020 攻略(ミヤビ視点)
「ああ。お前は異世界から来た。その世界の繋がりが俺にとっての脅威であり、決して消えることのない悪である証だ」
この男、ネージュ=テニエって言っていたけれど、アカリちゃんの言う通り、まるで孤高の支配者ってキャラね。一筋縄ではいかないって感じ。
でも、それでこそ攻略のし甲斐がある。
「そう。王女様は、私のことを逃してくれると言ったの。巫女の力もない。なんの価値もない私なら、二度とトルシュの地を踏まず、王女様の前に現れないと約束するなら、いなかったものとしてくれるって」
「居なかった者か……みじめだな」
「それでいいの。その方がいい。召喚なんて初めから失敗だったことにすればいいのよ。異世界の巫女は呼べず、でも、神獣は目覚め王女が巫女に選ばれた。だから無価値な私に巫女なんて名前を付けなくていい。それではダメ?」
「何を言おうと、お前には服従か処刑しか道はない」
「……」
うーん、駄目か。でも意外と言葉を返してくれるから、話の通じない奴ではないことは分かった。
それなら、時間をかければ落とせるかも。
いや、落とすって言葉には語弊がある。
分かり合えるって言葉の方が正しいかも。
「もう牢へ戻れ。お前が俺に従う気がないことは分かった」
「従う気はないけれど、逆らう気もないわ。それに、私は貴方の事が全く分からないままだから、もう少し話したい」
「俺と……話がしたい?」
「ええ。なにか変?」
「…………ああ。変だ。トルシュの王女も可笑しな奴だが、お前も引けを取らないほど可笑しい奴だ」
おお。やっと少しだけ感情を見せてくれた。
テニエといえばツンデレ猫王子。その属性も持ってるのかな。
「そう。貴方は……見た目より優しそうな人ね」
「……なっ」
「殺すと言いながら生きる道を与えようとしている。やっぱり、貴方となら別の道を探せる気がするわ。貴方はどんな未来が欲しくて、私を処刑しようとするの? 私となら、もっと貴方の理想に近い未来を見いだせるかもしれないわよ」
ネージュは初めて私から視線を外して、しばらく考えてから口を開いた。
「お前、名前は何というのだ?」
「私? 私はイガラシ・ミヤビ。貴方の名前は知っているけど、聞いてもいい?」
「……俺はネージュ=テニエだ」
「ネージュでいい?」
「お前……。様ぐらい付けろ」
あ、様って付ければ名前で呼んでも良いみたい。
威圧感もちょっとだけ緩んだ。
「じゃぁ、ネージュ様。私の世界に伝わるトルシュの話をしてもいい? もしかしたら、別の視点から、理想の未来が見えるかもしれないわ」
「……暇つぶしに聞いてやる。さっさと話せ」
ネージュは椅子に腰を下ろし瞳を閉じると、耳だけこちらへと傾けた。




