005 最高の目覚め
硬めのレーズンパンとミルクスープを夕食にいただいた。
食べながら、あれこれ考えてしまった。
どうしてこうなったとか、飛行機で自分はどうなってしまったのかとか、なんで悪役王女なのだろうか、とか。
燿の事が気がかりだけれど、聖地巡礼どころか現地に来ちゃってるなんて知ったら、きっと……笑われちゃうんだろうな。私、昔から方向音痴だったから。また迷子か、って言われそう。
まぁ、それもこれも、どうせ考えても、どうにもならないのだから、細かい事は気にせず、この現状を楽しむことにしよう。
でも、夕食は美味しかったけれど、量が少なかった。目覚めたばかりだから気を遣ってくれたのかもしれないけれど、ベッドに入った瞬間に、お腹の虫がなり始めていた。私自身、大食いではないけれど、あの量は足りないかも。
それとも、王女が食いしん坊設定だから空いてしまうのか。
兎に角、お腹が空いて寝付けなかった。
ベッドの上でゴロゴロしていると、扉の向こうから話し声が聞こえた。
「クラルテ様はお休みにございます」
「まさか、記憶喪失だなんて。目覚めれば巫女について何か分かるかと思っていたのに。お顔だけでも見たいわ」
「はい。どうぞ」
ダンテさんと、可愛らしい少女の声だ。
会話が終わると扉が開き、誰かが入ってくる気配がして、私はつい寝たフリをした。
足音が近づくと共に、甘い花のような香りが部屋に広がり、ベッドの横で誰かが足を止めた。
「記憶喪失? ふざけないでよ。全部私がお膳立てしてあげたのに……。あんたの顔なんか、二度と見たくなかったわ」
憎しみのこもった掠れた声で吐露すると、少女は扉の方へと歩いて行った。薄目を開けてこっそりとその背を見やるが、ローブを着ていて、背が低いことしかわからなかった。
誰よ~。怖いんですけど。
クラルテ王女は誰かに恨まれているの?
勘弁してよ。折角やる気になったところなのに。
でも、ダンテさんが普通に部屋に通す相手ってことは、身内的な人物かも。まぁ、親戚に嫌われるのは慣れているか。
「はぁ……」
小さくため息をついた時、部屋の隅でオレンジ色の光が仄かに揺らめいた。台座の上で神獣のたまごが光っている。
「綺麗だな。でも、巫女が見つからないと、生まれないわよね」
巫女に会うのは怖いけれど、早く神獣様に会いたい。
だから、巫女が見つかることを、私は切に願う。
◇◇◇◇
「……ん? ミケ?」
布団の中に温かくてモフい毛玉を感じた。
久しぶりのこの感覚。最高の目覚めだわ。
曾祖母の家には、三毛猫のミケがいる。
ミケはいつも、起きるのが遅い人の布団に潜り込む。今日は私か。
布団の中を手探りでミケを見つけて、撫で回してから抱き寄せた。いつもよりスベスベしていて気持ちいいんだけど、なんか違う。
小さいし、耳が無い?
耳が無くて、手のひらに収まりきらないくらいの大きさのモフモフって……。
私はハッと目を見開き、ベッドの天蓋を見て思い出した。聖地に来ちゃってたんだった。
じゃあ。このシーツの中のモフモフは――。
私は自分に都合のいい妄想を膨らませた。
巫女がいないと有り得ないのに、もしかしたらもしかするんじゃないかって……。
違っていたらちょっと立ち直れないかもってぐらい期待しちゃってる自分がいる。
取り敢えず一度、逸る気持ちを抑えて――と思ったけどやっぱり抑えられなくて、私は白いシーツを勢いよくめくり上げた。
白いベッドには、真っ白でズンぐりとした小鳥がいた。夢にまで見た白銀の雛鳥は丸々とした体型で、何とも言えない神々しさと可愛さが入り交じっている。
私はすぐに部屋の隅のたまごへ目をやった。
割れている。と言うことは、やっぱりこの御身は――。
「……キュピ?」
琥珀色のまん丸お目々をパチクリさせて、私を見上げる白銀の丸い小鳥様。
間違いない。
この子は私の推し、神獣フェニックスの雛だ。
推しはベッドの上でコロンと転がり私の手にすり寄って来た。まるで私を親だとでも思っているかの様に自然に。
「ぅおぅっ!? ……可愛すぎる」
やばい。……鼻血出たわ。




