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006 神獣研究家の誘い

「ロベール……? ヴェルディエの第二王子様のことですか?」

「あっ。つい呼び捨てにしてしまいました。国民からロベールは嫌われていまして、誰も王子とは呼びませんので」

「そうなのですね」


 私ですら敬称で呼んでもらえるのに呼び捨てだなんて、相当な駄目王子の様だ。ロベール王子はクラルテの恋人という話があったが、実際はどうなのだろう。意外とお似合いカップルだったのかもしれない。私には頭の痛い話だけれど。


「トルシュのアレク様は巫女を保護しようとされていますよね。ロベールはそのような考えですが、国王と第一王子はアレク様に近い考えをお持ちです」

「近いとは、どのようなお考えなのですか?」

「巫女を、異世界に帰したいと思っています」

「えっ? で、でも、そんな事をしたら、神獣様はどうなるのですか?」


 私の動揺を察したのか、ロイさんは暫し無言の後、私へ改めて確認するように尋ねた。


「神獣様が大切ですか?」

「はい」

「貴女に巫女としてどの程度の力があるのかは分かりませんが……。神獣様のためなら、神獣様が望むのであれば、神獣様と未来を別つことはできますか?」

「未来を別つ。……それは、神獣様の未来を閉ざすという意味ですか? それなら、私は嫌です。神獣様の望みだとしても絶対に認めません」


 また五十年前を繰り返すなんておかしい。

 神獣様を氷漬けにするなんて絶対に嫌だ。

 感情に任せて強い口調で言葉を発したら、ロイさんは俯き、肩を震わせたかと思うと、大きな口を開けて笑い出した。


「ふっ。はははっ。そうですか」

「ど、どうして笑っているのですか!?」

「すみません。少し試したかったのです。貴女の巫女や神獣様に対しての考えを知っておきたかったのです。因みに、巫女を異世界に戻すことについては、どうお考えですか? 巫女が帰りたいって言ったら。貴女はどうしますか?」

「それは……」


 瞳を閉じると、燿の顔が浮かんだ。もしも自分だったら、もしも帰れる選択があるのなら。私だったら……。


「帰りたい。巫女がそう望むなら叶えてあげたい。でも、神獣様に害が及ぶならば、策を考えなければなりません」

「ははっ。巫女様は、常に神獣様が一番なのですか?」

「はい。私の推しですから」

「おし?」

「あ、えっと。心の支えといいますか。居るだけで元気になれる存在なんです」

「それは……最高の存在ですね」


 ロイさんは笑顔で肯定し、それから私にある提案をした。


「巫女様。ヴェルディエに一度いらっしゃいませんか?」

「ヴェルディエに?」

「友好の証はヴェルディエにもあるのですよ。神獣様の成長には不可欠ですからね。私も一度だけ、頼み込んで見せていただいたこともあるんです」


 だから確実にヴェルディエに存在します。とロイさんは自信満々で胸を張って言った。



 ◇◇◇◇


 ヴェルディエに向かう件をアレクに相談したら、一度アレクがヴェルディエへ足を運ぶことになった。ヴェルディエの支援についての御礼と、父であるトルシュ王へ現在の報告と今後についての話をするついでに、神獣の巫女と友好の証についてヴェルディエの動向を探ってくるそうだ。

 

 即行動派のアレクは、二日後、レナーテとゼクスを連れヴェルディエへ向かった。


 アレク不在の間も、各地に散っていた人々はどんどんトルシュに帰ってきてくれた。みんな私を見ると軽蔑したような目を向けるけれど、それももう慣れてしまった。大抵数日我慢すれば、そんな目を向ける人はいなくなるからだ。


 それはロイさんのお陰である。

 ロイさん主催の街での炊き出しを手伝った日を境に、人々の私へ向ける目は一変した。


 この日はヴェルディエからの物資が届き、戻ってきた住民を歓迎する為にロイさんが腕をふるってくれることになっていた。

 ロイさんに誘われて私もダンテさんと一緒にキノコを大量に切る作業を手伝い、街のおばさん達も、大鍋を混ぜる作業の手伝いを申し出てくれて、共に作業することになった。


 そして街の人々に配り終え、余ったキノコ汁を作業を共にしたみんなで街の食堂を借りて頂いた。私と同じテーブルについたのはロイさんとダンテさんだ。


「美味しい! ロイさんってお料理上手ですね」

「切って入れて混ぜるだけは得意ですよ。沢山ありますから、お腹いっぱいになるまで召し上がってくださいね」


 お言葉に甘えてお代わりすると、食べっぷりがいいと言われ食堂のおばさんからマッシュポテトまで沢山頂いた。


「私、この国でこんなにお腹いっぱいになるまで食べたの初めてです」


 私がそう言葉を漏らすと、食堂のおばさん達の目が徐々に優しくなっていった。



 その翌日、耳の良いノエルから聞いた話だと、クラルテ王女は空腹のあまりご乱心だったのではないかとの噂が流れているらしい。

 スープを口に運ぶ王女は心から幸せそうで、ポテトひとつでお礼まで口にする慎ましやかな方だったとか。国に光が差し、食べ物が目の前にあれば根は良い方なのではないかとか。そんな感じの噂だ。 

 初めて食いしん坊設定に感謝したわ。


「食いしん坊で良かった」

「は? お前の努力の結果だろ」

「……褒めてくれたの?」

「べ、別に褒めてなんかないからな!?」

「そっ。じゃあ。街の子ども達にノエルが囲まれてても助けてあげないからね」


 ノエルは街に行くと人気者だ。大人達は睨みを利かせて近づかせないが、子どもにはそれが出来ず、行く度に囲まれている。初めは神獣様目当てで近づいてきた子ども達だったが、今やノエルの猫耳と尻尾の方に夢中である。


「そ、それは……困る」

「キュピピィ~」

「神獣様……」


 神獣様に励まされて? いや。もしかしたら冷やかされて、ノエルは私を軽く睨みながら肩を落とした。

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