022 城下町
城下町は出店がずらりと並んでいて、あちこちから美味しそうな香りが流れてくる。
私は今、神獣様とおそろいの金髪碧眼の装いをしている。
クラルテに似ているので神獣様の魔法で変装したのだ。
自分の顔を鏡で見た時はなんだコイツって感じだったけれど、神獣様も同じ色合いで髪と眼の色を変えられたので、私の事なんかどうでも良くなった。
色変した神獣様が似合い過ぎていて悶絶中です。
綺麗すぎて逆に目立つんじゃないかとハラハラしたけど、城下は色々な国の人で溢れていて割りと馴染んでいた。強いて言えば、猫耳を気にしてフードを被ったままのノエルが一番目立っている。テニエでもこういった祭典のときに出店が並ぶらしく、懐かしくてはしゃいでいるのだ。
私達を半ば強引に城下へと送り出したリシャール様は、今、アレクとゼクス、そしてカインさんを部屋に招き話し合いをしている。
一生人々の目に焼き付いて離れない最高の舞台を作る為の相談だと言っていたので、何を企んでいるのか少し不安だけど、あのロイさんなら周りの人々の為にしようとしていることなのだろうから信用はしている。
私は神獣の指輪に視線を落とした。指輪には、五つ目の宝石エメラルドが煌々と輝いている。
ロベールの計画を神獣様から聞いたリシャール様は、弟を潰しに行くと言って部屋を出る際、私に尋ねた。
「アカリ様は、必ず異世界の扉を開くと約束してくれますか?」
「はい。絶対に」
私の返事にリシャール様は微笑むと、それと同時に指輪と友好証が輝いた。そして、五つ目のエメラルドは輝きを得て、神獣様の尾羽根には翠色が追加された。
だから、後はノエルだけだから頑張りなさい。とリシャール様に背中を押されて城下へと放り出されたのだ。
「おいっ。アカリ、向こうでワタアメ売ってるぞ!」
「まだ食べるの?」
「あれは、お祭りの時しか食べれないんだ」
「でも、いくらなんでも……」
振り返ると、ほぼ荷物持ちと化した神獣様と目が合った。
お肉とか野菜の串焼きと、焼きそばっぽいけどスパイシーな香りのする麺料理、それから砂糖のかかったひとくち揚げパンが沢山入った紙袋に、変な木彫りの人形の置物も抱えて、楽しそうに微笑んでいる。
「いいじゃないか。私も初めてなんだ」
「そうですね」
「お前に知って欲しいんだ。この世界のこと。まだまだ見せたいものが沢山ある。だから……今日が終わる前に、早く行くぞ」
「うん」
ノエルは私が頷くとこちらをチラッと見て、目が合うと気不味そうにサッと視線を前へ向け、甘い香りがする方へと足を伸ばした。
ただのお祭好きなのかと思ったけれど、ちょっと違ったみたい。
早足のノエルを見失わないように小走りで追いかけているとネージュの使い魔を連れたミヤビさんと再会した。私達はどちらからともなく、互いの無事が分かると泣きながら抱き合って喜んだ。
◇◇
日が落ちるまで祭りを楽しんで城へ戻ると、リシャール様は私の指輪を見て不満そうに独り言をつぶやき、ノエルをまたロベールの見張りにつくように指示を出していた。
カインさんはミヤビさんのところに行ったらしく、アレクとゼクスは私が戻るのを部屋で待っていてくれたそうだ。
神獣様は疲れたと言って鳥に姿を変え、窓辺のクッションの上で休んでいる。
そして私はゼクスの一言により、乙女ゲーム『トルシュの灯』についてアレク達に教えることになった。
千年前、初めてこの世界に神獣様が召喚された時の話と五十年前の話が混ざったような世界設定と登場キャラを聞き、意外と興味津々といった様子で皆聞いてくれた。
悪役王女の話をすると、クラルテそのままだと言ってアレクは頭を抱えてしまい、リシャール様は何か面白いことでも思いついたような顔で、コソコソと神獣様に耳打ちするとアレク達へ言った。
「よし。そろそろお開きとしよう。案内をつけますのでアレク殿達は客室のある棟へお戻りください。アカリ様と神獣様は二階の客室へ」
「ここでは駄目か?」
「ロベールはともかく、クラルテが感づく可能性は捨てきれませんから。戻ってください」
「それもそうだな。姉様は誰も信用しない人だからな。明日は陛下との狩りの約束があるから、午後、またお邪魔してもいいか?」
「明日は、お姉様のお相手でもしてあげたらどうです? アレク殿が何もしてこないとなると、疑いそうですし、アカリ様について探りを入れてきてください」
リシャール様の提案に、アレクは同意しながらもあからさまに肩を落としていた。
「確かに。あー、でも会いたくないなぁ」
「アレク様、疑われない為にも頑張りましょう。私もお供しますから」
「アレク、よろしくね!」
「……分かりましたよ。でも――」
ゼクスと私に励まされ背中をシャンと伸ばしたアレクだけど、私を見ると言葉を濁し、リシャール様がからかう様にアレクに尋ねた。
「でも?」
「なんでもありません。失礼します」
「あっ。アレク様っ。……アカリ様、また後日」
「はい。またね」
アレクの後を追うようにしてゼクスも部屋を後にすると、リシャール様は私に問いかけた。
「また。ですか。……あと何回それが言えますかね」
「えっ? あ、そうね」
「アレクは、五十年前のトルシュの王子のようにはならないと思いますか?」
「なるわけ無いでしょう? アレクは分かってくれているもの。アレクの気持ちは変わってない」
神獣の指輪が蒼色の光を放った時、アレクは私に好きにしていいって言ってくれた。
だから、アウイナイトが光を失わない限り、きっと。




