フィアナ、挨拶でやらかす
私――フィアナは、無事、エリシュアン学園に入学することになりました。
今日は、待ちに待ったクラスメイトとの顔合わせ。
私を特進クラスに案内するのは、担任の先生であり――戦闘課を担当するティナ先生です。
ちなみにエリュシオン学園は、12歳から入学する5年制の学校でした。
最初の2年は基礎工程となっており、3年次から自分で興味のある学課を選び、専門的な授業を受けることになるそうです。
13歳の私は、第2学年に編入という形になります。
「フィアナさん、あのマティを改心させるなんて。いったい、どんな魔法を使ったの?」
移動中、ティナ先生が不思議そうに私に聞いてきました。
「改心って……、いったい何かあったんですか?」
「それが……、帰ってきてからは、一流の才能は健康な肉体に宿るって。トレーニングメニューまで自作して、いつになく活き活きと授業の準備をしていて――あまりの変わりように、最初は頭を打ったのかと……」
「よ、良いことじゃないですか?」
「まあ、そうなんだけどね」
(び、微妙に心当たりがあるような無いような――)
私は、笑みを浮かべて受け流すのでした。
そんなことを話していると、ティナ先生が教室の前で立ち止まり、
「それじゃあフィアナさん、準備はいい?」
「はい! 準備バッチリです!」
私たちが扉を開けると、
(ふわっ!?)
すでに生徒たちは席に付き、私たちを待っていた様子。
一斉に向けられる好奇心に満ちた、視線、視線、視線。
(わぁ! 同年代の子どもがいっぱい!)
これぞ夢にまで見た学校の風景。
私が、ジーンと感動の涙を流していると、
「今日から一緒に学びを共にするフィアナさんです。それではフィアナさん、さっそく自己紹介をお願いします!」
ティナ先生が、そう促してきました。
(ついに練習成果を見せる時です!)
転入生に訪れる自己紹介イベントの重要性は、前世で見たアニメや映画で、嫌というほどに学んでいます。
ここで小粋なジョークを挟んで笑いを取れれば、一気にクラスの人気ものに近づけるというものです。
私は、グッと気合いを入れて、
「フィアナです! こうして学園に入ることが出来て嬉しいです!」
まずは無難に。
頭をぺこりと下げると、
「可愛い~!」
「お人形さんみたい~!」
「こんなちっちゃな子が、本当にいびりのマティをぶちのめしたの?」
「ぶちのめしてませんよ!?」
概ね好評。
最後のよろしくない噂は、即効で修正しておきます。
「好きなものは新鮮なドラゴンの丸焼きです――あ……、でもこの辺だと採るのが難しいって聞きました。もし狩りに行く人は、是非誘って下さいね」
「「「…………?」」」
好感触だった自己紹介はそこまで。
続く私の言葉で、教室には深い沈黙が訪れました。
(あ、あれぇ?)
食べ物の話題は万国共通。
ついでにお出かけの予定まで作れそうな、最高の自己紹介だと思ったのですが、
「じょ、冗談だよね?」
「そりゃそうだよな! ドラゴンなんて魔界にしか生息してないバケモノの丸焼きなんて……、まさかな」
「あははー、フィアナちゃん、面白いね――」
じわじわ教室内に広がる微妙な空気。
(むむむ……、自己紹介難しいです!)
私が眉をひそめていると、
「ハイ、ハイ!」
「あなたは、あの時の!」
勢いよく手を上げたのは、金色碧眼の可愛らしい少女――私を寮まで案内してくれたセシリアさんでした。
(まさか同じクラスになれるなんて……。心強いです!)
「質問ですわ! フィアナさまの趣味を教えて下さいまし!」
仕切り直しするような質問に私は、
「趣味は――模擬戦です!」
「「「ヒィィ――(フルボッコにされるぅ!)」」」
「え、えっと……。他の趣味は?」
「狩りです!」
笑顔のままピシリと固まるセシリアさん。
またしても広がる深い沈黙。
私が、助けるようにティナ先生に視線を送ると、
「はい、自己紹介タイムはここまで! フィアナさんの席は――エリンさんの隣が空いてますね」
「はい」
ササッと空気を切り替えるように手を叩き、話を次に進めてくれました。
私は、とぼとぼと席に向かい、
「こ、こんにちはー……」
「ん」
隣の席のエリンちゃんに軽く会釈。
向こうも軽く会釈を返してくれました――優しい。
(うぅ。学園生活……、難しいです)
(それでも、この試練を乗り越えて――いつの日にか友達を作ります!)
私は、改めてそんな決意とともに席に座るのでした。
***
「それでは、今日も元気に1日頑張りましょう!」
そうして訪れた休み時間ですが、
「誰か話しかけに行けよ。待ちに待った可愛い女の子だぞ(ヒソヒソ)」
「でも……、話しかけたら模擬戦でミンチにされそうだし(ヒソヒソ)」
「ドラゴンと戦うことになるかも――(ヒソヒソ)」
(大変です! 学園デビュー、大失敗です!)
(なんかずっと、遠巻きに見られてます。ショックです!!)
転入生を取り囲んで質問攻め……、みたいな前世のアニメで見た素敵イベントは発生せず。
誰もが遠巻きに、私の方をチラチラと見ています。
頼みの綱である隣席のエリンちゃんは、華麗に寝たフリを決め込んでいました。
(ぐぬぬぬ、私の完璧な計画では今頃クラスで人気ものになっていたはずなのに!)
そんな私のもとに颯爽と歩いてくる少女が数名。
その先頭にたっていたのは、唯一の顔なじみであるセシリアさん。
彼女は私の席の前まで歩いてくると、フサァッと金色の髪をかきあげ不思議なポーズを決めながら、
「お~っほっほっほ! フィアナさん、あなたに私の派閥に入る権利を差し上げますわ!」
そんな恐ろしいことを言い出しました!
「セシリアさま、なんでいきなりそんな言い方を⁉(ヒソヒソ)」
「だ、だって頼れる派閥のリーダーって、こんな感じじゃありませんの?(ヒソヒソ)」
「それ、どちらかというと、ただの嫌味な貴族そのものかと……(ヒソヒソ)」
何やらヒソヒソとささやきを交わすセシリアさんたちを前に、
(派閥~!? 派閥、駄目ゼッタイ!)
私は涙目になります。
派閥――それはルナミリアで、口を酸っぱくして言われたタブーワードでした!
「は、派閥は絶対に嫌です!」
「なんでですの~!?」
ギャーと悲鳴を上げ、私は全力で断るのでした。





