの方を見て、
(――って、なんかすごい目をキラキラさせてこっちを見てるぅぅう!?)
無邪気にニコニコ笑ってるエリンちゃん、可愛いです(現実逃避)
「こほん」
軽く咳払い。
私は、いまだに納得いかなそうな相手を見て、
「そもそもエリンちゃんは、凄腕の魔法使いの卵ですよ」
そう宣言します。
「はぁ? そんな訳が――」
「やれやれ、分かりました。そこまで言うなら……、私がエリンちゃんの実力を見せつけてあげますよ!」
「…………え!?」
その言葉に驚いたのは、エリンちゃん本人でした。
「いや、そんな……、私は――」
あたふたした様子で、エリンちゃんは言葉にならない言葉を紡ぐのみ。
光魔法への適性――それだけでオンリーワンといって良い才能です。
さらには第五冠の大魔法が発動できる直前まで極めつつあるのです。
まだエリンちゃんは、自分の魔法の使い方に気がついていないだけです。
その才能は、他と比較できないオンリーワンのもので……、
「大丈夫です、エリンちゃんには間違いなく魔法の才能があります」
「そんなこと――」
「私が保証します。エリンちゃんの持ってる力は、間違いなく人の役に立つものです──だから少しだけ信じてあげて下さい。ね?」
光属性――ルナミリアに流れ着いた元聖女・ナリアさんが操るのと同じマナです。
かつては聖女と呼ばれ、あまたの奇跡をおこしてきた力です。
極めた先にある可能性は、計り知れません。
冗談抜きに世界を変える可能性だってあるのです。
「そこまで言って下さるなら――」
私の言葉に、エリンちゃんはおずおずと、
「もう少しだけ、信じてみます」
それでも強い意思を持って頷いたところで……、
「――というわけで善は急げです。エリンちゃん、せっかくですし今日はこのままクエストに向かいましょう!」
「ぇえええ!?」
私はエリンちゃんの手を掴んだまま、勢いよく駆け出すのでした。
――目的地も知らぬまま!





