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007 テニエの贈り物

 来賓の方々はバルコニーまで贈り物を持参し、直接陛下へと挨拶をする。各国から贈られる物は様々で、街の人々の関心も高く、見学スペースは人で溢れかえっていた。


 リシャール様とロベールが現れると歓声が上がり、女性達の色めきだった声の中に、ちらほら焚き火王子などといった、昨夜のロベールを揶揄する声も聞こえ、リシャール様が笑いを堪えている姿が印象的だ。でも、ロベールは気づいていない様子だけれど。


 神獣様とノエルは、ロベールの隣に立つクラルテの後ろに控え、私はその後方で、リシャール様の護衛の方と待機状態だ。

 ノエルや神獣様と少しだけ距離があり、護衛の方はリシャール様といつも一緒にいる方だけれど、言葉を交わしたこともなく少し不安だった。

 順に挨拶へ来る他国の使者達に護衛の方は私に向かってこっそりと愚痴を漏らした。


「あぁ。また姫君の紹介ですよ」

「姫君?」

「リシャール様は婚約者がいらっしゃらないのです。成すべきことをしてからだと仰って」

「そうですか。では、今日を境に婚約者選びが進みそうですね」

「左様で。――あっ。次ですね。危険な場合は私が盾となりますので、ご遠慮なさらぬように」

「はい」


 護衛の方は、私の不安を察して話しかけてくれたみたいで、彼のお陰で緊張が解れた。

 次がテニエの番だそうだけれど、前の人で見えなかったので、ちょっと背伸びするとネージュが見えた。でも私は、その隣りにいる獣人の女性に驚いて二度見してしまった。

 ネージュの隣には黒い猫耳付きの雅さんが贈り物の箱を抱えて立っていたからだ。


「陛下。本日は誠におめでとうございます。テニエは――」

「神獣の巫女、なのだろう? テニエは異世界から召喚した神獣の巫女を見つけたと聞いているぞ」


 ネージュの言葉を遮ぎり自信満々に口を挟んだロベールに、陛下は鋭い眼差しで尋ねた。


「ほぉ。ロベール、それは真か?」

「へ? はい。父上、いえ、陛下!」


 ロベールは自分に聞き返されるとは思っていなかったのだろう。慌てて国王に言葉を返し、ネージュと国王、両者に睨まれている。


「そうか。ネージュよ。ロベールはそう申しておるが真か?」

「いえ。テニエが見つけたのは、神獣の巫女の持ち物です」

「持ち物だと?」

「ナーヤ」

「はい。こちらです」


 ナーヤと呼ばれた雅さんが箱を開くと、中から手のひらサイズの黒い電卓が現れた。 


「な、なんだ。それは?」

「陛下。こちらは自動計算機になります」

「ジドウケイサンキ?」

「はい。この様に数字を押して……」


 雅さんが電卓の実演を始めると、国王は身を乗り出し興味津々なご様子だ。電卓はソーラーパネルだから電池もいらないし、乱暴にさえしなければ長く使えるだろう。さすが雅さんチョイス。


「おおっ! 素晴らしい贈り物だ。そして、テニエの者の知恵にも感動したぞ。この様な奇妙な道具を扱えるとは大したものだ!」 

「お褒めに預かり光栄にございます。これは、私の幼馴染であるナーヤが、浜で見つけたものになります。彼女は聡明で思慮深く、私が将来の伴侶にと望む女性なのです」

「む? ネージュはトルシュのクラルテと婚約を結んでいるのではなかったか?」

「はい。ですが解消することにしたのです。彼女は神獣の巫女の役目がありますから、テニエに骨を埋めることなど出来ないのです」

「そうか。よい判断だ」


 国王はネージュの話を聞くと、ロベールの隣に立つクラルテへと目を向けた。


「陛下。ワタクシもそれで良いと思っていますの。ネージュ様ではワタクシに不釣り合いですから。だってネージュ様は盗人なのですから」


 クラルテが兵に目配せすると、兵は見慣れたものを運んできた。それは私のスーツケースだった。


「実は、ワタクシ達は巫女の所持品を持っていますの。トルシュの浜辺で見つけたこれを、ワタクシは巫女に返してあげたくて、ずっと持っていたのです」

「ほぅ。では、ネージュはその鞄からジドウケイサンキを盗んだというのか?」

「そうに違いありませんわ。それに、テニエは本当は、もう一つ嘘をつこうとしていました。自分達が本物の巫女を見つけたと、陛下を騙すつもりでいたのです」

「それが真なら、なぜ騙すことをやめたのだ?」

「おそらく、それを盗む際に見てしまったのでしょう。ワタクシ達が見つけた、本物の巫女を」


 クラルテの指示で、私は護衛の方に手を引かれクラルテの前まで連れて行かれ、国王へ頭を下げたままの体制で留まった。


「この子が異世界から来た神獣の巫女ですわ。実はワタクシ、この子に……」

「父上。実はクラルテは、この小娘に神獣の力を奪われてしまったのです!」


 クラルテが言い淀むと、ロベールが力強く口添えした。


「奪われただと? 今朝、神獣の力を借りて広場の騒動を落ち着かせたのではなかったのか?」

「そ、そうです。その後に、疲れていらした神獣様を甘い言葉で誘惑し、心優しきクラルテを騙して指輪を奪い取ったのです!」





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