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016 尾行(アレク・ノエル視点)

 まさか姉様がロベールを利用していたとは思っていなかった。アカリを自分の中にいると偽れば皆が言うことを聞くとでも思っているのか。だとしても、姉様の性格なら表になど出ず過ごすことの方を選ぶだろうに、巫女になろうとしているのはなぜだろうか。


 姉様なら――。

 

 姉様のことを考えると、人を馬鹿にし見下したような顔を思い出し、苛々が募った。


「くそっ。アカリを探さなくては。まさか姉様がロベールの糞と繋がっていたとは……」

「あの。一体何がどうなっているのでしょうか?」

「さっきのあれはゼクスの知る神獣様の巫女ではなく、ただのトルシュの第一王女クラルテ=トルシュなんです」

「……ん?」


 ゼクスは姉様とは初対面だ。

 説明し辛いことではあるが、丁寧に話す余裕はない。

 それはノエルも同じだったのか、差し迫った様子で口を開いた。


「説明は後だ。あの女、異世界の巫女を消すようにロベールに指示を出していたぞ」

「ノエル。使い魔に姉様を見張らせることは出来ませんか?」

「まだ使えない」

「でも、紫の仔猫がいるって……。もしかして」


 寝室ではいつも使い魔と同じだと聞いていた。  

 ノエルは俯き頭を掻きむしると想像通りの答えを返した。


「ああ。それはオレだ」

「ほぉー。詳しく聞かせてもらえますか?」 

 

 ◇◇


 取り敢えず見失いたくないからと言い訳して、オレは獣型に関する話を反らし王女の後をつけようとしたが、ゼクスに引き止められた。


 ゼクスは先ず、アレクにアカリについて説明を求めた。

 ゼクスは勿論アカリについて知っているのかと思っていたが、何も知らなかったようだ。

 意外にもオレと同じだった。

 ただ、ゼクスは全く驚いていなかったけれど。

 呼び方には困るが、巫女様が巫女様であるとこには変わらないって、サラッと受け入れていた。


 それから、オレに目眩ましの魔法をかけてくれて仔猫の姿を人から感知されにくくしてくれた。オレに魔法をかけることで、俺の場所もゼクスには分かるらしい。

 若干呪い寄りの魔法だから、早く神獣様を見つけて症状を軽くしてもらうと良いという助言付きだった。だだし、居場所が分からなくなると困るから、完全には解かないようにと念を押された。


 王女とロベールには直ぐ追いつくことができた。ロベールの香水が臭いからだ。よくよく考えてみると、あのクラルテからも同じ匂いが微かにしていた。恐らくアレクの言う通り、この二人は前々から繋がってるのだ。


 三人は広い客室へ入るとソファーに腰掛けお茶を嗜み始めた。レナーテは紅茶を一口飲むと、ロベールへと笑顔を向けた。やっぱりこいつもグルな訳か。


「ロベール様。上手く行ってよかったですわね」

「ああ。これも全てレナーテが私とクラルテとの仲を取り持ってくれたお陰だよ」

「そうね。レナーテが召喚の儀にロベールを招いたことが全ての始まりですもの。本当はトルシュで引き篭もろうかと思っていましたけど、ヴェルディエの方が美味しいものも沢山あって幸せですわ」

「そうでしょ? トルシュだと、アレクにバレてしまう可能性もありましたから。でも、お姉様が入れ替わりなんてなさるから、ネージュ様の隣にはあの女がいたのよ。せめてそうなさるなら一言仰ってくだされば良かったのに」


 入れ替わったことは知らなかったんだな。

 ってか、今の言葉で、あいつがどこかにいるってのは確定だな。


「ふふっ。あの子がワタクシに似ていたから、面白そうだと思って。レナーテも巫女なんてやらずに済んで良かったでしょう? その方がネージュに嫁ぎやすいかと思ったのよ」

「お姉様。私のことを考えてくださっていたのですね。此度の件も私のためですか?」

「まあね。この間、レナーテがヴェルディエに来た時、あの身代わりのせいで酷く疲れていたから、ワタクシは自分に戻ろうと決意しましたのよ」

 

 レナーテの為か。誰かの為に何て言葉が、微塵も似合わない目をしているのにな。

 ロベールも王女の言葉に嫌味な笑みを浮かべていた。


「おや? 私と結婚したいから、クラルテの名を取り戻そうと思ったのではなかったのか?」

「まぁ。そうなのですか?」

「別に……。でも、正式にロベールの妻になってあげるつもりよ。面倒なパーティーや外交は身代わりを使おうと思っていたけれど……アレクの態度を見て、消すことに決めたわ」

「ええ。それがよろしいかと。身代わりの癖に、身の程も弁えずやりたい放題でしたから。やはり異世界の巫女は危険な存在ですわ」


 レナーテは嬉しそうにあいつを消すことに賛同し、その横でロベールは頷き、ハッと何かを思い出し口を開いた。


「そう言えば、ネージュが見つけた異世界の巫女とは何だったのだろうな? 偽物確定ではあるが」

「ヴェルディエ国王の前で処刑し、お姉様……といいますか、あの身代わりを本物の巫女にするのだと仰っていましたわ」

「馬鹿な奴よね。偽物なのに」


 全身の毛が逆立つ。兄者までもを好き放題言われ、この場で大人しく聞き耳を立てているのに限界を感じた。


「お姉様っ。ネージュ様を悪く言わないでっ」

「でも気付いたみたいね。異世界の巫女が偽物だって。あの仔猫が解放するとか話していたのを聞いたわ。――そうだわ。いい事を思いついたわ!」

「おおっ! どんな名案かね?」

「ネージュが何て言い訳するか分からないけれど、ワタクシ達が本物を見つけたことを明かしましょう。それで、ネージュは偽物を掴まされたことを露呈させて、無能なあいつとは婚約破棄。ワタクシはロベールと婚約し、傷心のネージュをレナーテが慰めてあげればいいわ」


 駄目だ。これ以上聞いていたら耳が腐る。

 しかし、相手の手の内を知りたいし、知らねばならない。

 

「ふーん。まぁ、悪くないかもしれないわ。それで、どうやって本物だと明かすの?」

「本物って言い方は鼻につくわね。あの子には、私の偽物で盗人の罪を着せてあげるわ。でも、直ぐに消すつもりだったけれど、皆の前で処刑した方が面白そうね」

「おぉ。さすがクラルテ! 名案だ!」


 ロベールが喜ぶと、王女は胸元から薬包を取り出した。


「ロベール。後でお食事にこれを混ぜておいて。高熱が出る薬よ。あの子にも苦しんで貰わなくちゃ」

「分かった。菓子に混ぜておくよ」


 ロベールは王女から薬包を受け取ると、前は急げとばかりに意気揚々と部屋を後にした。

 兄者を愚弄し尚且つあいつにまで……。

 オレはあいつの居場所を突き止める為にロベールの後を追った。


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